11月の「おじゃ馬します!」はファンに愛され続ける「穴男」、ベテラン・江田照男騎手を直撃します。今春も、日経賞を12番人気のネコパンチで逃げ切り勝ち。その強烈なインパクトで、馬券ファンを酔わせました。この夏テレビ番組でも紹介された、江田騎手の「穴男」ぶりに迫ります。
赤見 :今日は「穴男・江田照男騎手」を大解明したいと思います! ちょっと前の話ですが、「マツコ&有吉の怒り新党」(テレビ朝日)で、江田騎手の大穴レースが紹介されました。私、江田騎手が出るって知らなくて、普通にオンエアを見ていたんですよ。
※2012年6月14日放送の「マツコ&有吉の怒り新党」で、「日本人が知っておくべき! 新3大“江田照男騎手の大穴レース”」が紹介された。
結構見ている人多いんだよね
江田 :あぁ。結構あれ、見ている人が多いんだよね。「出てたね」って言われました。
赤見 :ご自身でもご覧になりました?
江田 :うん、見たよ。あれはさ、放送前に連絡が来るから。「こういう内容で、乗っていたレースを流したいんですけど」って。それで「構いませんよ」って答えたんだけど、なかなかよくできていたね。
赤見 :多分、競馬を知らない人が見ても、すごくインパクトがあったと思うんです。
江田 :そうね。今本当に競馬界が厳しい状況の中で、一般のテレビ番組で取り上げてもらえるというのは、すごく大きいよね。
赤見 :紹介された「3大レース」は、98年の日経賞(テンジンショウグン)、00年のスプリンターズS(ダイタクヤマト)、12年の日経賞(ネコパンチ)でしたが、ご自身の中の「3大レース」と合致していましたか?
江田 :3大レースね…う〜ん…、「このレース、このレース」って細かく調べたら、また違うこともあったのかもしれないけど。でもまあ、あの3つで良かったんじゃないかな。
赤見 :12番人気(最下位人気)、16番人気(最下位人気)、12番人気(14頭中)って、3つとも人気薄も人気薄。やっぱり、江田騎手はただの人気薄じゃなくて2桁人気の馬で勝つから、すごくインパクトが強いんだと思うんです。
江田 :そうかもしれないね。でもさ、この仕事をやっていると、未勝利戦で勝つより重賞で勝たないと、自分をアピールできないじゃないですか。そういう意味で重賞でのアピールというのはすごく大きいんだけど、確かにそうやって勝つというのは、インパクトはありますよね。
赤見 :最初に挙がった98年のテンジンショウグンでの日経賞ですが、これは最低人気で、しかも障害返りだったんですよね。
江田 :そうそう。もともとこの馬は新潟で新馬勝ちをして、調教師もすごく期待していたんです。それで勝った後にすぐ放牧に出したんだけど、それからが走ったり走らなかったりというのが続いて。それで障害に行く形になったんですけどね。でも、すごいじゃない。この日経賞で、ステイゴールドに勝っているもんね。今をときめくステイゴールドに(笑)。
赤見 :そうなんですよ! この時は、どんなことを考えていたゲート裏だったんですか? 「やってやろう!」とか?
江田 :いやいや、そんなのは何もないですよ。俺自身、この頃ずっと重賞を勝っていなかったからね。5年くらい勝てなくて、人気的な意味でも「まさかここで勝てるわけが…」というのもあったしね。この馬には障害前にも何回か乗っていて、「道中いつもこういう手応えになるからな」というのが自分の中であったんです。だからこの時も「今日はいつ手応えが悪くなるのかな…」と思いながら、道中ついていった記憶はありますね。
赤見 :後ろにつけて、1番人気のローゼンカバリーをバッチリマークなのかなって?
江田 :まあ、一番後ろから行くポジションになっちゃったので。もちろん人気馬の後ろにいれば、それなりにいける感じはあったんですけど。ただね、この時、道中で手応えが悪くならなかったんですよ。いつもなら3コーナーから手を動かさないと動いていかない馬が、この時は4コーナーを回ってもすごく良い手応えが来たので「あれ、今日は違う!」と思ったら、終いにボンっと弾けたという。
00年のスプリンターズSで大金星
赤見 :馬にとっては重賞初勝利どころか、4年ぶりの平地勝利。これもまたインパクトですよね。で、その2年後ですよ。3大レースの2つ目スプリンターズS、GIを最低人気のダイタクヤマトで勝つという。この時は直前で出走が叶ったそうですね?
