■ジョッキーとはつくづく業の深い仕事 競馬学校2年生のとき、授業の一環でトレセンでの厩舎実習があった。その名の通り、調教も含めてトレセンでの一連の作業を学ぶのだが、ある日、北橋先生に呼ばれて馬房に行ってみると、1頭の馬の馬房の前に獣医さんがいた。
ストロングアモール。大井から転厩してきた馬で、自分が調教に乗っていた馬だった。中央初戦を2番人気で迎えたが、レース中に骨折して競走を中止。安楽死処分が決定していた。
横たわった馬に獣医さんが注射を打つと、立ち上がれないはずの馬がいきなり立ち上がって、次の瞬間、バタンと倒れた。もう、可哀そうで可哀そうで、自分は何も考えられずにビービ―泣いているだけだった。
直視していた自分に「いいか祐一、ちゃんと見ておけ。俺たちの仕事はこういう犠牲の上に成り立っている仕事なんだぞ」って。先生はそれしか言わなかったし、自分もすぐには理解できなかったけど、「馬は命を懸けて走っていること、だから馬に対しては真摯でいなければいけないこと、でも過度な思い入れは禁物であること」など、いろいろと教えようとしてくれていたんだと思う。
その出来事は、ジョッキーになってから今に至るまで、自分に大きな影響を及ぼしている。