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ウインバリアシオン・竹邑行生厩務員インタビュー後編

  • 2011年10月20日(木) 12時00分
これまで数々の名馬を育ててきた竹邑行生厩務員。腕利きであり、その明るいキャラクターで厩舎のムードメーカーでもあります。そんな竹邑厩務員も、仕事に身が入っていなかったという意外な過去が。そんな自分を変えてくれたのが、オグリキャップだったんです。

◆オグリ兄妹への感謝

赤見 :いよいよ次は菊花賞。牡馬クラシックの最終戦という特別な一戦ですが、そこに有力馬を送り出せるというのが、やっぱり腕利きでいらっしゃるところ。

竹邑 :いや、それはないんです。ただ餌をやっていたら、勝手に馬が走る(笑)。で、もう本当に馬運がいいというか。ほんまに僕は幸運です。

赤見 :先ほどお仕事されているのを見させていただいて、電気治療しながら「待つわ」を歌っていらっしゃったじゃないですか。ああいうのが、すごく馬がリラックスするんだろうなって思いました。

竹邑 :いやいや(笑)。そんなね、こうやってじーっと力入れてやりよったら体持ちません。自分もリラックスしますし、馬も「またこいつが歌っとるわ」って思ってええん違うかなと思っています。

赤見 :何か、厩舎のムードメーカー的存在ですよね。

竹邑 :そうですよ。ワイワイワイワイやりますよ、私。洗い場でも「昨日、パチンコで何々」とか、彼女の話しているところにちょっかい出したり。そこに(松永昌博)先生が来たりして、和気あいあいと話したり。ほんまに楽しい厩舎です。堅苦しかったら、仕事していてもおもしろくないでしょう?

赤見 :そうですよね。ピリピリしていたら。

竹邑 :そうですよ。1日1日僕らは違うことをするじゃないですか。「今日はこの馬こうやな」というのがすごく分かってきます。それがまた楽しいのもありますしね。ほんま楽しい仕事ですよ。

赤見 :今の松永厩舎の前は瀬戸口勉厩舎にいらして、ラインクラフトやオグリローマンを手掛けてこられたんですよね。瀬戸口厩舎と言えばほかにもオグリキャップ、ネオユニヴァース、メイショウサムソンなどたくさんの名馬を輩出してきましたが、どんなところが名門だなと感じられますか?

竹邑 :やっぱり調教ですよ。先生はね、いざとなったらすごいんですよ。ここ一番という時の調教、あれはハードですね。オグリキャップの調教はすごかったですわ。あの馬もよう耐えたなというくらいの調教をされていましたから。

赤見 :だからあれだけ強かった。

竹邑 :ええ。ラインクラフトも桜花賞の前、体調が悪くて出走できないんじゃないかというくらいだったんです。出たら出たで人気背負うじゃないですか。中途半端に出したら、ファンの人にも迷惑がかかりますし。

赤見 :そうですよね。

竹邑 :でもう、2つに1つやという感じで、ビシッと追い切ったんです。そんなら、ラインクラフトは耐えてくれよったんですわ。「これやったら、大丈夫やな」ということで桜花賞のゴールサインが出たんです。あの先生の調教法が、すごく良かったんですよ。

赤見 :そういうものを肌で感じられたんですね。またオグリキャップなど、すごい馬達をずっと近くで見てこられたのも。

竹邑 :近くに日本の有名な馬がいるんですからね。ほんまに幸せでしたよ。オグリキャップは隣の馬房だったんです。その当時、オグリキャップのファンが毎日20、30人は来られていましたので。

赤見 :毎日ですか!?

竹邑 :うん。土日は50人ぐらい来られました。だから逆に燃えたんですよね。横で見ていたら「いつかは僕も」って。あの、最初はね、僕は先生にご迷惑ばっかりかけていまして。仕事せんかったんですよ。

赤見 :そうなんですか!?

竹邑 :3日4日連続で出遅れたりね。「先生すみません」「すいませんも何もあるもんか!」って、テキに真っ赤な顔して怒られて。もうほんま、首の皮一枚でつながっていました。その時に僕の気持ちを変えてくれた馬が、オグリキャップなんです。

赤見 :オグリキャップが。

竹邑 :ええ。あの馬がいたから、今もこうやって仕事を続けられているん違うかなと思います。まあ、僕だけではないと思いますけどね。オグリキャップに勇気もらいましたという人は、いくらでもおられると思いますよ。もう、何と言うの、日本のファンを勇気づけてくれました。まして、終わり方がすごかったでしょう?

赤見 :もう…奇跡というか。

竹邑 :うん。泣きましたもん、あの時。あくる日にオグリキャップに会えるんやけど、「オグリありがとう」って。それで、オグリキャップの引退式っていろんなところであったんですけど、東京の引退式の時に先生にお願いして引っ張らせてもらったんです。あの時はもう、感無量でしたね。

赤見 :ファンの方の声援もすごいし。

竹邑 :すごかったですしね。そういうものに参加させてもらえて、すごくいい経験をさせてもらったんですよ。僕も「こういう馬を作ってがんばるぞ」という気になったのは、オグリキャップのおかげ。ですので、オグリ兄妹にはもう、ほんまに感謝しています。

赤見 :そのオグリキャップにもオグリローマンにも安藤さんは騎乗されたことがあって。で、こういう縁がつながって。

竹邑 :そうそう。今はウインバリアシオンの主戦ジョッキーですからね。

赤見 :次走の菊花賞ですが、ダービーと神戸新聞杯を考えると、もう2頭が抜けているのかなと思いますが?

竹邑 :そんなん言われたら幸せなんですけど。内心ホッとしているんですよ、神戸新聞杯の2着で。ダービーの2着がフロックじゃなかったなというのが。

赤見 :やっぱり強いんだって。

竹邑 :そう。去年はね、「来年のクラシックはウインバリアシオン」って、いろんな雑誌でも書いてくれはって。うれしい半面、ラジオNIKKEI杯の4着で、「あれ?」って思われたと思います。それからも成績が振るわなかったからあれやったんですけど、またこうやって取材来てもらえるのがすごくうれしいんですよ。

赤見 :そう言っていただけるとうれしいです。

竹邑 :厩舎に来てはる新聞記者さんにも、いつも「ありがとう」って言うんですわ。うれしいんです。それだけ注目してもらっているということですからね。ましてウインバリアシオンの取材ってなれば、もう、ほんまうれしいんですわ。

【お知らせ】
 いつも「netkeiba.com」をご利用いただき、誠にありがとうございます。当コーナー「おじゃ馬します!」はリニューアルし、11月からパワーアップしてお届けします。

 新しい「おじゃ馬します!」では旬なホースマンを「マンスリーゲスト」としてお迎え。ゲストの魅力を1か月にわたってじっくりお伝えしていきます。

 初回のゲストは浜中俊騎手。今年2月末に師匠の坂口正大調教師が定年を迎え、フリーとして決意を新たにした浜中騎手は、現在重賞5勝、リーディングトップ10入りと絶好調。浜中騎手のインタビューは、11/7(月)から公開です。

 また、関西担当のインタビューアー東奈緒美さんがしばらく産休に入ることとなりました。その間の関西のインタビューは、関東担当の赤見千尋さんの兼任となります。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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