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「ビーフバーガー」に馬肉混在、競馬サークルにも波紋

  • 2013年01月23日(水) 12時00分
 イギリスとアイルランドで「ビーフバーガー」として売られていた商品に、馬肉が混在していたことが発覚し、大きな問題となっている。

 アイルランド食品安全庁(FSAI)による衝撃の発表が行われたのは、15日(火曜日)の夜だった。イギリス、アイルランド両国で二千軒近い店舗数を誇るスーパーチェーン最大手「テスコ」で販売されていた「エブリデイ・バリューバーガー」や、中堅スーパーの「アルディストアーズ」で販売されていた「オークハースト・ビーフバーガー」など、ビーフバーガーと表示されて販売されていた27商品の成分分析を行ったところ、10商品から馬肉が検出されたのだ。FSAIによると、肉全体の29%が馬肉だった商品も見つかったという。同じ検査では、27商品中23商品から、豚肉が検出されたことも報告されている。

 調査を主導したアイルランドでは、農業省をはじめとした政府関係者もこの結果に大きな衝撃を受けており、警察当局を動かしての捜査に着手。問題の商品は、食品製造業者のライフィーミーツ社がアイルランドに持つ工場と、デイルパックハンブルトン社がイギリスの北ヨークシャーに持つ工場の、2か所から出荷されたことが確認されたが、それぞれの製造過程でなぜ馬肉が混在したかの経緯は、まだわかっていない。一部の報道では、オランダ、スペインから生肉の状態で輸入された素材に混在していた可能性があると伝えられているが、確認は出来ていない状況だ。

 問題の商品はただちに店頭から撤去され、その後FSAIは、仮に食していても健康への影響はないと発表。消費者はひとまず安心をしたのだが、一方で、健康被害が無いからといって済む問題ではないのが、今回の事件である。

 ヨーロッパでは、フランス語圏の国々で馬肉を食べる人々がいる一方、英語圏のイギリスやアイルランドには、馬肉を食す習慣がない。もっと言えば、馬肉を食べることはタブーと考えている市民が大多数なのだ。さらに宗教的観点から見ると、ユダヤ教徒は馬肉を食べず、一部のキリスト教徒も教義によって馬肉を食べることを禁じられている。

 また、問題となった多くの商品から、表示されていない豚肉の混在が明らかになったが、不浄なものとして決して豚を食さないイスラム教徒にとっては、知らないで食べましたでは済まない問題である。

 事件は、競馬サークルにも影響を及ぼしている。

 英国における競馬統括団体BHAは、事件発覚後まもなく、混在した馬肉が屠殺された競走馬である可能性を完全否定。競馬とは一切関わりのない事件であるとの声明を発表した。

 BHAの対応が早かったのは、それが競馬サークルにとって、安易に触れてほしくはないナイーブな問題に直結しているからだ。前述したように、英語圏の人々は馬肉を食す習慣がなく、そういう国々でことさらにタブーとなっているのが、競走馬の屠殺と食用への転用だ。イギリスだけでなくアメリカでも、競馬に関わる人たちにとって、引退した競走馬の末路が屠殺であったり食用だったりすることは、概念として「あってはならない」ことなのである。

「競馬とは一切関わりのない事件」であるにもかかわらず、だ。英国の国営放送BBCの報道番組「ニュースナイト」が、開催中だったリングフィールド競馬場にカメラを持ちこんだのは、事件発覚翌日の1月16日のことだった。競馬を楽しんでいた複数の観客が、ビーフバーガー成分偽装事件についての感想を聞かれ、その場面がレースシーンとともに放送されたのである。番組は、競馬と事件の関わりについて触れていたわけではないのだが、競馬関係者にとっては不愉快極まりない演出手法で、BHAは早速、BBCに対しても厳重な抗議を行うことになった。

 いずれにしても、食品偽装という市民生活の根幹に関わる問題だけに、1日も早い真相究明が待たれるところである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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