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残念ダービー

  • 2013年06月29日(土) 12時00分
「ラジオNIKKEI賞」と聞いて、あなたは何を、どんな馬を、そしてどんな言葉を思い浮かべるだろうか。

「福島競馬場」「ファイナルフォーム」「元のラジオたんぱ賞」などいろいろあると思うが、私の場合は何よりも「残念ダービー」である。

 しかし最近、このレースはあまり「残念ダービー」とは言われなくなった。それでちょっと寂しく思っていたのだが、今年は「残念ダービー」と呼ぶにふさわしいメンバーが揃った。

 以前、「残念秋華賞」というタイトルでこの稿を書いたことがあり、「残念桜花賞」の忘れな草賞に触れるなどしたが、簡単に定義づけすると、残念レースとは、「あるGIに出走できなかった馬や負けた馬が多く出るレースで、そのGIに(比較的)時期の近いレース」のことを言う。

 かつては、ラジオNIKKEI賞の前身のラジオたんぱ賞のほか、NHKマイルCができる前、ダービー翌週に東京芝1600mで行われていたニュージーランドトロフィー4歳ステークスも「残念ダービー」と呼ばれていた。

 ところが、昔ならラジオたんぱ賞やニュージーランドトロフィー4歳ステークスでダービー不出走や敗退の無念を晴らすしかなかった馬たちも、今はNHKマイルCで戴冠を狙える。GIのNHKマイルCが「残念ダービー」の役割を果たしているわけだから、ほかのレースがその役割を担う必要がなくなってしまったのだ。

 で、今年のラジオNIKKEI賞である。

 メンバー16頭のうち、ダービーに出た馬はフラムドグロワール(10着)だけだが、ダービートライアルに出た馬は、カフェリュウジン(青葉賞14着)、ダービーフィズ(青葉賞12着)、ミエノワンダー(プリンシパルステークス2着)と3頭いる。また、トライアルではないが、前哨戦となっている京都新聞杯にシンネン(4着)が出ていて、みなダービーの出走権を獲ることができなかった。

 さらに、NHKマイルCに出ていた馬が、ダービーにも出走したフラムドグロワール(3着)をはじめ、ガイヤーズヴェルト(5着)、カシノピカチュウ(9着)、シャイニープリンス(6着)と4頭もいる。

 前述したように、NHKマイルC自体が「残念ダービー」としての要件を備えているので、今年のラジオNIKKEI賞出走馬16頭のうち半数の8頭にとって、ここは「残念ダービー」なのである。

 今年62回目を迎えるラジオNIKKEI賞は「出世レース」でもあり、ハンデ戦になった2006年以降だけでも、1〜3着馬のうち、09年3着のストロングリターン、07年2着のスクリーンヒーロー、06年2着のソングオブウインドがのちにGIホースになっている。

 今年の出走馬のなかでも、特にガイヤースヴェルト、フラムドグロワールの2頭のダイワメジャー産駒には先々の可能性を感じる。能力を出し切れば、現時点でもクラシック上位組とそう差のないパフォーマンスを見せてくれるような気がする。

 久しぶりに「らしい」残念ダービーだけに現地観戦したいところだが、私は宝塚記念を観戦した翌日、関西空港から新千歳空港に飛び、そのまま札幌の生家に滞在している。

 フランスでの2か月に及んだ自主研修を終え、先週水曜日に帰国した飯田祐史調教師とメールで連絡を取り合ったところ、彼も今北海道にいるようだ。しかし、フランスにいたぶん馬産地回りに関しては出遅れてしまったので、それを取り戻すべく飛び回っているらしく、こちらで会うことはできそうにない。

 私が「ビッグになった飯田調教師に会うのを楽しみにしています」とメールに書いたら、彼からの返信の最後に「ビッグになったかなぁ。とりあえず、路上駐車を見ても腹が立たなくなりました(笑)」と書かれていた。ギャグの切れが増したのは、前以上に気持ちに余裕ができたからか。

 彼は人柄も頭もよく、様々な分野をカバーするアンテナを持ち、何より馬に対する情熱のある人なので、調教師として成功すると思う。

 木曜日は細かな雨が降っていた。北海道に梅雨はないとされているのだが、「蝦夷梅雨」という言葉がある。私は北海道出身なのに、その言葉を知ったのは、つい最近のことだった。新しい言葉なのか、それとも私が知らなかっただけなのか。

 飯田調教師のことだから、雨が降ろうが、熊が出ようが精力的に動いているのだろう。

 私も頑張ろう。何を頑張ろうか。よし、まずは残念ダービーの予想だ。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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