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ジャスタウェイ・大和屋暁オーナー(3)『恐怖!セレクトセールのプレッシャー』

  • 2014年03月17日(月) 12時00分
おじゃ馬します!
大和屋オーナーの強運人生がもたらした、最高の宝物“ジャスタウェイ”。2010年のセレクトセールで1200万円で購入された同馬は、一見偶然のような、必然の結びつきで大和屋オーナーのもとにやってきました。その驚きの出会いが明かされます。(3/10公開Part2の続き、聞き手:赤見千尋)


◆GI馬を見抜いた真相を激白

赤見 ジャスタウェイとの出会いをお聞きしたいのですが、2010年の1歳セレクトセールで、1200万円でご購入。どんなところに目を付けられたんですか?

大和屋 ハーツクライの産駒が出てきたら、順番に手を挙げていたんですよ。

赤見 えっ、本当ですか!?

大和屋 本当ですよ(笑)。正確に言うと、最初に購入したのは、その前の年のセレクトセールの馬なんです。ハーツクライの初年度で、その馬はデビュー前に死んでしまったんですけど。それで、次の年に2年目の世代をカタログ順で、牡馬でも牝馬でも買えるものならって。そうしたら、買えました。競ってくる人がいなかったのは、あの外向のお蔭だったんですけどね。

赤見 えぇ…。でも、ハーツクライもそうだったから?

大和屋 そうそう。競り落とした後に、社台スタリオンの角田先生が、「ハーツクライの一口さんだったんですね。それならこの外向も問題ないですね」って。それで「もちろんです」と。

赤見 じゃあ、馬を見たのは、競りの場に出てきた時が初めてだったということですか?

大和屋 そうです、そうです。だって、前もって見ても分からないですし。分かります? 見て分かるんだったら、はっきり言って俺達の出番はないですよ。それはもう、何億の馬が走りますよっていう話じゃないですか。

赤見 たしかに。ハーツクライの産駒は、その時はまだ値段は?

大和屋 まだ走っていなかったですからね。もし人気だったら、1200万じゃ買えなかったですよ。本当は、この年で言うと、サビアーレの子(カポーティスター)が落とせると思っていたんです。カタログの順番で言うと、その馬がハーツクライの最後だったんですけどね。

結局3900万で、その馬が一番高かったという。「俺、見る目ねぇな」っていう話ですよ(苦笑)。それが一番安いんじゃないかと勝手に思っていたんですけど、そんなわけはなかった。「あぁ、先に落とせていて良かった」っていう。

◆大金が動くセリの舞台裏

赤見 でも、セリって難しいですよね。この時はご自身で競ったんですか?

大和屋 はい。誰も知り合いがいなかったですから。

赤見 ええっ!? じゃあ、1人で「はい」って声を出して?

大和屋 そうです。大きな声で、「ハイッ!!」って手を挙げて。それを何年か後に、須貝さんに怒られました。「手はそんなに挙げなくていいんです。もっとカッコよく」って(笑)。でもね、手を挙げるまでも、大変でしたから。

最初の年は、手も挙げられなかったんですよ。だって、1回挙げたら100万ですよ。「何これ…」って、怖くて、具合が悪くなって。それで2年目は、何とか1回は手を挙げようって、1回は挙げたんですけど競り負けて。3年目は「お前、いい加減落とせよ」って知り合いに追い込みを掛けられまして。

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▲2010年のセレクトセールの様子、高額取引が続々


赤見 それで、3年目にようやく。

大和屋 そうです。馬ってそんなに簡単には競り落とせませんよ。セレクトセールは特に。

赤見 他の方には相談されず、ご自身の意思で買われたんですか?

大和屋 はい。それも良かったんじゃないですかね。ジャスタウェイの次の日に買ったのがオツウですから。それも「せっかくだから、もう1日北海道にいてもいいよね」という感じで。競り場に出てきてパッと手を挙げたら、誰も競って来なくて落とせました。

赤見 オツウちゃん、かわいい!!『銀魂』のアイドルですよね。それにしても、ずっとハーツクライ産駒を選ばれていて。ブレないですね。

大和屋 それはだって、損した時に嫌な気持ちになるじゃないですか。ディープインパクトの仔で全然走らなかったら、ショックでしょ。「なんで、ディープで走らないんだ!」ってなるじゃないですか。でも、ハーツの仔だったら「まぁ、しょうがないか」って。

赤見 思いがありますもんね。

大和屋 そうそう、そういうことです。ハーツの仔ならしょうがない。

◆シルバーコレクターからの脱却

赤見 ジャスタウェイって、本当にハーツクライと同じような道をたどっていますよね。

大和屋 勝ちきれなくて、「また2着」みたいな(苦笑)。「2着ならいいよ」って言う人がいるんですけど、2着では絶対にダメです。だって、負けているんですからね。

赤見 新馬戦を勝った後の新潟2歳Sも2着でした。

大和屋 あれも悔しかったですね。1番人気でグリグリだったじゃないですか。負けるわけがないって思っていましたから。そうしたら2着で…。すぐ帰りました。その時に須貝さんから電話が掛かって来て、「これが競馬です、大和屋さん」って。名言(笑)。

赤見 名言(笑)。しかもジャスタウェイの場合、あれだけの脚で差して来て僅差で負けたりすることが多かったですから余計にですよね。これまでで一番悔しかったレースと言いますと?

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▲赤見「ジャスタウェイは、あの末脚で僅差の負けというのが」


大和屋 どれですかね。大きく負けても悔しいんですけど…、あれかな、去年のクラレントに負けたエプソムC。あの時は本当、右往左往しました。「どうなるの、どうなるの? 同着だったらどうなるの?」って。

赤見 勢いはジャスタウェイが。

大和屋 そうなんですよ。ゴールした時は「やられたか」って思ったんですけど、東京のスロー映像って、内が強く見えるじゃないですか。それを見ると「もしかしたら勝ってる!?」みたいな感じで。でも、結局負けてしまって。ハーツクライのジャパンC(2着)を思い出しました。

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▲接戦のエプソムCを制したクラレント(撮影:下野雄規)


赤見 そのエプソムC、関屋記念で連続2着でしたが、夏を越えて毎日王冠2着から、天皇賞・秋を優勝。今年初戦の中山記念も優勝。一気に強くなった感じがしますが、これもハーツクライと同じで、成長するのが4歳の秋と言いますか。

大和屋 そうですね。昔は絶対にそれは言わないようにと思っていたんですけど。晩成型っていうか、ずっと成長し続けるタイプで、うちの子もそんな感じですよね。

それに、あの子は休むと強くなるんですよ。天皇賞の前日に、角田先生と須貝さんと飲んでいたんですけど、「レースの後はどうしましょう」というお話になって、「休ませるのがいいんじゃない」ということになったんです。それが良かったのかなと。

赤見 天皇賞であれだけ強い勝ち方すると、そのまま休ませるっていうのはすごく大きな決断ですよね。

大和屋 そこはなんだか、変な風に欲に目がくらまなかったところは「ちょっと俺、偉いな」って思うんですけど(笑)。去年は夏の間も使っていましたし、それを考えてもいい判断だったんじゃないかなと思っています。

赤見 中山記念を勝って、いよいよドバイが見えてきました。ドバイへ行くのは、いつ頃から考えられていたんですか?

大和屋 結構前から言っていましたね。それこそアーリトンCの辺り? いや、もっと前からかな? 須貝さんとお酒を飲んでいる時に「ドバイに行きましょう」って。俺が行きたいのもあったんですけど、やっぱり目標は大きく持たないと! しかも、ご招待じゃないですか。

赤見 海外遠征って馬主さんにとっても大変なこと。

大和屋 そうです。確か、ハーツクライのキングジョージ(3着)の時は、賞金がそのまま遠征費で消えていたような気がします。自腹で行こうとはなかなか思わないですよ。

赤見 ドバイという大きな夢を、ハーツクライの仔で叶えるという。

大和屋 すごいことですよね。あとは勝つのみ! 何とかいけたらいいなと思っています。(Part4へ続く)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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