今年のジャパンCを予想する上で最大のポイントは、デインドリーム(牝3、父ロミタス)をどう評価するかにあると思う。
ジャパンCは、3歳牝馬には極めて厳しいレースとして知られている。1981年の創設以来昨年までの30年間で、3歳牝馬の優勝は1度もないのだ。牝馬の優勝は、81年のメアジードーツ、83年のスタネーラ、89年のホーリックスと過去4回あるが、このうち3頭は5歳馬で、残る1頭は6歳馬だった。3歳馬の優勝も、82年のハーフアイスト、87年のルグロリュー、98年のエルコンドルパサー、01年のジャングルポケット、昨年のローズキングダムと過去5回あるが、いずれも牡馬だった。オールアロング、マジックナイト、ユーザーフレンドリー、そしてウオッカといった名牝が、3歳時に挑んだジャパンCでは敗れているのである。
データ的にはデインドリームは、シャレータ(牝3、父シンダー)ともども、真っ先に「消し」だ。
ただし、時には覆されることもあるのがデータである。
2歳ブリーズアップセールにてわずか9千ユーロ(当時のレートで約110万円)で購買されたデインドリーム。今季2戦目、その時点では重賞未勝利だったこの馬を、牡馬相手の伊ダービーにぶつけたり、フランスのG2マルレ賞で5着に敗れ一線級に混ざると力不足かと見えたのに、次走は17500ユーロ(約200万円)の追加登録料を払って古馬の牡馬も走るG1ベルリン大賞に参戦したりするなど、厩舎ではもともと期待された存在だったことが、その使われ方から見てとることが出来る。
厩舎が期待した通り、というよりも、期待以上の馬であることが実証されたのは、ほんのここ4カ月ほどのことだ。
ベルリン大賞が前年のG1オイロパ賞勝ち馬スカロ(牡4)に5馬身差。ドイツにおける2400m路線の最強馬決定戦G1バーデン大賞が、前年に続く連覇を狙ったナイトマジック(牝5)に6馬身差。そして欧州2400m路線の総決算G1凱旋門賞が、5馬身差でレコード勝ちと、桁違いのパフォーマンスで破竹の快進撃を見せたのである。
欧州競馬の基幹距離ともいうべき2400mの路線における、年齢や性別の制限がないG1で、2着以下に決定的な差をつけて3連勝した3歳牝馬など、見たことがないと欧州の関係者は語る。
繰り返しになるが、6月末の段階では3歳牝馬限定のG2で5着だった馬だ。短期間でこれだけ大きな飛躍を見せた競走馬というのも、記憶にないことである。
すなわち、デインドリームというのは様々な意味で、過去の常識を涼しい顔で打破しておかしくはない、「規格外」の競走馬である可能性もあるのだ。
無論、不安材料を挙げればキリはない。シーズン末の疲労はないのか、欧州から外に出たことのない馬が環境の変化に対応できるのか、減量のきついシュターカ騎手が53キロで乗れるのか、などなど。
だが、そういった懸念も含め、過去の常識やセオリーを木端微塵に粉砕する爆走を、デインドリームに期待したいと思う。
今年のフランスにおける3歳牝馬は、上位を形成する馬たちの水準が高く、層も厚いと言われている。その一角にあるシャレータは、能力的には充分争覇圏にあると見るが、ジャパンC30年の定説を覆すほどの存在ではないと思う。先行して自分で競馬を作れることが長所の1つだが、ヨーロッパで先行する競馬をしている馬が日本に来ると、ペースの違いから自分の競馬が出来ず、全く力を発揮出来ないケースを、2週間前のエリザベス女王杯におけるダンシングレインで見たばかりである。
デインドリーム同様、その使われ方を見ると、早くから厩舎の期待馬であった節が窺えるのが、サラリンクス(牝4、父モンジュー)だ。今年後半に見せた上昇振りは、デインドリームほどではないにしろ見事なものだし、前年に続く連覇を狙ったジョシュアツリー(牡4、父モンジュー)を含めた、古馬の牡馬たちに4馬身差を付けた前走G1カナディアン国際のレース振りは鮮やかだった。ペースによっては先行できる一方、前走で見せた末を活かす競馬っぷりは府中向きだし、前走でアウェイの戦いを経験していることも好材料だ。
ただし、ヨーロッパでの実績はG2勝ちまでで、G1では4着が最高。G2ポモーヌ賞を制した際には泥んこ馬場で、時計的裏付けが全くないのは大きな減点材料だ。
7歳馬だが、4歳時は4戦、5歳時は5戦、6歳時は3戦、そのしてここが今季5戦目と、それほど使い込まれておらず、馬はフレッシュなのがミッションアプルーヴド(牡7、父ウィズアプルーヴァル)だ。だが、水準の高くないアメリカの芝路線で、最強クラスとは言い難い存在のこの馬が、アウェイので日本馬を凌駕するのは至難の業と見る。
勝負になる外国馬はデインドリームのみ、というのが結論である。
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