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メイショウ・松本好雄オーナー(3)『馬が集まってくるいい循環“僕は偉そうにしているだけ”』

  • 2013年12月23日(月) 12時00分
おじゃ馬します!
馬主歴40年を誇る松本オーナー。これまでの所有馬は1200頭を超え、重賞勝利は50勝以上。さらにはメイショウサムソン、メイショウマンボで、牡牝クラシック制覇。この長きに渡って積み上げてきた実績は、『人がいて 馬がいて そしてまた人がいる』というオーナーの信念によるもの。“メイショウ”の活躍の訳に迫ります。(12/16公開Part2の続き、聞き手:赤見千尋)


◆サムソンやボーラ―の仔を買いたい

赤見 :メイショウマンボは、遡るとお祖母ちゃんがメイショウアヤメ、お母さんがメイショウモモカという、3代“メイショウ”血統ですけれども、最初から、ここまでがんばってくれる馬だというのは感じてらっしゃったんですか?

松本 :いや、全然感じてない(笑)。メイショウアヤメっていうのは、桜花賞トライアル2着で、本番が7着かな。結構スピードがあって、ずいぶん期待したんだけどね。繁殖に上がって良い仔を出すだろうなって、みんな楽しみにしていたんだけど、まぁこれが全然走らない。

その走らない子どもがお母さんになって、それがメイショウモモカという。で、種馬を見ても分かるように、マイナーなスズカマンボをつけてということですからね。本当に、期待も何にも。

赤見 :でも、そうやってご自身で買われた馬を繁殖に上げて、その血脈を育て続けてこられたからこその。

松本 :まぁ、出会いなんですよね。メイショウマンボもメイショウサムソンも、もともとの出が、寺越政幸さんという牧場なんです。そこでアヤメを買って預けて、モモカが生まれて、モモカも預けて。で、サムソンも、お母さん(マイヴィヴィアン)が寺越牧場へ来て。同じような血統が2頭いたので、そちらを親戚の林孝輝に渡したんですよ。その時にお腹に入っていたのがオペラハウスの仔。生まれたのがサムソンなんですよ。

赤見 :それが後のダービー馬に。

松本 :うん。サムソンもね、これも期待してなかった。サムソンが1歳の2月ぐらいの頃だったかな。瀬戸口調教師がね、自分が近く定年になるので、僕の馬が1頭もいないのはさびしいから「何か買っていいですか」って言うので、「あぁ。どうぞ、どうぞ」って。それで探してきたのがサムソンだったの。丈夫そうで、障害でも何でも出来そうな感じだなって。

赤見 :サムソンの印象は丈夫そうと(笑)。そういう人とのつながりから、オーナーのもとに馬が集まってくるんですね。オーナーご自身が牧場で馬選びをされることもあるんですか?

松本 :ありますよ。牧場に行って「なんか残っている馬あるの?」って言って。「あります」「じゃあ見ようか」って、その中で選びます。もし何か欠点があったら、周りが教えてくれますわ。だから皆さんで決めてもらって、僕は偉そうにしているだけ。

赤見 :いや、全然偉そうではないです。でも、そういういい循環を、オーナーご自身が長年作って来られたんですね。

松本 :そうなんですかね。

赤見 :今年のサマーセール、オータムセールで取材をしていたんですが、サムソンの子どもを買っていらっしゃって。やっぱり愛着というのは?

