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安田隆行調教師インタビュー前編

  • 2011年09月27日(火) 12時00分
スプリンターズSに3頭の精鋭を送る絶好調の安田隆行厩舎。重賞3連勝中のカレンチャン、昨年の雪辱に燃えるダッシャーゴーゴー、悲願達成の立役者トウカイミステリー。楽しみな一戦を前に、安田調教師を直撃します。

◆他の馬を子ども扱い

:まずはカレンチャンについてお聞きしたいのですが、阪神牝馬S、函館スプリントS、キーンランドCと重賞3連勝中。夏のスプリント戦線で大暴れしましたね。

安田 :そうですね。阪神牝馬Sが初めての重賞で、「どんな競馬をするのかな」と期待半分、不安もあったんですけど、すごく強い勝ち方をしてくれました。

:阪神牝馬SからのローテーションだとヴィクトリアMが挙がると思うのですが、そこであえてスプリント路線を選ばれたのは?

安田 :脚質的に1600mはちょっと長いような気がするんですね。乗ったジョッキーもみんなそう言います。それで北海道に的を絞って「サマースプリントチャンピオンを狙おう」と。

:サマースプリントは、本当に惜しかったですよね。重賞2連勝であとは結果を待つだけでしたが、最後にセントウルS(11/9/11、阪神芝1200m)を勝ったエーシンヴァーゴウに逆転されてしまって。

安田 :そうなんですね。重賞2連勝して、「絶対獲れた」と思ったんですけれどもね。向こうはアイビスサマーD、北九州記念、セントウルSで3回出ましたからね。カレンチャンはチャンピオンも欲しかったけれども、北海道の夏は2回だけと決めていました。それ以上稼ぐ馬には勝てないと思っていましたので、残念だけれども、仕方ないなと。

:無理して使わずという。まだ本番が待っていますもんね。ちょっと話は遡りますが、カレンチャンとの出会いは何だったんですか?

安田 :これはセレクトセールなんですよ。牝馬でこの血統はおもしろいということで、オーナーに「もし良かったら見てください」と。それで買っていただきまして。そこからは牧場でも順調に行っていたんですけど、「この血統は奥手だよ」と聞いていたんですね。

:奥手と。

安田 :ええ。それで、12月の中京でデビューと思っていたら、除外になっちゃったんです。しかも、1頭だけの。で、入れそうな阪神ダートの新馬戦(09/12/26、阪神ダ1200m、2着)へ行きまして。

:それでデビュー戦がダートだったんでね。

安田 :そうです。年が明けて1月の未勝利(10/1/16、京都ダ1200m)、それもダートだったんですけれども、そこで勝ち上がってくれまして。その次が中京の萌黄賞(10/2/7、中京芝1200m)、フィリーズレビュー(10/3/14、阪神芝1400m、8着)、葵S(10/5/15、京都芝1200m、2着)を使って、北海道へ連れて行ったんですよね。

:1000万特別の潮騒特別(10/6/19、函館芝1200m)ですね。

安田 :ここは強い勝ち方をしました。「これは楽しめるな」と思って、放牧に出したんです。その時に、脚が痛くなりまして。とう骨っていう骨なんですけど、そこがチクチクし出したんですね。ここは無理はしないでおこうということで、今年1月の伏見S(11/1/23、京都芝1200m、3着)まで休ませたんです。

:7か月間は、これまでで一番長い休養になりましたね。

安田 :ええ。この休養で、馬がすごくパワーアップしたような気がするんです。精神面でも大人になりましたし。最初は馬がひ弱と言うか、頼りないところもあったんですけれどもね。

:体質的にですか?

安田 :体質的にも。熱発したり、脚元がモヤっときたり、そういうのがあったんですけど、その休みでいっぺんにたくましくなって。復帰初戦がいきなり1600万下に上がってどうなるかと思ったら、3着でしょ。そして、その後の山城S(11/2/19、京都芝1200m)も楽勝だったと。本当に強かったんですよ。

:最後の直線で、もうぐんぐん後続を突き放して。

安田 :ええ。4コーナーでスッと離して、そこからはもう、本当に楽勝で。「おいで、おいで」って、他の馬を子ども扱いしたんですよね。乗った川田(将雅)騎手も「先生、これ走ります」って言うから、「当たり前じゃないの」って(笑)。でもね、「これだったら重賞もいけるんじゃないか」って、そこで思いましたよ、本当に。

:それで阪神牝馬S(11/4/9、阪神芝1400m)に向かって。ここが1番人気でしたね。

安田 :そうですね。距離が1400mに延びたのは心配だったんですけど、本当にあの競馬は強かったですね。インでジッと辛抱して、4コーナーで前がパッと空いたら、スッと出て。直線で叩き合って、2着のアンシェルブルー、あれを負かした時は、もうね。

:「絶対抜かせないぞ」という強さがありましたよね。ここから重賞街道まっしぐらになりますが、函館スプリントSまでは間隔が3か月空いて、プラス10キロ。仕上がりが7、8分だったというも話もありましたが?

安田 :調教助手としては、もう1本追い切りが欲しかったということで。でも、蓋を開けたら強い競馬でね。レコードですもんね。あれは立派だなと思うんですよ。この馬は、インで辛抱して直線で前がパッと空いた時の瞬発力って、すごいものを持っていると思うんですよね。前走のキーンランドCはちょっとひっかかっていましたけど、そこをセーブすればね。ポジションが問題ですね。

:前走でハナに行きそうな勢いだったのは、何かあったんですか?

安田 :函館で1回競馬を使って、そのままずっと函館にいて、戦闘モードに入ったみたいです。ハミがかかっちゃって、ちょっと行き過ぎたところがあったんですね。

:そのまま2、3番手から押し切るような形になりましたね。

安田 :ええ。速いペースで、4コーナーで早めに先頭立って。正直僕は、後ろの馬に差されると思ったんですよ。「やられたな」と思ったんですけど、しのいでくれて。この馬はちょっと違うなと、自分の競馬さえできたら相当強いなと思いましたね。

:普段は大人しいということですが、競馬では気性の強さが出るんですか?

安田 :そうですね。結構そういう精神面で強いものを持っています。でも、厩なんかじゃ本当に。この馬、よく寝るんです。飼い葉を食べた後なんか横になって。あれは良いと思うんですよ、馬が自分の脚を休めるというのは。

:馬はずっと立ちっぱなしですもんね。良く食べ、良く寝るという感じですね。

安田 :そうです。良く食べ、良く寝る! そういうことを加味しても、走る要素を持っていますね。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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