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田中清隆調教師インタビュー後編

  • 2011年09月15日(木) 12時00分
桜花賞、オークスで惜敗が続いただけに、秋華賞にかける陣営の思いは強いもの。そんな大舞台に挑むプレッシャーとはどれほどのものなのか。騎手時代に所属していた野平祐二厩舎で、印象的な経験をされたとか。

◆シンボリルドルフの重圧

赤見 :秋華賞は最後の一冠ということで、期待とプレッシャーはさらに高まると思うのですが、そういう大きな一戦に挑む前の心境というのはいかがですか?

田中 :うーん、やはり人気にもよりますよね。人気がなければ本当に気楽でね。ただ「GIだ」という程度でそれほど緊張もなくて、普段のレースとほとんど変わりないです。でもやはりGIで人気になると、悪い方を考えたり、特にしますよね。

赤見 :悪い方を考えてしまうんですか。

田中 :ええ。「スタートでうまく出てくれるだろうか」「ペースに付いて行けるだろうか」「挟まれるんじゃないか」とかね。

赤見 :いつのタイミングで、そういうことが頭をよぎるんですか?

田中 :下見所辺りですかね。

赤見 :あっ、レースの直前なんですね。じゃあ、前の日は緊張して眠れないということは?

田中 :それは大丈夫です。むしろ厩務員とジョッキーの方が大変だと思いますよ。昔、私が(所属騎手として)野平祐二厩舎にいた時、シンボリルドルフを担当していた厩務員が菊花賞で関西に行った時に胃潰瘍になりましてね。夜中に病院に運ばれたんですから。

赤見 :えっ、そんなことがあったんですか。でも、シンボリルドルフを担当していたらそれだけのプレッシャーが。

田中 :そう。しかも三冠がかかったレースでしたからね。だから厩務員とジョッキーが、一番プレッシャーを感じるんじゃないですか?

赤見 :想像を絶するプレッシャーです。

田中 :そうですよね。調教師はジョッキーにまたがってもらったら、調教師の仕事としてはもう9割終わりですからね。

赤見 :あとはジョッキーに託して。現在のホエールキャプチャのパートナー、池添騎手の魅力はどんなふうに感じていらっしゃいますか?

田中 :ダービージョッキー(笑)。男馬のクラシックの方が先だったらね、良かったかもしれないですけれど。桜花賞、オークスより、皐月、ダービーが先というね(笑)。

赤見 :なるほど(笑)。でも、今年の池添騎手は好調ですから、頼もしいですね。そしてベテラン・蛯名厩務員とホエールキャプチャのコンビもいいですよね。見ていると、仲の良いおじいちゃんと孫というか、何か話をしている感じがします。

田中 :そうですね。馬と人間というより、人間同士の会話が出来ているようなところがありますね。

赤見 :その蛯名厩務員は、ご定年が近いそうですね。

田中 :はい。10月20日で定年ですね。

赤見 :10月20日って、秋華賞が16日だから…本当に最後の競馬ということに。それは、いろんな思いがありますね。ますますホエールキャプチャを応援したくなります。話はちょっと変わりますが、先生ご自身のことをお聞きしてもよろしいでしょうか?

田中 :私ですか? はい(笑)。

赤見 :騎手時代は名門・野平祐二厩舎にいらっしゃいましたが、騎手になった経緯がちょっと異例ですよね。信用金庫にお勤めだったと。珍しい転身ですよね。

田中 :まあね(笑)。たまたま上司が競馬好きな人でね。最初は冗談半分で言われたんです。私も体が小さかったし、スポーツもやっていましたので、自分もだんだんその気になってきちゃって。それでこの世界に入ったんです。

赤見 :まさか本当にジョッキーになるとは、その上司も驚かれたんじゃないですか?

田中 :責任を感じたみたいですよ。自分で言った手前ね。まあ、私も入った時は考え方が甘かったんでしょうけどね。まあ最初は、大変は大変でしたよ。馬に触ったこともなかったですから。

赤見 :入った厩舎がまた、日本を代表する厩舎ですよね。

田中 :入ったのは偶然というか、運もあったんですけれどね。最初はお父さんの野平省三先生のところで弟子になって。省三先生が亡くなられて、それで息子さんの祐二先生が跡を継がれて、そのままスライドして移ったという感じです。先生は優しそうですけど、いや〜、怖かったですよ。もう、存在感から怖かったです。私生活のことまで厳しかったですよ。

赤見 :そうだったんですね。その中で、いろんなことを学ばれたと思いますが。

田中 :それはありますね。それこそ、先生と併せ馬をさせてもらったり。あとは、見えないこともね。馬に携わる姿勢とか、そういうことを教えてもらったつもりでいます。

赤見 :野平先生と併せ馬!? とても貴重な経験ですね。最後になりますが、先生の今後の目標を教えてください。

田中 :私は定年までもう10年しかないので、やはり男馬のクラシックですか。皐月賞、ダービー、菊花賞、どれか1つ勝ちたいですね。

赤見 :先ほど、レディパステルはクラシックを獲らせてくれたので思い入れが強いとおっしゃっていましたが、先生にとってクラシックというのは大きいものですか?

田中 :そうですね。存在感があります。

赤見 :牡馬と牝馬では、少し目指すところが違うんですか?

田中 :違わないんですけど、うーん、何と言うかな、男馬は“鍛え上げる”っていう感じがするんです。でも、牝馬はそうじゃなくてね。“持って生まれた能力をどうやってうまく引き出してやるか”、かなと。

赤見 :そのお話すごく分かりやすいです。何かちょっと、目からうろこな感じです!

田中 :そうですか(笑)。そういうのが調教師らしい仕事かなと思うんですね。

赤見 :先生が開業されて今年で22年目。長く競馬界にいらっしゃる先生が、ホースマンとして大事にしていらっしゃることは何ですか?

田中 :やはり馬主さんの期待に応えられるような競馬をしたいということですね。

赤見 :今はちょっと、競馬界全体の売上が下がってきていて、馬主さんも減っていますけれども。

田中 :そうですね。関東馬ががんばると、馬券の売り上げも戻って来ると思いますのでね。関東馬としてがんばって行きたいと思っております。

赤見 :ホエールキャプチャは関東馬を引っ張っていく存在ですもんね。応援しています。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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