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全米年度代表馬のゆくえは!?

  • 2012年11月07日(水) 12時00分
ブリーダーズC(11月2日・3日、サンタアニタ競馬場)が終わると、北米の競馬関係者やファンの間で交わされるのが、「今年の年度代表馬はどの馬か!?」という話題だ。

「ここを勝てば当確」と言われていたG1BCクラシック(d10F)の本命馬ゲームオンデュード(セン5、父オウサムアゲイン)が、7着という予想外の大敗を喫して、年度代表馬争いから大きく後退。ブリーダーズCを終えた段階では、「ロイヤルデルタVSワイズダン」の争いというのが、大方の見るところとなっている。

 2日(金)に行われたG1BCレディースクラシック(d9F)を、前年に続いて連覇したのがロイヤルデルタ(牝4、父エンパイアメーカー)だ。

 3歳時の昨年は、BCレディースクラシックの他、サラトガのG1アラバマS(d10F)、ピムリコのG2ブラックアイドスーザンS(d9F)に優勝。G1ベルデイムS(d9F)2着、G1CCAオークス(d9F)3着などの成績を残し、エクリプス賞3歳牝馬チャンピオンに選出されている。

 昨年秋のキーンランド・ノヴェンバーセールに上場され、850万ドルでベシルー・ステーブルのベンジャミン・レオン氏に購買され、今年は昨年とは異なる服色を背負ってのキャンペーンとなった。

 春の目標をG1ドバイWC(AW2000m)に置き、2月にガルフストリームで行われたG3サビンS(d9F)で始動して、ここが2着。続くドバイWCは9着に大敗と、今年前半のロイヤルデルタのキャンペーンは、残念ながらプラン通りには進行しなかった。

 だが、帰国して軌道修正を図った後、6月にチャーチルダウンズで行われたG2フルールデリH(d9F,チャーチルダウンズ)に登場すると、2着馬アフリーティングレディより7ポンド重い斤量を背負いながら8馬身差の圧勝。

 続くデラウェアの高額賞金G2デラウェアH(d10F)では、自身より9ポンド斤量の軽いティスミススーとの争いを首差制して優勝を飾った。続くサラトガのG1パーソナルエンスンH(d9F)こそ、10ポンド斤量の軽いラヴアンドプライドに半馬身屈する2着に敗れたが、他馬と同斤に戻った前走のG1ベルデイムS(d9F)では9.1/2馬身差の圧勝。牝馬同士では抜きんでた力量を持つことを示して臨んだのが、ブリーダーズCだった。

 一時は、クラシックで牡馬にぶつけるのではないか、との噂が流れ、実際にクラシックにもクロスエントリーをしたのだが、陣営が下した最終的な決断は、連覇が掛かったレディースクラシックへの出走だった。

 9馬身差で制したG1アラバマS(d10F)、4.1/4馬身差で制したG1CCAオークス(d9F)と、2つのG1を逃げ切っているクエスティング(牝3、父ハードスパン)が逃げると見られていたのだが、そのクエスティングが行かず、ここまでの14戦で一度も逃げたことのなかったロイヤルデルタがハナを切るという予想外の展開となった。

 しかもそのロイヤルデルタが、半マイル通過45秒81、6F通過1分9秒80というハイラップを刻み、場内は騒然とした雰囲気に包まれることになったのだが、ロイヤルデルタの脚色はゴールまでまったく衰えず、昨年の2歳牝馬チャンピオンで、ここまで6戦無敗の成績で来ていたマイミスオウレリア(牝3、父スマートストライク)に1.1/2馬身差を付ける完勝。レース史上2頭目となる連覇を達成した。

 この段階では、年度代表馬はロイヤルデルタという機運がおおいに盛り上がったのだが、これに対抗する勢力として出現したのが、3日(土曜日)に行われたG1BCマイル(芝8F)を制したワイズダン(?5、父ワイズマンズフェリー)だった。

 3歳10月にキーンランドのオールウェザートラックを舞台としたG3フェニックスS(AW6F)で重賞初制覇を果たしたワイズダン。4歳7月にはチャーチルダウンズの芝コースを舞台としたG2ファイアクラッカーH(芝8F)に優勝。10月に再びキーンランドのオールウェザートラックを舞台としたG2フェイエットS(AW9F)を制すると、11月にはチャーチルダウンズのダートコースを舞台としたG1クラークH(d9F)に優勝と、路面をまったく問わない多才さを発揮しての活躍が続いた。

 ことに昨年7月以降のこの馬の充実ぶりには目を見張らされるものがあり、今年のBCを迎えた段階での直近10走を見ると、10戦8勝・2着1回という、凄まじい戦績が積み上がっていたのである。

 今季初戦となったキーンランドのG3ベンアリS(AW9F)を10.1/2馬身差で制した後、チャーチルダウンズのG1スティーヴンフォスターH(d9F)こそ、自身より4ポンド斤量が軽かったロンザグリークに頭差及ばぬ2着に敗れたものの、続くサラトガのG2フォースターデイヴH(芝8F)を5馬身差で快勝。カナダに遠征した次走のG1ウッドバインマイル(芝8F)を3.1/4馬身差で制すると、続くキーンランドのG1シャドウェルターフマイル(芝8F)も2.1/4馬身差の完勝と、向かうところ敵なしの状況で臨んだのが、ブリーダーズCだった。

 ダートのG1も制しているワイズダンゆえ、クラシック(d10F)を狙うという選択肢もあったのだが、陣営が矛先を向けることを決断したのは、直近にその路線のG1を連勝していたG1BCマイル(芝8F)だった。

 芝のレースゆえ、欧州から有力馬の参戦があるのは承知の上だったが、今年の欧州勢も強力だった。 

 1頭は、愛国からやってきたエクセレブレーション(牡4、父エクシードアンドエクセル)。昨年8月以降、フランケル以外には負けていないという強豪で、前走のG1クイーンエリザベス2世S(芝8F)を含めて、この路線のG1・3勝の実績を残していた。

 もう1頭は、仏国からやってきたムーンライトクラウド(牝4、父インヴィンシブルスピリット)。前走ロンシャンのG1ムーランドロンシャン賞(芝1600m)を制している他、ドーヴィルのG1モーリスドゲスト賞(芝1300m)を2年連続で制している快速馬だった。

 さらには、今年のブリーダーズCの舞台である西海岸で、芝8Fの重賞をいずれも好時計で連勝していたオブヴィアスリー(?4、父ショワジール)や、昨年のG1ケンタッキーダービー馬で、芝での勝ち鞍もあるアニマルキングダム(牡4、父ルワーデザニモー)など、地元の北米勢にも個性的な実力馬が揃っていた。

 この、多彩にして高水準のメンバーが集ったBCマイルを、ワイズダンは1.1/2馬身差で完勝。のみならず、1989年にアティカスがマークした1分31秒89を23年振りに更新する、1分31秒78というトラックレコードを樹立しての優勝を飾ったのである。

 実はブリーダーズCの前から、すべてのカテゴリーをひっくるめて、現在の北米で最も強い古馬はワイズダンではないか、との評価が定着しつつあったのだが、これに太鼓判を押す形となったのが、BCマイルにおけるパフォーマンスだったのだ。

 ロイヤルデルタか、ワイズダンか。2012年の全米年度代表馬に選ばれるのは、果たしてどちらか。

 来年早々に正式な発表があるまで、ファンの間では喧々囂々の議論が交わされることになりそうだ。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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