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太宰啓介騎手インタビュー後編

  • 2011年10月13日(木) 12時00分
今年デビュー14年目の太宰啓介騎手は、現在32歳。デビュー年から34勝を挙げる活躍で、フェアプレー賞も受賞。同期で幼馴染の池添謙一騎手と新人賞争いも繰り広げました。順調だった騎手人生の中で、ひとつの大きな壁と向かい合いました。

◆父の死を乗り越えて

:太宰騎手、今年で32歳になられたということですが、ジョッキーになるのは小さい頃からの夢だったんですか?

太宰 :夢というか、自然とですね。父が調教師だったので、物心ついた時から馬がいました。家に帰って扉一つ開けたら馬がいっぱいいたんです。だから、ジョッキーと決めていたというか、「なるもんだな」って思っていましたね。

:競馬学校に入られて、何か印象的な思い出はありますか?

太宰 :僕はもう…減量しかなかったです。

:そうなんですね。身長、高い方ですよね?

太宰 :171か2cmくらいあります。競馬学校に入る時で168cmありましたからね。だから体重オーバーばっかりしていて、辞めさせられる寸前だったんですよ。

:そこまでだったんですか。成長期に辛い思いをしながら減量されていたんですね。デビューが98年で、その年から34勝と活躍されましたね。

太宰 :そうだったんですけど、12月に怪我をして、そのまま3か月乗れなくなったんです。その時に池添君と新人賞争いをしていて、4勝差で負けたんですけど。あそこまでいったら獲りたかったです(※)。
※池添謙一騎手が38勝で、JRA賞最多勝利新人騎手を受賞した。

:うーん、それは悔しいですね。怪我さえなければ…という。

太宰 :そうですね。今まで一回も、競馬であの人に勝っていないのでね。保育園から同級生で、幼馴染なんです。ずっとあの人の方が上だったので、どこかで、何かの記録で抜きたいなと思うんですけど。あんまりもう残っていないですね。ダービーも勝ちましたしね。やっぱり、すごいですね。

:活躍されていますもんね。身長で勝っていますけどね。

太宰 :あははは(笑)。そうですね。

:でも、刺激し合えるライバルがいるって、意味がありますね。

太宰 :そうですね。あの時は、毎週毎週数字を言い合っていましたからね。「先週何個勝ったから、俺の方が何個上だ」とか。

:「今週は俺勝ったけど」、とか(笑)。本当にライバルですね。

太宰 :まあ、僕は恵まれていましたから。厩舎のバックアップもありましたし、騎乗馬もいっぱい集まりました。だから本当は、もっと勝たないといけなかったんですけど。今の若い子はそうチャンスはないですもんね。僕らの時は恵まれていました。

:05年にフリーになられたということですが、それはどうしてだったんですか?

太宰 :厩舎の人数の関係ですね。だから仕事内容は変わらなかったです。

:そうだったんですね。それで、2年後にまた厩舎所属に戻る予定でしたけれども、その時にお父様が亡くなったということもあって…その時はすごく辛い思いをされたと思うんですけど。

太宰 :そうですね。でも、病気でもう長くないなというのは分かっていたので。うん…覚悟はしていました。その前に僕は、兄が亡くなっているんですね。事故だったので、やっぱりそっちの方が辛かったです。

:そうだったんですか。

太宰 :競馬の日だったので、僕には誰も知らせないで。でも周りの調教師さんは知っているんです。「大変だな」って言われたけど、「何のことかな?」と思っていて。で、終わって電話したらその話で。だから父の時は母親に「死んでもちゃんと電話してよ」って、「内緒にしなくていいから」って言っていたんです。

:仕事をされながらそういうこともあって、気持ちの切り替えはどうされていたんですか?

太宰 :やっぱり切り替えようと思っても、その時はなかなか上手くできなかったですね。がんばって競馬に乗るくらいしかできなかったです。

:お父様の遺志を継いで、さらにこれからがんばっていこうと?

太宰 :そうですね。喜んでもらいたいと思いました。母親にも喜んでもらいたいですしね。本当、悪口を言う人がいないんですね。だからやっぱり、すごくいい父親だったんだなと思いますね。

:お父様から馬についても学ばれましたか?

太宰 :あの、こう多くを語る人ではなかったので。褒められた記憶はないですしね。怒られてばっかりでした。追い切りの時計が違って帰らされた時もありましたし、競馬の後にみんながいる前で怒鳴られたこともありましたね。

:本当に厳しかったんですね。

太宰 :結構厳しかったですね。で、周りの人にはすごく優しいんですよね。

:競馬の厳しさを分かっているからこそ。

太宰 :そうなんでしょうね。若い頃は結構苦労したみたいですからね。大学を出てから騎手になったので、体重がしんどかったみたいです。洗面器いっぱいの唾を吐いたり。それでも体重が落ちないからって、足の裏をナイフで削ったりしたって。

:えっ、皮をですか?

太宰 :はい。ほとんど変わらないんですけど、それくらい追い込まれていたと言っていました。だから僕には、騎手になってほしくなかったみたいですね。僕も小さい時から体が大きかったので。

:苦労を分かっているからこそ、ならせたくないという気持ちが。

太宰 :そうでしょうね。うん。でも、合格した時は喜んでくれましたね。

:騎手として大きな転機も経験されて、でも、ここ数年は特に好調ですよね。2年前の09年には45勝と過去最多の勝ち星でした。今年は大きなレースも控えていますけれども。

太宰 :そうですね。春はGIIIを2つ勝てたので、秋はGII、GIと、もう一つ上を狙っていきたいと思います。

:まだ32歳、これから。

太宰 :もう中堅ですからね。

:中堅ですか。下から次々と入ってきますもんね。でも、これからもがんばっていただきたいので、今後の大きい目標というのはありますか?

太宰 :大きい目標、まあ一番は怪我せずに、あとは1年でも長く乗っていきたいですし、大きいレースも勝っていかないといけないと思います。そして、印象に残るレースをいっぱいしていきたいですね。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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