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ウインバリアシオン・竹邑行生厩務員インタビュー中編

  • 2011年10月19日(水) 12時00分
入厩時はひどく躓くという不安を抱えていたウインバリアシオン。さらには爪の弱さもあって、皐月賞の出走は叶いませんでした。そこで松永昌博調教師は早々に放牧を決断。その甲斐あって、青葉賞を33秒6の剛脚で優勝。いよいよダービーの舞台に立ちます。

◆GIはTVで見るものでは

赤見 :青葉賞で重賞初制覇して、いよいよダービー(11/5/29、東京芝2400m)出走が実現します。ダービーの時、状態はどうでしたか?

竹邑 :あの時はまた爪が悪かったんですね。だからあの不良馬場は逆に良かったん違います? あの馬場は僕にしてみれば、恵みの雨やったんですね。

赤見 :柔らかい馬場だと爪に負担になりにくいから。それにしても、最後は本当にすごい脚でしたよね。抜けて来た時はもう…。

竹邑 :一瞬「やった!」と思いました。外から来た時は、思わず叫びまくりました。もう、声枯れましたよ(笑)。

赤見 :安藤(勝己)さんも「勝ったかと思った」っておっしゃっていました。

竹邑 :そうそう。上がって来て2着のところに入れるじゃないですか。「いやー、勝ったと思ったけどな」って、第一声がそれでしたからね。

赤見 :本当にわずかな差でしたもんね。

竹邑 :レースが終わって、先生と先生の息子さんと中山助手と僕と4人で、新幹線で帰って来たんですけど、そこで残念会ですわ。「ようがんばったな」「だけど、悔しいな」って、ビールを飲みつつ語り明かして帰って来たんですよね。

赤見 :「秋にまたがんばろう」って。ダービーの後は放牧に?

竹邑 :ええ。北海道のノーザンF空港に放牧に出したんですけど、もうほんまに、ダービーが終わってすぐその日に出したんですよ。ダービーの発走が15時40分でしょう。17時半か18時には出発しましたから。それで秋になって、爪がすごく良くなって帰って来てくれたんですよ。

赤見 :それは大きいですね。

竹邑 :そうなんです。ノーザンFの方がよくケアしてくれはったんでしょうね。今はもう、きれいなもんですわ。

赤見 :爪以外でも、変わった部分はありましたか?

竹邑 :たくましくなったなとか、そういうのは僕の感じでは分からないですけど、乗っている中山助手は「パワフルになったね」という言い方をされていましたから。乗った感じで「成長したんかな」というのがあったんでしょうね。

赤見 :神戸新聞杯(11/9/25、阪神芝2400m) のレース後、安藤さんが「ゲートを出てからの行き脚が春と全然違う」って。

竹邑 :そうそう。1コーナー入る前に「あれ、引っかかったんかな?」と思ったら、違うねんてね、あれ。ちょっと仕掛けて出してみたらスッと行きよったもんやから、「あかん、あかん」と思って引っ張ったって。その後はすぐ折り合いがついていましたし、前にオルフェーヴルがいたもんやから「あ、ちょうどええ目標があるわ」って、抑えはったと思うんです。

赤見 :またオルフェーヴルが楽に進んでいたから、自分から攻めに行って。

竹邑 :うん。前に目標が1つあったし、頭数も少なかったから、どうでも対処ができるじゃないですか。そこはやっぱり安藤さんの判断やと思います。だからやっぱり、乗った感触では馬も成長しているのはしているんだと思いますよ。

赤見 :普段の性格はいかがですか? 変わりましたか?

竹邑 :まあ、あいつとはいつもケンカしながらやっていますからね(笑)。

赤見 :そうなんですか?

竹邑 :うん。もう、すごいんですよ。反抗心たっぷりです。何かしよった時に怒るじゃないですか。そうしたら耳絞って来ますからね。普通は俺を怖がるんですけど、あいつはムキになってきます。素晴らしいやつです。それで競馬でもええ根性しとるんやろうね。

赤見 :秋緒戦の神戸新聞杯が終わって、疲れはありましたか?

竹邑 :そういうのはなかったですね。日曜日が競馬で火曜日に運動して、水曜日から乗り出したんですけど、どうもなくて。いつも中山助手に「こずんでますか?」って聞くんですけど、「いや、大丈夫やで」って。それでどこも治療することなく、いつものごとく筋肉ほぐすための電気治療だけ。順調に来ています。

赤見 :次は菊花賞。距離が延びますけれども?

竹邑 :うん。それはね、安藤さんがどうにかしてくれはることですので。僕らの仕事はまず出走。やっぱり出さな、チャンスはありませんから。

赤見 :まずは順調に出すことと。

竹邑 :それが一番です。ましてファンの方もおられますし、これはクラブの馬ですので会員の方もおられますのでね。もう「松永昌博厩舎のウインバリアシオン」だけではないんです。ですので、応援してくださる方々のために、何とか出走させて雪辱を果たしたい。その気持ちは、心の中に秘めております。

赤見 :クラシックのラスト一冠ですもんね。

竹邑 :欲しいですけれどね。これだけは何とも言えません。ラインクラフトの秋華賞で、エアメサイア(伊藤雄二厩舎)に差された時の悔しさがあります。エアメサイアをやっておられた厩務員の方が「やっとお前の馬に勝った」って、最後の一冠を獲れたことをすごく喜んでおられました。逆に僕が、今度はそれを経験してみたいなというのが。

赤見 :なるほど。今までの悔しさもあるわけですからね。

竹邑 :そう。やっぱり誰だってそうですよ。そういう気持ちは持っていて。口では言いませんよ。でも、心の中では何とかしたいなという気持ちはあります。まあそれはね、僕らがどうかしたからって勝てるものではないけど、そういう気持ちを持って挑みたいし、そういうようなのが無ければ出走する意味もないと思いますからね。

赤見 :はい。

竹邑 :GIはテレビで見るものじゃないって、自分に言い聞かせているんです。あの場にいないとだめなんですと。

赤見 :あの場にいないと。

竹邑 :ええ。まあ、GIのスタートの時は本当に緊張するんですけどね。ファンファーレを聞くと、もちろんのことです。ファンの方の声援がワーッと上がって…もう、鳥肌ギンギンなんですよ。だめなんです(苦笑)。でも、GIを目標にずっとがんばっていますので。そのGIレースに出られるというのは感無量ですね。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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