今年でデビュー14年目を迎えた太宰啓介騎手。長い間追い続けた重賞タイトルをプレゼントしてくれたのは、牝馬のフミノイマージンでした。「一生記憶に残る馬」、そう語る大事な愛馬でこの秋、府中牝馬Sそしてエリザベス女王杯と牝馬の頂点を目指します。
◆14年勝てなかったのが
東 :フミノイマージンで4月の福島牝馬Sと6月のマーメイドSを優勝。人馬ともに重賞初制覇ということになりました。「この馬で重賞を獲りたい」という思いがありましたか?
太宰 :そうですね。デビューした頃から期待をしていましたからね。ただ、すごく体質が弱かったんです。それで、今年になって本格化してきたんですよね。「今年のこの調子なら、重賞もいけるな」と思っていました。
東 :フミノイマージンに最初に乗られたのが、年明け3歳、デビュー2戦目の未勝利戦(09/1/11、京都芝1600m、1着)でした。振り返っていただいて、どんな印象でしたか?
太宰 :あの時、僕が狭いところに進路を選んでしまって、結構きつい競馬になったんです。でも、牝馬なのに全然怯むこともなく、サッと入っていきました。「いい根性をしているな」と思いましたね。
東 :ゴール前で馬と馬の間を割って抜け出していきましたもんね。競馬にいって、負けん気が強いところがあるんですか?
太宰 :あの、普段から触れないんですよね(苦笑)。飛びかかってきますので。
東 :えっ、飛びかかってくるんですか!?
太宰 :そう。噛まれるんですよ。だから怖いんです(笑)。
東 :そんなに気が強いんですか。そういうところは、その頃からずっとですか?
太宰 :そうですね。昔から馬房ではなかなか顔を触らせてくれなかったですね。でも、競馬で乗る時は大人しいです。あと、普段も洗い場につなぐと大人しくなるんですけどね。
東 :そうなんですか。触られるのが嫌いなんですかね? その後、春のスイートピーS(09/5/3、東京芝1800m、4着)、GIのオークス(09/5/24、東京芝2400m、11着)で再び騎乗されました。この頃は、3歳馬の成長する時期かと思いますが?
太宰 :その頃、具合がもうひとつだったんですよ。体質が弱かったですし。あと、1回レースを走るとガタっときて。体がパンとしていなかったので、走る度に疲れが抜けにくかったんです。それを戻す調整が難しかったですね。
東 :そうだったんですね。その後骨折で、3歳の秋から丸1年の休養に入って、4歳の秋に復帰。そこからはコンスタントに使われてきているんですけれども、11月の1000万特別(10/11/20、京都芝1800m、6着)で久々に跨って、何か雰囲気の違いは感じられましたか?
太宰 :そうですね、元々乗り味はすごく良かった馬なんですけど、何と言うか、その時は体重の変動が大きかったんですよね。
東 :まだちょっと不安な面が残っていたんですか。でも確かに、このレースは前走から-14kgの462kg、その次でまた10kg減って、その後は18kg増えてと、二桁での増減が続いています。
太宰 :その辺は一番難しかった時期だと思いますね。厩務員さんも大変だったと思います。この馬に関してはやっぱり、体重の調整が一番大変でしょうね。でも、最近はすごく楽になったって言っていました。
東 :それが、今年になって本格化してきたから、ということですか?
太宰 :はい。今年の春、夏前からですかね。中山牝馬S(11/4/2、阪神芝1800m、2着)あたりから変わってきました。また、この中山牝馬Sで脚質を変えて、追い込み馬になりましたよね。小林徹弥さんが乗られたんですけど、ここからいい脚が使えるようになりました。
東 :脚質の変化は、何か理由があったんですか?
太宰 :その時に先生が「後ろからいってみよう」とおっしゃったみたいです。それで脚を溜める競馬をしたらすごくいい脚を使ったので、この戦法が合うんだなということで。
東 :それまでは好位というか、前目での競馬が多かったですが、決して前でしか競馬ができなかったというわけではなかったんですね。
太宰 :この馬はスタートが良すぎるんです。だから自然と良い位置をいつも取れていたんですね。ただ、そういう競馬をしてきて、手応えはいいんですけど、やっぱりちょっと伸びを欠くところがあったので。また、体質もまだ弱かったですしね。でも、後ろからいく競馬をしてからは、レース後のダメージが抜けるのも早くなりました。馬にとっては負担が少ないのかもしれないですね。
東 :その中山牝馬Sの次のレースが、運命の福島牝馬S(11/4/23、新潟芝1800m、1着)です。太宰騎手とのコンビは4か月ぶりでしたが、本格化して安心感を持って乗れましたか?
太宰 :実はこの時の追い切りで、ちょっと失敗してしまって…。予定よりだいぶ速くなってしまったんですよね。しかも輸送もありましたから、体重が心配で。で、競馬場で体重を聞いたら「プラスマイナス0」と言われて、そこで「勝てるな」と思いましたね。
東 :じゃあ、レース前から自信があったんですね。この時も後ろからの競馬になって、最後はメンバー最速の脚で、すごかったですね。
太宰 :そうですね。1枠1番だったんですけど、ロスなく進めて、行くところ行くところがスムーズに空いたんです。開幕週だったので前が止まらなかった時はどうかなと思ったんですけど、勝つ時というのは、意外とあっさりなものでした。
東 :駆け抜けて行く時は、あっという間という感じでしたか?
太宰 :それもありましたし、何と言うか、レース自体こんなにも楽に勝てていいのかなと思うくらい、本当に楽なレースでしたね。僕自身も14年重賞を勝てなかったのが、こんなにあっさりとでいいのかなって思いました。
東 :勝つ時って、そうやって全てがトントン拍子に進むものなのかもしれないですね。でも、長い間待ち続けた重賞勝利ですから、また特別ですよね?
太宰 :はい。やっぱり全然違いましたね。あの感動は…うん、今思い出してもやっぱりいいものですね。上がってきて厩務員さんと握手して、その時にすごく喜んでくれていたんです。そういう顔を見られるのも、僕らのやりがいの一つですね。