スマートフォン版へ

Dr.コパさん(3)『主戦変更の決断、福永騎手・戸崎騎手に託したこと』

  • 2013年10月21日(月) 12時00分
圧倒的な強さで2歳の日本一に輝いたラブミーチャン。しかし、桜花賞トライアルのフィリーズRで大敗。3歳の春に2度目の挫折を味わいます。そこは焦らず、生まれ故郷で英気を養い、強いミーチャンが復活。その後は年を重ねるごとにメキメキとパワーアップし、6歳の今年は6戦5勝。華麗な復活劇に迫ります。(10/14公開Part2の続き、聞き手:赤見千尋さん)


◆6歳のミーチャン、パワーアップ
赤見 :3歳の春から秋にかけて、生まれ故郷の北海道に戻って、門別競馬場で走ったラブミーチャン。戻ってきて4歳、5歳、6歳と、1年ごとに強くなってきているように思います。

Dr.コパ :なっていっているでしょう? 牝馬ってだんだんしぼんでいくのが普通だし、中央でも6歳でブンブンやっている女の子なんてそうはいませんよね。浜ちゃん(浜口楠彦騎手)が最初に言ったみたいに、女馬とは思えないくらいだよね(笑)。

おじゃ馬します!

Dr.コパ「どんどん強くなってるでしょう」


赤見 :何かこう、ここに来てもう一段階パワーアップしたというか。

Dr.コパ :うん。あれはたいしたものだよね。お父さんのサウスヴィグラス自身、大井のJBCスプリントを獲った時が8歳(現表記7歳)。だから、結構奥手なのかも分からないね。

赤見 :そう考えると、2歳の時の活躍がまたすごいですね。

Dr.コパ :あれは多分、スピードの絶対値だけで勝てちゃったんだと思うんだよね。あとは、彼女にとって良かったのはやはり、4歳の時に「スーパースプリントシリーズ」ができたということですよ。それで3歳の時の辛さからよみがえりましたよね。

赤見 :得意なところを存分に活かせるようになって。しかも、シリーズの「名古屋でら馬スプリント」とチャンピオン決定戦の「習志野きらっとスプリント」は、創設以来の3連覇ですもんね。あと、前走のクラスターC、一昨年は3着でしたが、今年は着差以上に強かったですよね。

Dr.コパ :クラスターCのレース前は、パドックで「戸崎君、2年前には坂を上れていないけど、今年は上れると思う。でも、いつもより2呼吸3呼吸追い出しを遅らせてくれない?」と言ったの。そうすれば、ゴール前で必ず伸びるだろうと。だから彼はちょっと後ろを見て、しばらく待ってから追い出しているよね。

赤見 :最後は余裕に見えました。

おじゃ馬します!

クラスターCを戸崎圭太騎手で完勝


Dr.コパ :うん。抜け出してからも差される気がしなかったもんね。2歳の時の育成と一緒ですよ。男馬が周りに集まっても平気な顔してさ、「ふん、ついておいで」と言わんばかりの。あれが、あの仔なのよ。

赤見 :あぁ、本来のミーチャン。

Dr.コパ :そう、あの生意気なね。でも、この勝利はうれしかった。ご存じだと思うけれど、2年前の震災の年にも、岩手の人たちを元気づけようと思って行って。でも、坂で失速してドスライスにちぎられちゃったじゃない。それがあったから、今年勝ったら万歳しようと思っていたの。

◆戸崎圭太騎手起用の狙い
赤見 :それで、皆さんでやっていらっしゃったんですね。ところで、ここにきて圭太さんを鞍上に指名された訳というのは?

Dr.コパ :多分あの仔なら、誰が乗っても走れるとは思うんですよ。ただ、今一番あの仔をゴール前までリズムを崩さずに走らせてくれるのは戸崎君かなと。そこが僕の狙いなんだよね。

あの仔は腰が甘いので、上であまり跳ねたりするとバランスが崩れてしまう。なぜ、(今年の初めに)福永君に依頼したかというと、彼もものすごく当たりが柔らかくて、ピシッとしているんだよね。ラブミーチャンにはそういう騎手の方がいいかなと。

赤見 :ジェントルマンのようにエスコートするような。

Dr.コパ :そうそう。浜ちゃんが追っている姿を見た時、ラブミーチャンがちょっと走りにくそうに見えたの。彼女にそれが分からないうちは良かったけど、4歳5歳になって彼女もだんだんレースが分かってきたんだよね。それで、どうも浜ちゃんと意思の疎通がうまくいっていないように感じて。浜ちゃんにもそれは言ったことがあるんだけど、やはり浜ちゃんの乗り方もあるからね。

