スマートフォン版へ

C.ウイリアムズ騎手(4)『外国人の立場から“日本ってすごい”と思えるところ』

  • 2012年12月24日(月) 12時00分
今回がウイリアムズ騎手インタビューの最終回。今年の凱旋門賞では、オルフェーヴルがあと一歩で世界に手が届くという2着。そして先日は、ロードカナロアが日本馬初の香港スプリントを勝利。世界レベルの活躍が目立ってきた日本競馬を、世界を知る名手はどう見ているのでしょうか。(12/17公開Part3の続き、通訳:木村孝也氏)

赤見 :ここまでお話をさせていただいて、ウイリアムズ騎手のお人柄がすごく伝わってきました。今までも思っていたのですが、レース後に検量前にいらっしゃる時、もちろん真剣な顔はされていますけど、怒った顔は見たことがないです。

ウイリアムズ :ちょっと横を向くと怒っていますけどね(笑)。

赤見 :えぇっ(笑)?!

ウイリアムズ :日本のジョッキーの中には、怒りや興奮が表に出る人もたくさんいますよね。もちろん僕もそうなることはあります。でも、馬は賢い動物なので、自分がそういう状態で跨ると馬に伝わりますし、それが良い方向に向くことはないですからね。それは習慣として怒らないようにしているんじゃなくて、自然とそうしています。ジョッキーとしての慣れじゃないけど、「またか…」と思うことはあっても、今さら怒らないです。

赤見 :ジョッキーは精神面が大きいですよね。

おじゃ馬します!

スポーツは「怒り」の向け方で結果が変わる

ウイリアムズ :これはたぶん、競馬だけじゃなくてテニスでもどのスポーツでも、怒りっていうものを正しい方向に向けるのか、ただ単に自分で怒ってしまって間違った方向に向けるのか、それだけで結果が変わりますから。

赤見 :デビューした頃はそういう失敗をされたこともありましたか?

ウイリアムズ :そうですね、やっぱりすごく若い時は…って、ごめんごめん、僕らはまだ若かったね(笑)。

赤見 :そうです。ベリー ヤング!

ウイリアムズ :いやいや、ベリーではないよ(笑)。でも、最後はやっぱり、人間関係が大事かな。どういう人と接しているかで、自分の人生が変わっちゃう。若い時に失敗しているからこそ、年がいってから上手くいくかどうかっていうのがあって。

赤見 :そういう良い経験を積んでおくことが大事ですね。

ウイリアムズ :そうそう。あとは良いエージェントに恵まれたりとか、ビジネスとしてやるのも、スポーツとしては大事かなと思います。

赤見 :そういう意味では、今回木村さんに通訳をしていただいていますが、外国人ジョッキー活躍の陰にマネージャーさんの存在もありますね。

ウイリアムズ :そうです!

赤見 :一緒に作戦会議が出来るっていうのも大きいと思います。

木村:そうですね。その作戦会議の時に、ジョッキーに紙を渡すんです。自分が乗る馬の過去のレース映像を見て「この馬はこういう馬」「こう乗ったらいい」ということを書いてもらうんですけど、そこにいっぱい書く人は、成績に比例するんです。やっぱり彼はいっぱい書きますからね。クリストフ・スミヨンもそうですね。そういう姿勢が何かを得ようとしていると思いますし、そういうところでも、本当のプロフェッショナルだなと思います。

赤見 :具体的にどういうことを書かれるんですか?

ウイリアムズ :その馬の癖とか、「こうした方がいい」という自分の考えとか、新聞を見て逃げ馬が何頭いるとか、この馬はこのポジションに行くだろうとか、レースで誰を見ていたらいいかとか、ほとんど作戦ですね。

赤見 :馬場チェックのお話もそうですし、そういう競馬に対する真面目さが、ファンの方の信頼にもつながっているんでしょうね。

木村:そうですね。自国ではスーパースターでも、日本に来て通用しないジョッキーも過去に何人もいましたよ。怒って途中で帰ったり、何かが合わなくて二度と来ない人も見てきました。でも、そこで通用するのが彼の姿勢だと思いますし、それが彼の成績にも表れていると思いますよね。

赤見 :ウイリアムズ騎手がトップジョッキーである理由が分かったように思います。さて、最後になりますが、世界の名手にぜひ聞いてみたかったのが、世界から見た日本競馬のレベル。ウイリアムズ騎手は、どう感じられていますか?

おじゃ馬します!

ロードカナロアが香港スプリントを制覇

ウイリアムズ :もちろん、日本のレベルは上がっています。でもね、単に言葉で「レベルが上がっている」っていうんじゃなくて、実際に日本の馬は、海外に行っているじゃないですか。いくら日本の馬が強いのなんのって言っても、やっぱり海外に行って、海外の馬と戦って、結果を出してこそですよね。

馬っていう動物は輸送に弱いですけど、日本の馬が凱旋門賞に出たり香港に行ったりして、輸送に耐えて結果を出しているので、明らかに日本のレベルは上がっていると思います。ただ単に馬のレベルが高い低い、血統上どうだとか、そういう意味だけじゃなくて、本当に目に見えて上がっていると思いますね。

赤見 :日本の競馬がもう一段上のレベルになるためには、何が必要だと思われますか?

ウイリアムズ :ん〜、すでに日本のレベルはすごく高いところにあるので、それ以上っていうのはなかなか言葉が難しいんですけど…。例えば、先日佐藤(哲三)騎手が落馬しました。ラチに接触して怪我したんですけど、今のオーストラリアではすごく良いラチが使われています。それが日本でも使われていたら、佐藤騎手がああいうふうにはならなかったのかなと。

佐藤騎手の場合で言うと、ラチが硬くて割れたんですよね。でもオーストラリアの場合は、ラチ自体が柔らかいので、当たってもゴロゴロゴロって。日本車って、柔らかくて衝撃を吸収してくれるでしょ。それに似ていますね。裁決の人にもオーストラリアの施設のDVDを見せたので、変わればいいなって思います。

赤見 :なるほど。

ウイリアムズ :これはあくまでも例えですよ。日本に必要なものを挙げなければいけない例として言うならば、そういう施設のセーフティーかなと。そこに関して何かをランクアップすれば、ジョッキーももっと怖がらずに乗れると思うし、安全に乗れるっていう理由から、もっと自分を表現できたり、もっと違うトライアルができたりするんじゃないかなって思います。

だけど、どのスポーツでも、高い人が上に上がるのと低い人が上がるのとでは、全然違うじゃないですか。日本はすでに高いところにあるので、それを表現するのは難しいけど、あえて言うならそういうセーフティーなところかなって。でも、今の日本は、こうして外国人ジョッキーがたくさん来ているじゃないですか。

赤見 :はい。

ウイリアムズ :それに慣れっこになっているかもしれないですけど、中には「出稼ぎに来て」って悪いふうに思われる人もいるかもしれないですけど、でもね、競馬をやっている外国人の立場から見て「日本ってすごいな」って思える違う角度の見方は、ライアン・ムーア、クリストフ・スミヨン、そしてクレイグ・ウイリアムズ、クリストフ・ルメール…これだけのトップジョッキーがなんで日本に来たがるのか、なんで日本で乗っているのか。それ自体が、すでに日本のすごさを証明しているんです。

赤見 :そう言われてみると、そうですね。ご自身のお名前もきっちり3番目に挙がりましたが(笑)、世界のトップジョッキーが一堂に会する、それってたしかにものすごいことですよね。

ウイリアムズ :そうです。なんでトップジョッキーがこんなに日本に来ているのかっていうことを分かってほしいです。それくらいすごいです、日本は! だから短期免許が狭き門になってきてはいるのですが、これからもジョッキー生活の上で、また日本に来たいなと思っています。

赤見 :それはうれしいです。ぜひ、来ていただきたいです!

ウイリアムズ :アリガトウ。その時はまたご飯食べようね!(了)

◆次回予告
2013年のトップバッター、1月のゲストは、12月20日付けで惜しまれつ騎手を引退した渡辺薫彦さん。人気ジョッキーの突然の発表…その決意の裏側には知られざる真実がありました。そして、テイエムオペラー、アドマイヤベガと共に「三強」として一時代を築いたナリタトップロードとの秘話も語ります。初回の公開は1月7日(月)12時。お楽しみに!

◆クレイグ・ウィリアムズ
1977年10月23日生まれ、オーストラリア出身。メルボルン地区を拠点とする騎手。93年見習い騎手としてデビュー。00年、オーストラリアンオークスを制し、GI初勝利。06年リーディングジョッキーに輝く。オーストラリアの他、イギリス、ドバイ、香港でも騎乗。06年にWSJSで初来日、翌07年同シリーズを優勝。10年に短期免許で来日。短期免許2日目に、ジャガーメイルで天皇賞・春を制覇。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング