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【最終回】皇帝の誕生(シンボリルドルフ)

  • 2014年05月19日(月) 12時00分
名馬



◆日本史上初の無敗の三冠馬

 昭和59(1984)年11月11日。京都競馬場に突如として、ベートーベンのピアノ協奏曲第5番『皇帝』が流れた。晩秋の陽が落ちるのは早い。時計は午後3時40分になるころだったが、すでに菊花賞のゴールポストには照明がともっていた。

 そこをシンボリルドルフが先頭で駆け抜け、日本競馬史上初の無敗の三冠馬が誕生した瞬間、この曲が流れたのである。神聖ローマ帝国の皇帝「ルドルフ1世」にちなんで名づけられたシンボリルドルフ。ベートーベンの『皇帝』は英雄ナポレオンを意識したものだが、三冠馬誕生をたたえる曲としてこれほどふさわしいものはなかった。

 その前年、ミスターシービーがシンザン以来19年ぶり、史上3頭目の三冠馬に輝いたばかり。このとき2年連続で三冠馬が誕生するなど誰が予想しただろう。生産はシンボリ牧場。社台ファーム、メジロ牧場とともに1980年代の競馬を彩った名門牧場である。

 父のパーソロンは和田共弘オーナーが欧州から輸入し、テスコボーイと1970代に2大派閥を築いた名種牡馬だ。母の父スピードシンボリも1960年代の日本を代表する名馬で、まだ海外遠征など夢のまた夢だった時代に、欧州に長期滞在して大健闘を見せた。母のスイートルナもシンボリ牧場の生産。オーナーブリーダー(馬主兼生産者)色の強い配合で、和田オーナーのホースマンとしての夢、意地、情熱、執念がそこに凝縮されていた。

 デビューは2歳の7月。牡馬のクラシック三冠(皐月賞、日本ダービー、菊花賞)を意識する馬としては、かなり早いデビューだった。夏のこの時期にデビューする馬は、総じて早熟タイプが多い。しかし早く仕上がるということは、育成、調教メニューを順調にこなす頑健さの証明でもある。

 むろん、シンボリルドルフは後者のタイプだった。デビュー戦を楽勝するとすぐに休養に入り、10月に復帰したが、格の高い重賞レースはまだ使わない。1600mのオープン戦を2つ勝って再び休養。復帰は3か月後、翌年3月の弥生賞だった。プラス16キロの馬体増で、初の重賞挑戦ということもあって、人気は実績で勝るビゼンニシキに譲った。だが、終わってみれば1馬身4分の3差の楽勝。

 続く牡馬クラシックの第1弾、皐月賞は一転して22キロの馬体減。弥生賞で外傷を負って余儀なくされ、その運動の遅れを取り戻すため、強めの調教を課したのが原因だった。しかし最後の直線はビゼンニシキと再び一騎討ち。1馬身4分の1突き放してレコードで勝利した。

 このため5月の第2弾、日本ダービーでシンボリルドルフは、単勝1.3倍の圧倒的な支持を集めた。2000mの皐月賞をレコード勝ちして、デビュー以来5連勝。血統的にも不安要素はないに等しかった。ところが、鞍上の岡部幸雄が道中で仕かけても、いっこうに反応しない。東京競馬場のスタンドが騒然となったが、最後の直線に入るや今度はみずからが動き、先行馬を力強く抜き去って二冠目のゴールを駆け抜けた。後年、取材で岡部は「ルドルフに競馬を教えてもらった」と苦笑いしている。

 夏場を休養。秋初戦のセントライト記念もレコードで勝って、デビュー以来7連勝。次に挑んだのが三冠馬をかけた菊花賞だった。だが、もはやシンボリルドルフの向かうところ、どこにも敵はいない。最後の直線で抜け出すと、外から強襲してきたゴールドウェイを退けて、日本史上初の無敗の三冠馬に輝いた。

 春の日本ダービーを勝った時点で“皇帝”というニックネームは、すでについていたように思う。しかし、ベートーベンのピアノ協奏曲第5番『皇帝』とともに、菊花賞のゴールシーンは「皇帝誕生」の瞬間として、今も多くのファンの脳裏に焼きついている。

 それから21年後の平成17(2005)年、ディープインパクトが史上2頭目の無敗の三冠馬に輝いたが、皇帝シンボリルドルフの存在感は少しも薄れていない。(吉沢譲治)

◆レース詳細
1984年11月11日
第45回 菊花賞(GI) 京都/芝右 3000m/天候:曇/芝:稍重

1着 シンボリルドルフ 牡4 57 岡部幸雄
2着 ゴールドウェイ  牡4 57 南井克巳
3着 ニシノライデン  牡4 57 伊藤清章

◆競走馬のプロフィール
シンボリルドルフ(牡4)
父:パーソロン
母:スイートルナ
騎 手:岡部幸雄
調教師:野平祐二(美浦)
馬 主:シンボリ牧場
生産牧場:シンボリ牧場
※年齢は当時の旧年齢表記

■1984年 菊花賞

1984年 菊花賞 映像

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