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今季最大の関心事フランケルvsブラックキャヴィア

  • 2012年04月11日(水) 12時00分
イギリスとアイルランドの芝平地シーズンが開幕し、来週にはニューマーケットでギニーへ向けたプレップレースが行なわれるなど、ヨーロッパの今季の競馬がいよいよ本格的に動き出した。

 各国の各路線に興味をそそられる馬や見てみたい対戦が目白押しの今シーズンだが、中でも最大の注目を集めているのが、「無敗のスーパーホースの連勝記録がどこまで伸びるか?!」だ。デビューからここまで9戦9勝で来ているイギリスのフランケル(牡4、父ガリレオ)と、19戦19勝で来ているオーストラリアのブラックキャヴィア(牝5、父ベルエスプリ)という、昨年のサラブレッドランキング世界1位と2位の2頭が、どこまで連勝を伸ばすかが、競馬サークルを越えた話題になりつつある。

 無敗馬が2頭居れば、ファンが夢見るのは両馬の直接対決だ。マイラーのフランケルとスプリンターのブラックキャヴィアだから、例えば中をとって1400m戦で雌雄を決する可能性はなかろうかと、ファンの多くが空想を膨らませている。もっとも現実は、地域も路線も異なる2頭が一緒に走る可能性は低く、それこそ「夢の世界」でしか実現しないものと諦めていた。 

 ところが、である。ここへきて「ひょっとすると対決するかも?!」という話が、空想から現実の世界に降りてきつつあるのだ。

 2月18日にフレミントンで行われた、グローバルスプリントシリーズの2012年開幕戦G1ライトニングS(芝1000m)を制した後、俎上に上っていたドバイ遠征を断念したのがブラックキャヴィアだ。この後は、4月後半から5月半ばにかけてどこかでひと叩きし、かねてから構想にあった英国遠征を敢行し、ロイヤルアスコットを舞台に6月23日に行なわれるG1ダイヤモンドジュビリーS(芝6F)に向かうことが決まっている。

 アクシデントなど予期せぬ事態が起こらぬ限り、2頭の間にある距離の隔たりは解消されることがほぼ確実な情勢なのだ。

 色めきだったのはイギリスのファンとマスコミで、2頭がぶつかる可能性はないのか、あるとすれば「いつ・どこ」になるのか、色々なメディアが取り沙汰することになったのだが、繰り返される質問に根負けしたように、フランケルを管理するヘンリー・セシル調教師が、「可能性があるとしたら」というコメントを出したのが、3月初旬のことだった。

 今季も現役にとどまることになったフランケルに関して、セシル師がかねてから公言していたのが、10F路線への挑戦だ。今季の初戦は、5月19日にニューバリーで行われるマイルG1ロッキンジSになるとしながらも、その後は距離を伸ばすことを示唆。6月20日のロイヤルアスコット2日目に行なわれるG1プリンスオヴウェールズS,あるいは、7月7日にサンダウンで行われるエクリプスSで10F戦に転身というのが、セシル師が描いている青写真だった。

 距離を伸ばすことを考えているくらいだから、ファンが夢想した「1400m戦でのブラックキャヴィアとの対決」は「100%ありえない」としたセシル師だったが、「もしあり得るとしたら」という前提で話したのが、以下であった………、「ロイヤルアスコットの後もブラックキャヴィアがイギリスに滞在し、サセックスSを使うようなら、ウチの馬を10Fから再び8Fに戻して、サセックスSを使う可能性はある」と発言したのである。

 8月1日にグッドウッド競馬場で行われるG1サセックス(芝8F)は、イギリスにおける3歳と古馬のトップマイラーが初めて激突する機会となることが多く、真夏のマイル王決定戦と称されている一戦だ。カテゴリーとしては完全にフランケルの側にあるレースで、つまりは「こちらの土俵に出て来るのであれば、逃げませんよ」と、セシル師は語ったのである。

 4月に入り、これに呼応する形でステートメントを出したのが、サセックスSを主催するグッドウッド競馬場と、レースの冠スポンサーであるカタールのQipco(キプコ)社だった。

 もしフランケルとブラックキャヴィアの両頭ともに出走してくるなら、サセックスSの総賞金を現行の30万ポンドから100万ポンド(約1億3440万円)に増額することを発表したのだ。「競馬ファンならば誰もがうっとりする対戦が実現する可能性がこのレースにしかないとしたら、主催者としては出来る限りのお膳立てはしたい」と、スポンサーを代表してシェイク・ファハドが語った。

 この声明に対して、早速反応したのが、ブラックキャヴィア陣営だ。ブラックキャヴィアを管理するピーター・ムーディ調教師が、「サセックスSは、ブラックキャヴィアの目標として、おおいに考慮するべきレースである」とコメントしたのである。ブラックキャヴィアの距離適性に関して、かねてから、1マイルまでは問題ないと明言してきたのが、ムーディ師だ。実際に、初めて1400mの距離に挑んだ前々走のG1CFオールS(芝1400m)で、ブラックキャヴィアはスプリント戦と全く変わらぬ強さと速さを見せて勝利を収めている。

 ダイヤモンドジュビリーSの後もイギリスに留まり、7月14日にニューマーケットで行われるG1ジュライC(芝6F)参戦を視野に入れていることも明らかしたムーディ師は、「2戦を戦った後、ブラックキャヴィアに消耗がなければ、その段階でサセックスSの件を改めて考えることになる」と語った。

 まだまだ実現の可能性は低そうだが、ちょっとばかり現実味を帯びて来た無敗同士の対決は、世界の競馬ファンにとって今季最大の関心事となりそうである。

▼合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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