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逃げ馬はあんまり好きじゃない!?

  • 2011年11月08日(火) 18時00分
シルポート、キャプテントゥーレなど、近年は逃げ馬での活躍が目立つ小牧騎手。今回は、この“逃げ”という戦法に着目し、ジョッキーの心理に迫ります。

──今回は、ユーザーからの質問を通して、小牧さんの騎乗論に迫っていきたいと思っているのですが、まず、“大逃げ”について、こんな質問がきています。

『アドマイヤベルナの大逃げ、お見事でした(6月4日・阪神10R・三木特別。1番人気で5馬身差の逃げ切り)。サイレンススズカに代表される大逃げですが、小牧さんは大逃げをするとき、どんな心境ですか? ジョッキーの方も、やはり4コーナーを迎えるまでドキドキしますか?』

小牧 アドマイヤベルナは気性的にうるさくて、押さえが利かない馬でね。だから、あのレースに関しては、たまたま離して逃げるかたちになったんだけど…4コーナーでは、ちょっと行き過ぎたかなって思いました。

大逃げの真相は?

──芝2000mのレースで、前半1000m通過が58秒3ですものね。逃げ馬にとっては、楽なペースではありません。

小牧 僕もね、ドキドキというか、止まるかなぁと思いながら乗ってたんですけど。終わってみれば楽勝でしたからね。強かったね、あれは。能力の違いだね。

──小牧さんは、それまで逃げたことのない馬で逃げを試みて、結果を出すことが多いように思います。確かアドマイヤベルナも、前に行くタイプではありましたが、逃げたのは初めてでしたよね。

小牧 んー、あえてというわけではないんだけど。僕は自分本位で競馬をしてるのかな(笑)。先生から指示がある場合もありますけど、だいたいはスタートしてみないとわからないでしょ。だからもう、ゲートを出たときのちょっとした感覚ですね。

──「今日はあえて離して逃げよう」あるいは「ペースを抑えて逃げよう」など、作戦のもとに逃げる場合もありますか?

小牧 うん、それはありますね。ただ、失敗することももちろんあります。たとえば、毎日王冠のシルポート。スローペースで、一見すると楽に逃げ切るような競馬に見えたと思うんですけど、あれこそ失敗やね。

──東京の芝1800mで、前半1000m通過が61秒1。マイルとはいえ、58秒台でも逃げ切ってしまうシルポートからすれば、確かに楽なペースでしたが、どのあたりが失敗なのですか?

小牧 スローペースということは、後ろも団子になってついてくるので、ほかの馬も脚がたまってるわけですよね。そうすると、最後は切れ味勝負になる。切れ味勝負になると、逃げ馬はどうしても切れる脚のある馬にスッと交わされる恐れがあってね。今まで離して逃げていた馬の場合、スッと交わされるとやる気がなくなってしまうんですよ。シルポートも最後まで止まってはいないから、脚は残ってたんやけどね…。いやぁ〜、あのレースは失敗しました。

──もう1頭、逃げ馬では、キャプテントゥーレでもご活躍されました。同じ逃げ馬とはいえ、やはりシルポートとはタイプが違いますか?

逃げ馬と一口にいっても、タイプがある

小牧 シルポートは、二の脚をつけて押していかなきゃいけないタイプなんだけど、道中はマイペースで行かせて、そのスピードを持続させるっていう競馬が一番いい。キャプテントゥーレは、ゲートでスッと反応してくれるタイプやね(10月20日付で登録抹消)。

──逃げ馬にも、スピードの違いでハナに立ってしまう馬もいれば、他馬を怖がるという理由で、逃げるしかない馬もいますよね。

小牧 だいたいの逃げ馬は、ほかの馬を怖がるタイプなのかもしれないけど、シルポートとキャプテントゥーレは、あんまり(他馬)気にしたことがないね。ただ、やっぱり逃げないと良さが生きない。ちょっと揉まれたら走る気をなくすような、気の弱さはあると思います。

──逃げないと良さが生きないという馬は、ジョッキーにとっては、ある意味ドキドキですよね。もし、逃げられなかったら…というような。

小牧 出遅れたら一貫の終わりやからね。そういう意味で、逃げ馬はあんまり好きじゃないです(笑)。最近は、シルポートとキャプテントゥーレで、逃げ馬のイメージがあるのかもしれないけどね。

──ジョッキーのなかには“体内時計”を持っている方がいると聞いたことがあります。逃げ馬となると、自身のペースが重要かと思いますが、小牧さんも“体内時計”でペースを計ってらっしゃるんですか?

小牧 えっ? 全然計算してないよ(笑)。速いか遅いかはもちろんわかりますけど、だいたいが長年の感覚っていうやつやね。その感覚からいうと、毎日王冠はすごく楽でしたねぇ。シルポートに乗っていて、初めて楽勝するんちゃうかと思った(笑)。大間違いでしたね…。

【次回の太論は…】
2歳戦線ではクラレントが、マイル路線ではリディルがスタンバイし、秋後半はビッグチャンスが続く小牧騎手。また、クラレントが出走予定の東京スポーツ杯2歳Sは、2年前、ローズキングダムの能力の高さを確信したレースだそうです。そんな思い出のレースを振り返りながら、この秋の手応えに迫ります。

※編集部からのお知らせ
11月15日に公開予定の「“中央・小牧太”の騎手人生を変えた、レジネッタGI初制覇を回顧」は11月22日公開とさせていただきます。何卒ご了承の程よろしくお願い致します。

【質問コーナー】
■年齢的にも実績的にも、ベテランの域に入る小牧騎手ですが、昔と違って、ここがきついとか、ご自分で変わったなぁと思うところはありますか?

小牧 体力的には、今のところ衰えた感じはないですね。でも…お酒は弱くなったかな(笑)。あとは、視力。視力自体は1.5なんやけど、近いところが見えなくなった(笑)。この前、かわいいメガネを買いましたわ(笑)。食事もあんまり量を食べなくなったね。JRAにきてから運動量も減ったので、まぁ自然に。とにかく僕は白いご飯が大好きでねぇ。昔はご飯をむちゃくちゃ食べてたんだけどね。最近はすっかり食べなくなりましたよ。
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太論 / 小牧太
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1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。その後もローズキングダムとのコンビで朝日杯FSを制するなど、今や大舞台には欠かせないジョッキーとして活躍中。

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