セントウルステークスでは、王者ロードカナロアに挑んだ。これまでの対戦は3月の高松宮記念のみで、ハクサンムーンは3着と好走したけれど、ロードカナロアには並ぶ間もなく交わされている。夏場に力を付けたとはいえ、評価は2番人気だった。
「相手が相手なだけに、『負かせるやろ』っていうほどの自信はなかったですけど、ムーン自体も力付けて来てたし、一発あるならこのタイミングだろうなと思ってました。カナロアが休み明けだし、斤量差もありましたから」
大外8枠13番からのスタート。ゲートが開くと、他の馬に比べ一歩目が遅かったように見えた。逃げ馬の出遅れ。普通ならば致命的な展開だ。
もともと一歩目っていうのは速い馬じゃないんですよ
「今回特に目立ったかもしれないけど、もともと一歩目っていうのは速い馬じゃないんですよ。二の脚でサーッと行くんです。一歩目出て、二三完歩してからトップスピードに行くまでの、ギアの入りがとてつもなく速い。今回大外枠だったから外から被される心配なかったんでね、焦ることなく行けました。あのくらいは全然想定内です」
酒井の言葉通り、ハクサンムーンは大きくはないがたびたび出遅れている。スタートが決まった時にも、一完歩目はそれほど速くない。この、逃げ馬としはマイナス要素と思えるゲートの出の遅さも、酒井はプラスに感じているという。
「逃げ切るためには、後ろに錯覚させないといけないんですよ。ムーンがスタート遅いのも、一つの重要な要素だと思ってます。何でかって言ったら、一歩目が遅いことで、『あ、出遅れた』って感じになるわけじゃないですか。周りはムーンがスタートの時点でポーンて抜けてるイメージがあるから、『あれ?ハクサンムーンは?』って一瞬思う。そこでシュッと抜けるでしょ。そうすると、押して出して来てる感じに見える。無理して行かせてるように見えるから、『ちょっとペース速いぞ』っていう錯覚に陥るんです。そこの心理を上手く働かせられるから。まぁ、プラスに考えたらですけどね」
そしてもう一つの逃げるための武器が、今まで貫いて来た『絶対に逃げる』というスタイル。
「レース前の駆け引きですね。この