松本 :愛着というよりね、売れなかったり前評判が上がらないと、牧場がかわいそうだなと思うんですよ。せっかくサムソンやメイショウボーラーをつけくれたのに、皆の目がこっちに向かないとね。

それは、牧場の人の顔を見たら分かるんだわ。最初はうれしそうに曳いていて、売れない、多分もうダメだろうとなるとね。そうしたら、その馬に欠点がなければ買ってね。キンカメを買うよりは、こっちを買った方が。キンカメ1頭で、5頭ぐらい買えますしね。

赤見 :本当に、人とのつながりを大事にやってこられているんですね。しかも、厳しい日高の救世主ですよね。

松本 :いえいえいえいえ。そんなことはないんだけど、原点には、やっぱり競馬というのは、どの馬が走るか分からないという。世界中のみんながやっていることであって、僕らが今さら馬に精通して馬選びの目を持ってもしょうがないというのがね。馬に携わった時からずっとそうですよ。

赤見 :じゃあ、具体的なものよりも、人とのつながりを大事にと。

松本 :うん。そっちの方が大事だっていいんじゃないの?

◆ここ10年ぐらいは達観してます

赤見 :そのお考えが、サムソンやマンボの活躍として返ってきているように思います。しかも、オーナーの馬が勝つと、口取りの人数がものすごいですよね。マンボもすごかったですし、サムソンのダービーの時もすごくて。

おじゃ馬します!

松本 :ダービーはすごかったね。サムソンで一番多かったのは、菊花賞の時。三冠がかかっていて、大本命になったから。250人ぐらいで行ったんじゃないかな。

赤見 :250人!? 会社の方とですか?

松本 :会社の子が主体で、あとは地元の明石の人らとね。

赤見 :皆さんで応援されているんですね。

松本 :応援しているのかどうか、分からんけど(笑)。

赤見 :それにしても、オーナーは最初から今のようなお考えだったんですか?

松本 :いやいや、最初は全然分からないから、調教師が「これいいですよ」って言ったら、「あぁ、そうですか、そうですか」って。でも、ここ10年ぐらいは、もう大体達観しているからね。

赤見 :もうだって、40年ぐらい馬主をやっていらっしゃる?

松本 :40年やっているんですよ。ユタカの通算3500勝もすごくて、前人未到なんですけど、個人馬主で1400勝というのは、これも絶対にできない。例えば25歳とか30歳ぐらいで馬を持ってもですよ、毎年50勝を30年やって、1500勝ですよ。毎年50勝しようと思ったら、もう大変。それはできないです。

赤見 :馬を持ち始められた頃と今とでは、時の流れで、競馬界もだいぶいろいろなことが変わってきたと思うんですけど、その辺りは実際に歩んで来られてどうですか?

松本 :そうね。初めの頃は僕らもよく分からなくて、無我夢中で、少しでもたくさん馬を持ちたいなという気持ちでいたんですけど。阪神馬主会の副会長、会長をやり、日本馬主協会連合会の会長を長い事務めましたのでね。その中で競馬の仕組み、それから良い点悪い点、そういうのは、もうはっきり分かってきましたね。

赤見 :馬主というだけじゃなくて、いろんな角度から見ることも?

松本 :そうですね。されば、どうすればいいかということになると、いろんな面で非常に問題はあるんだけど、日本の競馬の今のやり方で、治さなきゃいけないところは、はっきり分かってきたような気がしますね。これは、僕なりにですよ。

これだけ僕もどっぷりと競馬の世界にいて、いろいろお世話になったりして、何とか良いように進んで欲しいなという気があるものですからね。だから競馬会、調教師会、騎手会、厩務員会、みんな僕を煙たいんじゃないですか。

赤見 :えっ、そんなことないと思います。

松本 :でも、僕は言いますよ。厳しい事を。

おじゃ馬します!

松本「僕は言いますよ、厳しい事を」


赤見 :ファンの方も望んでいることでもありますからね。

松本 :うん。ファンが大事だっていうのは、これはもうみんながよく分かっていて。でも、大事にするというのと、ファンがより楽しい競馬をやるために、1つ1つのことをちゃんとやって行かなきゃいけないという、それとは相反している場合も多いので。ファンには見えないようなものもあるから、それはいずれ、形になって表れてきますから。そういうことにも気を付けながら、改正改良をしていかなきゃいけないんですよね。だから、厳しい発言もするんです。(Part4へ続く)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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