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フランケル引退騒動も現役続行へゴーサイン

  • 2012年04月25日(水) 12時00分
先週は英国のニューマーケットに滞在していたが、競馬関係者の間で持ち切りだったのが、フランケル(牡4、父ガリレオ)の去就を巡る話題だった。いわく、「もう2度と、フランケルが走る姿は見られないのではないか?!」。

 事が明るみに出たのは、4月12日(木曜日)午後だった。この日の朝、フランケルの右前脚にわずかな腫れが見られ、触診した結果、少しばかり馬が痛がる素振りを見せたのである。ただちに獣医師が呼ばれ、スキャンをした結果、腱などに損傷はないことが判明。管理するヘンリー・セシル調教師によると、おそらくは前日の調教で自分の後肢で前肢を蹴ってしまう「交突」を起こしたのであろうとのことで、怪我としては軽傷というのが、当初発表された診立てだった。

 ところが、である。翌日になって、フランケルを所有するカリッド・アブドューラ殿下の陣営から、フランケルに改めて精密検査が施されることが発表されたのである。前日の診療は可動式のスキャンを用いたもので、念には念を入れる意味で、フランケルを診療所に運び、再度患部を綿密に調べることになったものだ。合わせて、今季の初戦に予定されていた5月19日にニューバリーで行われるG1ロッキンジS(8F)をはじめ、想定されていた今シーズンのローテーションが全て白紙となることも発表された。

 フランケルと言えば、海外競馬のファンの皆様には改めてご説明するまでもないが、昨シーズンのワールドチャンピオンである。ここまでの戦績、9戦9勝。2011年のワールドランキングで獲得した136というオフィシャルレイティングは、2009年のシーザスターズと並ぶ「今世紀最高」で、マイル部門に限れば1984年に138を獲得したエルグランセニョール以来27年振りの高レートという、極めて高い評価を受けた馬である。

 4歳となった今季も現役に留まったフランケルにとって、競うべきは、ブリガディアジェラードやダンシングブレーヴといった歴史上の名馬たちで、彼らの領域にどこまで迫れるかが、今季のフランケルに課せられた使命と言われていた。

 これだけの馬だけに、陣営が綿密な検査を求めた心情は、ファンにとっても理解出来るものだったが、一方で、ファンの胸をかすめたのが、「フランケルはこのまま引退するのではないか」との不安だった。

 既にして、前述したような確固たる実績を残している馬である。なおかつ、フランケルの父ガリレオは、いまやその父サドラーズウェルズを越えたと言われているスーパーサイヤーで、その後継馬は馬産地で引っ張りだこの状態だ。母カインドの1つ年上の兄に、G1アーリントンミリオンやG1タタソールズGCを制したパワースコートがいるという牝系も一流。更にフランケル自身、筋骨隆々たる素晴らしい馬体の持ち主である。すなわち、種牡馬して成功するあらゆる要素を備えており、今後の欧州馬産界にとってかけがえのない存在になると言われているのが、フランケルなのだ。

 種牡馬としての価値を考えるなら、フランケルが万全ではない状態で現役を続けることは、100%ありえなかった。

 そんな状況の下、世界を駆け巡ったのが「フランケル引退」の噂だった。火元がどこかは、今もって不明である。だが、噂は米国の競馬マスコミにまで届き、各社がウラをとるべく奔走するという騒ぎが、4月14日から15日にかけての週末に起こったのである。

 アブドューラ殿下の陣営からはただちに、現時点での引退を否定するステートメントが出されたが、同時に発表された、「全ては2度目の検査の結果が出るのを待って判断する」というコメントが、マスコミやファンの更なる疑心暗鬼を呼ぶことになった。

 私が英国入りしたのは、まさに「噂」という煙がモクモクと漂っていた時期で、「フランケルの引退は実に残念だ」と、噂が真実であることを前提とした会話が、関係者の間で交わされていたのであった。

 丸1週間にわたって燻った煙がようやく霧散したのは、4月18日(水曜日)の午後だった。2度目の検査でも、フランケルの右前脚には、腱を含めてどこにも深刻な損傷はないことが判明。現役続行のゴーサインが出されたのだ。

 16日(月曜日)から、ダクを踏むなど軽い運動を再開していたフランケルだったが、これを受け、週末には馬場でキャンターを乗り始めるなど、本格的に再始動。調整のテンポが早められることになった。

 管理するヘンリー・セシル師は、フランケルの復帰戦について、「前半戦の大目標はロイヤルアスコットになるが、そこに直行したくはない」とコメント。一旦は回避濃厚と言われた5月19日のG1ロッキンジSに「可能であれば、間に合わせたい」として、調教のピッチを上げていくことを宣言している。

 各地域の各路線にスター候補のいる今シーズンの世界の競馬だが、ヨーロッパのファンが何よりも楽しみにしているのが、フランケルのレース振りである。まずは、シーズン序盤でファンの夢が潰えることがなかったことを、心から喜びたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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