江田 :何頭かが直前で止めて、出走できる形になったんだよね。まあ、GIでメンバーがそろっている中で、どれだけ上位に食い込めるかっていうことを考えていたよね。
赤見 :これはまた、枠が?
江田 :うん。16頭立ての15番目で、外から2番目だったからね。1200mの外枠っていうのはとても不利なので、どうやって克服するかを考えて。他の馬と同じように出て行ったらずっと外を回されちゃうけど、この馬はもともとスタートダッシュが良かったので、そういう意味ではあんまり外を回らないようにという気持ちで乗りました。
赤見 :それで早めに先頭に立って逃げ切る形でしたが、どうでしたか、直線は?
江田 :これも直線を向いて手応えがあって。この馬自体そんなに切れるタイプじゃなかったので、なるべくセーフティーリードを取ろうかなという気持ちでいましたね。
赤見 :GIを16番人気(最下位人気)の馬で勝利ですもんね。これもまた、相当インパクトが強かったと思います。そして、3大レースのラストが今年の日経賞。12番人気(14頭中)のネコパンチでの逃げ切りでしたが、これはまたニュースの取り上げられ方が他の馬とは違う感じでしたよね。
大好評!ネコパンチジャンパー
江田 :この馬のファンは多いみたいだよね。
赤見 :あのジャンパーは江田騎手が作ったんですよね? ネコがパンチしているジャンパー。あれ、すごく可愛いです!
江田 :あれは、アニメ学校の先生をしている知り合いに描いてもらったの。そんなの、俺が描けるわけがないじゃない(笑)! 絵心ないからさ。
赤見 :あっ、そうだったんですか。でも、江田騎手が描くネコパンチは、それはそれでレアです。そうだ! ネコパンチ、今描いてください!
江田 :えっ、俺が描くの? やめて〜、ホントに。「絵心ない芸人」に入っちゃうから(笑)。
赤見 :あははは(爆笑)。この3大レースを見ていると、僅差で勝ったとかじゃなくて、本当に強いレースをしているなという印象で。ちょっと伸び悩んでいる馬に、何かきっかけを与えたような。
江田 :いや〜、それはわからない。でも「きっかけを作ってくれ」とか「なんとかしてくれ」という感じで頼まれたりもするので、そうしたらなんとかしたいですよね。もちろん、全部が全部なんて、そんな簡単なことではないけれども。
赤見 :そういう時って、一番何を考えて乗られるんですか?
江田 :う〜ん、その馬にどういうレースが一番合っているのか。例えば「最後は歩いてしまうけど、テンの行き脚はいい」ということなら、そういう長所を持っているじゃないですか。「道中力んで走るから止まってしまう」なら、折り合い面で気をつけようとするだろうし、「ズブいけど長く脚を使える」ということなら、前目につけて直線までそのポジションをキープできれば、馬が走る気になる可能性があるとか。
赤見 :他の馬というより、自分の馬の良いところを。
江田 :そうそう。その馬の長所を伸ばしてあげて、マイナス要素を減らせば、今までの着順よりも上に来る可能性がある。そういうことに気をつけながら競馬をすると、それがぴったりハマった時に、良い結果を出せることがあるのかなと思います。(Part2へ続く)
◆次回予告
“穴男”江田照男騎手、実は、デビュー1年目に重賞制覇(新潟記念、サファリオリーブ)&関東新人騎手賞受賞、デビュー2年目には10代でのGI制覇(天皇賞・秋、プレクラスニー)と華々しい活躍を見せていました。しかし、まさかのトラブルから騎手を辞めることも考えたという…江田騎手の知られざる騎手人生に迫ります。
◆江田照男
1972年2月8日生まれ、福島県出身。同期は村山明(現調教師)など。90年に美浦・田子冬樹厩舎からデビュー。同年の新潟記念を、14番人気のサファリオリーブで制し重賞初勝利。重賞騎乗2戦目での勝利は当時の最速記録。また、同年は関東新人騎手賞を受賞。翌91年にはプレクラスニーで天皇賞・秋を制覇。1位入線のメジロマックイーンの降着があったが、デビュー2年目でのGI勝利という快挙を達成した。その後、00年のスプリンターズSを16番人気のダイタクヤマトで逃げ切るなど、大舞台で多くの波乱を演出。「穴男」の異名でファンに親しまれている。