それで、他の騎手を乗せてみようという第1弾が、福永君だったわけです。いろいろ批判も浴びたけどね。浜ちゃんの地元の笠松で乗ったわけですから。だけど、福永君が乗ったら、ラブミーチャンが走りやすそうだったのよ。「あぁ、なるほど。今のラブミーチャンにはあまり動かない騎手がいいんだな」と。そういう意味で今は、戸崎君が一番いいかなって。ましてミーチャンは地方馬の代表だから、地方出身で、しかも地方のトップを獲った戸崎君がふさわしいんじゃないかなというように思ったの。

赤見 :そういうことだったんですね。でも、3連覇がかかった習志野きらっとスプリントの時は、結果的には乗れませんでしたが、浜ちゃんの予定でしたもんね。あれだけの馬に乗れるのは、騎手の喜びでもあります。

あの、一つ気になっていたのが、圭太さんが乗られる時は、圭太さんの地方時代の勝負服で乗っているじゃないですか。地方馬に中央のジョッキーが乗るから、普通だったら枠服ですよね?

Dr.コパ :そうです、本来のルールでは枠服です。そこは改革していこうと思っているんですけど、競馬場ごとに多少規約で違いがあるんですよね。笠松で福永君が乗った時は、僕の中央の勝負服でした。高知の時も、僕の勝負服だったんです。でもこの間の盛岡は、中央の勝負服はNGで、枠服と言われたんです。だけど、せっかくの記念撮影ってなったときに、枠服っていうのはね。

赤見 :しかも、ファンの方もたくさん見に来てくれている中で。

Dr.コパ :だから、僕の服で乗れないとしても、枠服では嫌だと。それなら戸崎君の地方の時の勝負服を認めてくださいと、オーナーサイドとしてお願いをして。

赤見 :そういういきさつがあったんですか。そういうところも、改革ですよね。

Dr.コパ :うん。あと、ラブミーチャンが改革したことが、北海道の門別にいた時に、そこから中央競馬(函館)に直接入厩ができたこと。本来のルールでは、地方馬が中央に遠征する時は、所属場からじゃないとダメだった。だからあの時も、規約では一回笠松に戻ってから行かなければいけなかったんです。

赤見 :えっ。同じ北海道にいるのに一旦笠松に戻るなんて…。

Dr.コパ :そんなことでは、馬が壊れちゃいますし、それこそ公正競馬に反しますよ。でも、JRAは「放牧している馬と同じだから、笠松で検疫を受けてから出なければならない」と。「でも、門別競馬場にいる以上、競馬場としてちゃんと管理できているわけでしょう?」と言ったんです。

赤見 :確かに。

Dr.コパ :「北海道に移籍したら大丈夫です」って言うから、「それはできません。この仔は引退まで“笠松のラブミーチャン”ですから」って。それで各方面に掛け合ってもらって、門別から直接行けたんです。これは大改革なんですよ。そうやって考えていくと、馬のためにやれることはいろいろあるよね。

おじゃ馬します!

Dr.コパ「馬のためにやれることがある」


でもね、ラブミーチャンのような強い馬がいるから、主催者も聞く耳を持ってくれるっていうのはあると思う。だからあの仔が元気でいるうちに、できることをやっていこうと考えているのね。地方にもっと2歳馬を入れるにはどうしたらいいのかとか、あとは賞金の面も考えていかないとね。だって、何かちょっと不合理だなと思うよね。

赤見 :中央と地方の差が、あまりにもありすぎますよね。

Dr.コパ :ありすぎるよね。レースでも、優勝劣敗だからどんどん強い馬がぶつかってくればいいじゃないかと言ったって、現実的に中央の馬があれだけ強い仕組みになっちゃっている以上ね。ハンデだってそんなにあるわけじゃないし。そういうNARとJRAの関係をどうするのかということもやっていきたいと思っているんだよね。

赤見 :サマーセールで毎年たくさん馬を買われたり、日高の馬産地も応援されていらっしゃいますよね。馬主さんとして、いろいろな努力をされていらっしゃいますね。

Dr.コパ :そうしていけば、地方競馬はきっと良くなっていくと思うしね。強い馬が自分の元に来るということは、何か僕に仕事があるから来ているわけです。そうやって思うと、やらなければいけないことがあるんだろうなと思っているんだよね。馬が強くなると同時に、オーナーの格も上がってくる。それと同時に、その関係しているサークルに何かやるべきことがあるんだよね。(Part4へ続く)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング