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エージェント・森山大地さんインタビュー Part1

  • 2012年06月04日(月) 12時00分
6月から「騎乗依頼仲介者」いわゆるエージェントの申請義務化がスタートします。そこで今月は、美浦で活動中の現役エージェント・森山大地さんをゲストにお迎え。知られざるエージェントの世界、そこには競馬の裏側にあるもうひとつの戦いがありました。

『4名の騎手との出会い』

赤見 :森山さんは松岡正海騎手、石橋脩騎手、津村明秀騎手、2年目の嶋田純次騎手の4名を担当されているんですよね。

森山 :そうです。最初に担当したのが松岡で、彼がデビュー3年目の時から一緒にやっています。その当時僕は、ダービーニュースで記者をしていました。

赤見 :今ではファンの方にも知られるほど「エージェント」は広まっていますが、森山さんが記者になられた頃というのは?

森山 :ここまでではなかったですね。今は逆にエージェントが付いていないジョッキーの方が稀で、それこそトップにいる方達は間違いなく付いていると思っていいですが、その当時はまだトレセン内に何人かしかいなくて。関東に有力騎手を何人も抱えている方がいて、その方に連絡すれば事足りる時代でした。

赤見 :それが広まって来たのは?

おじゃ馬します!

武豊騎手と三冠馬ディープインパクト

森山 :5、6年前ですかね。武豊さんがディープインパクトとのコンビで活躍されていて、みんなが武豊さんを目標に、どうにか超えようっていう空気があったんです。武豊さんにはエージェントが付いていて、他の騎手もエージェントと組んでやり始めたというのがあります。

赤見 :そうやって徐々に浸透していったわけですね。そして、6月1日から申請が義務化されるということですが?

森山 :これまで申請は任意だったんですが、競馬会として改めて実情を把握したいというのがあったようですね。申請自体は雇い主であるジョッキーが行います。

赤見 :そうなんですね。担当できる人数が、3人と若手騎手1人までという制限がつくそうですが、これまでは1人の方がだいたい何人くらい担当されてきたんですか?

森山 :3人から5人くらいですね、でも、中には9人10人という方もいます。関西にはそういう方が何人かいらっしゃるんですが、これからはそれができなくなるんです。

赤見 :その調整は時間がかかりそう。

森山 :そうですよね。だから、当初は3月からという話だったのですが、やっぱり9人10人から3人に絞るのは今までの関係もある中で急にはできないので、ジョッキー側と競馬会側の話し合いで6月になったそうです。

赤見 :ちなみに、違反した場合の罰則はあるんですか?

森山 :明確には示されていないですが、何らかのペナルティがあるとは言われていますね。

赤見 :森山さんの場合はちょうど3名と若手1名ですが、嶋田騎手の減量がなくなると。

森山 :そうなんです。仮に嶋田が今年100勝を達成すると、来年からは担当できなくなるんです。でも、2年も3年も一緒にやってきて、減量がなくなったからって一緒にできなくなるのは…。なので、若手を抱えている人間に対しては特例を認めてもらいたいということは、競馬会に意見を言わせていただきました。

赤見 :デビューから見てきているので、成長枠というかそういうのがあってもいいですね。そもそも4人のエージェントになられたきっかけは何だったんですか? 最初が松岡騎手ということですが?

おじゃ馬します!

津村は「うまい」と思っていました

森山 :松岡がウイングランツ(05年ダイヤモンドS)で初めて重賞を勝った時に、たまたま僕が間に入っていて。その馬は1000万条件で、格上げ挑戦して軽ハンデで勝ったんです。その辺から親しくなりました。次が津村で、当時所属だった鈴木伸尋厩舎を僕が記者として担当していたきっかけで親しくなって。彼のことはその前から「うまいな」と思っていたんです。

赤見 :本当、うまいですよね。

森山 :うまいですね。フォームが柴田善臣さんや武豊さんのようにきれいだなと思っていて、お互いにと言ったら変ですが「一緒にやろうか」というふうになりました。嶋田は、デビューの時に師匠の手塚貴久調教師から依頼いただいて担当するようになって、石橋は僕が記者を辞めてからなので、去年の4月頃からですね。

赤見 :じゃあ、ビートブラックでの天皇賞・春は、森山さんとのコンビでの勝利だったんですね。

森山 :そうですね。あれは10Rのイジゲン(堀宣行厩舎)に乗りに京都に行ったんです。それなら天皇賞にも乗れたらいいなと思って、出られそうな馬で空いている馬を探して営業したんです。いい勝負はしてくれるかなと思ったら、まさか勝つとは。

赤見 :14番人気での大金星ですもんね! 勝った後はお互いに喜び合って?

おじゃ馬します!

GIジョッキーとなった石橋脩騎手

森山 :僕は東京にいたので現地では見られなかったんですが、電話はその日にすぐくれて、「ありがとう」「勝って良かったね」っていう話はしました。で、実際に会ったのが火曜日で、2日も空いていると握手するのも抱き合うのも違うなと(笑)。

赤見 :あははは(笑)。石橋騎手にとっては初GI制覇、大きな勝利でしたね。変な話、森山さんの報酬も…!? 金銭面とかはジョッキーとの契約なんですよね? 1人1人で内容は違うんですか?

森山 :僕の場合は全員一緒です。初めは固定額でと思ったんですけど、先輩に「勝ったら勝った分、ダメならダメという方が、お互いにいいよ」というアドバイスをいただいて。まあ、本当はきっちり決めないといけない部分もあるんですけど。例えばジョッキーが怪我で競馬に乗れない間の補償の問題というのもありますが、そういう時にまでお金を払ってもらうというのも嫌ですし。だったら何が起きても大丈夫なように、自分でなんとかしようと思っています。

赤見 :なんて良い人なんですか!

森山 :いえいえ、全然。「高い高い」って言われていますよ(苦笑)。実際はそんなに高くはないんですけどね。

赤見 :エージェントって、ジョッキーと一緒に大きな夢を見られる半面、今の怪我のお話のようにリスク面でも一心同体。記者からフリーになるというのは、パートナーと一緒にやっていくという強い決意がないとできないと思います。

森山 :そうですね。記者時代、新聞社の業務とエージェント業務の両方をしていて、どっちも中途半端になってしまっているなと思ったんです。それで自分がどっちをやりたいのかを考えて、エージェントを選んだんです。(Part2へ続く)

◆森山大地
1979年12月13日生まれ、兵庫県出身。山口大学工学部を卒業後、ダービーニュースに入社。かねてより興味のあった競馬の世界に飛び込む。記者生活を経て、2011年3月に独立。現在はフリーのエージェントとして、松岡正海騎手、石橋脩騎手、津村明秀騎手、若手の嶋田純次騎手を担当。

◆次回予告
週末のレースに向けてよりいい騎乗馬を集めるのがエージェントの一番の仕事。そこで次回は、森山さんの日々の業務に迫ります。公開は6/11(月)12時。お見逃しなく。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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