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“伝説の新馬戦”の生き残りエーシンビートロンが重賞初挑戦、初制覇/サマーチャンピオン

  • 2014年08月20日(水) 18時00分
サマーチャンピオン

“伝説の新馬戦”の生き残りエーシンビートロンが重賞初挑戦、初制覇(撮影:武田明彦)



相当自信を持っていたエーシンビートロン陣営

 ピンポイント予報で雨は覚悟していたが、競馬場に着いて、今年の中国・四国・九州地方の、大きな被害が出るほどの長雨を実感させられた。この原稿を書いているのは当日の夜なのだが、ちょうどニュースで、朝には佐賀市内(競馬場のある鳥栖市とは少し離れているが)で1時間に55mmという集中豪雨があったことを伝えていた。

 昼過ぎに雨は小康状態になっていたが、サマーチャンピオンのひとつ前のレースのあたりでは、雷と強風をともなった強い雨があり、コースは一面に水が浮く状態となった。このまま降り続けばレースはどうなるのかと不安になるほどだったが、幸いにもサマーチャンピオンの本馬場入場あたりで雨は弱まってくれた。

 そんな馬場状態を味方につけたということもあっただろう、重賞初挑戦の8歳馬エーシンビートロンが逃げ切りで5馬身差の圧勝となった。「怖いのはガンジスだけだったんで、ハナに行ったときに勝ったなと見ていました」(西園正都調教師)、「ペースが速いのはわかっていたので、自分がバテるか、ついてきた馬がバテるかと思っていた」(武幸四郎騎手)ということだから、相手関係も道悪も相当自信があって臨んでいたようだ。

 勝ちタイムは1分26秒1。2011年のこのレースでスーニが出した1分23秒8(重)というコースレコードより2秒ちょっと遅いが、この評価は難しい。そもそもサマーチャンピオンの勝ちタイムにはかなりバラつきがあって、もっとも遅い勝ちタイムは2005年(第5回)、アグネスジェダイが勝ったときの1分28秒3というもの。スーニの1分23秒台というのは特別に速かったが、過去に1分25秒台が4回あり、そのうち3回は稍重〜不良。一度の良馬場は天気が小雨となっているから、良馬場でも湿った馬場だったと考えられる。良馬場は9回あるが、1分25秒台はその一度だけで、いずれも1分26秒台かそれより遅い決着。佐賀のダートは相当重いが、雨で湿るとかなりタイムが出やすくなる。今年は不良馬場で1分26秒1だが、水が浮くほどの状態では、さすがに時計は遅くなった。今回は、単なるダートでのスピード馬よりも、そうした特異な馬場を気にしない馬が恵まれたということはあったかもしれない。

 勝ったエーシンビートロンから5馬身離されての2着争いは3頭横一線の接戦。2着は名古屋のピッチシフター、3着は兵庫のタガノジンガロと地方馬2頭が健闘を見せた。2頭ともに、同じように水の浮く馬場になった4月のかきつばた記念(名古屋)に出走していて、タガノジンガロが勝ち、ピッチシフターも4コーナー2番手から見せ場をつくっての4着だった。今回それが逆転となったのには、いくつかの要因が考えられる。まずは斤量。タガノジンガロは2kg増の56kgに対して、ピッチシフターは据え置きの52kgだった。もうひとつは枠順と展開。かきつばた記念ではピッチシフターのほうが外の枠で、先に仕掛けて3〜4コーナーで外々を回ったのに対し、今回はタガノジンガロのほうが外の枠に入って先に仕掛けた。名古屋も佐賀も1周1100mで、直線が200m以下と短い。勝負どころの3コーナーからは、外目にいればどうしても早めに動いて行かざるをえない。さらにピッチシフターは、「今年は何度かレースとフケの時期が重なることがあり、今回は最近の中では一番走りがよかった」(大畑雅章騎手)とのこと。いずれにしてもこの2頭は、かきつばた記念の好走がフロックなどではなく、JpnIII程度のメンバーであれば、勝ち負けできる実力があることは確かだ。

 そして勝ち馬の直後を追走したガンジスは、最後の100mで突き放され、さらに上記の地方2頭にも、ハナ、アタマという差での4着。昨年も1番人気の支持を受け、向正面でエーシンウェズンに一気にまくりきられての2着だった。今年も1番人気と期待されたが、2着争いに屈しての4着は、勝ち馬を負かしにいったぶんがあったかもしれない。この馬自身のタイムは、昨年が1分27秒2(良)で、今年が1分27秒0。馬場には関係なく、この馬の力は出し切っているといえそうだ。

 ちなみに、勝ったエーシンビートロンは、いわゆる“伝説の新馬戦”の生き残り。もう6年も経つので説明しておくと、“伝説の新馬戦”とは、2008年10月26日京都第5レースの2歳新馬戦。1着アンライバルド(皐月賞)、2着リーチザクラウン(日本ダービー2着、マイラーズCなど重賞2勝)、3着ブエナビスタ(桜花賞、オークス、天皇賞・秋、ジャパンCなどGI・6勝)、4着スリーロールス(菊花賞)で、その5着がエーシンビートロンだった。それにしても8歳にしての重賞初挑戦での勝利はすばらしい。「長い休養があって体は若いので、まだ4、5歳のつもりで接しています」(西園正都調教師)とのこと。今後はさらに大きいタイトルを狙うということで、その活躍次第では、“伝説の新馬戦”はさらなる伝説となるかもしれない。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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