普通なら万事休すとも思える窮屈な位置から、馬群を割って鋭く抜け出し、セントライト記念に優勝したユールシンギング。菊花賞への切符を手にした同馬を管理する勢司和浩調教師は「エネルギーの強さ」を勝因に挙げた。その「エネルギーの強さ」とは?そして菊花賞で結果を残すための調整法など、じっくりと語ってもらった。(取材・文/佐々木祥恵)
◆馬に合わせてじっくりとやってきた 勢司が初めてユールシンギングを見たのは1歳の時だった。「とてもバランスが良くて、この子は走りそうだ」と、感じた。ただ、想像以上にその馬体は大きく成長し、3歳1月のデビュー時には、552キロとなっていた。
「あくまで馬に合わせてじっくりとやっていましたので、美浦に入厩したのは、2歳の終わり頃でした。この子の完成度を考えると、例えば調教で作っていくのではなく、レースを経験させながら強く育てていこうと考えました」
デビュー戦は、明け3歳の1月27日、東京競馬場の芝1800m。松岡正海騎手が騎乗して、3着という結果だった。
「まだあの頃は成長途上で、どこまでやれるかと半信半疑でしたが、馬体が完成すれば、いずれ走ってくれると思っていました。その後の未勝利戦でも、故障した馬に影響を受けるなど(2戦目)、スムーズなレースができませんでした。スムーズにレースができていれば、もう少し早く勝てたかもしれませんけどね」
デビュー戦は成長途上で3着に敗れたユールシンギング
◆持って生まれた精神力の強さ スムーズさを欠く厳しい競馬をしても、精神的なダメージはなかった。
「それはもうこの子が持って生まれたものとしか言いようがないでしょうね」
勢司が言うように、この馬の場合、エネルギーの強さが精神力の強さに結びついているようだ。そして1番大事なポイントは、