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青森紀行(2)〜クワイエットデイ、トウカイワイルド、ローレルアンジュを訪ねて【動画有り】

  • 2014年08月26日(火) 18時00分
第二のストーリー

▲青森紀行第2弾、ワールドファームを訪ねて


アテ馬の仕事を上手にこなすクワイエットデイ


 車は八戸市からさほど遠くない三戸郡階上町にあるワールドファームに向かっていた。車窓から見上げた空は、雲が広がりどんよりとしていた。どうか取材が終わるまで、雨が落ちてきませんようにと祈るような気持ちでワールドファームに到着した時は、まだ空は持ちこたえていた。

 笑顔で出迎えてくれたワールドファーム代表の村上百合子さんと高校生のアルバイト・菊池翔さんに案内されて、雨が降らないうちにと早速放牧地に向かう。奥にクワイエットデイ(牡14)、手前がトウカイワイルド(牡12)と説明を受けた。

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▲三戸郡階上町にあるワールドファーム


 クワイエットデイ。2002年の11月にデビューし、3歳時に未勝利、500万下とダート戦で連勝し、一時オープン入りを果たして重賞(きさらぎ賞・GIII・10着)にも出走したが、古馬になってから再度オープンに昇級したのが、2006年、6歳になっていた。

 昇級後は苦戦が続いたが、その素質が花開いたのは翌年7歳になってから。その年の初戦、仁川S(OP)で初めて手綱を取った角田晃一騎手(現調教師)に導かれ、逃げ切ったのだ。しかも外から伸びてきた馬たちに一旦交わされそうになりながらも、最内から盛り返してのしぶとい勝利。その勢いのままに、続くマーチS(GIII)では、一転して後方からの競馬で、直線では内からスルスルと脚を伸ばして先頭に躍り出ての初重賞制覇となった。2008年には平安S(GIII)にも優勝して、自身初GIとなるフェブラリーS(6着)に駒を進めるが、結果的にこれが最後のレースとなった。

 6、7歳時と短期間の間に、強烈な印象を残して引退したクワイエットデイは、サンデーサイレンスの直仔ということもあり大いに期待されて、青森のワールドファームで種牡馬入りした。2009年度の種付け頭数が23頭とその期待のほどが窺える頭数だったが、2010年は4頭、2011年は1頭とその数が激減している。

「1年目の受胎率がとても悪くて、検査してみたら繁殖能力に問題があるということでした。3年目まで頑張って種付けをしていたのですが、受胎しなかったので種牡馬を引退することになりました」と、ワールドファームの村上幹夫場長は、クワイエットデイが種牡馬を引退した理由を教えてくれた。

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▲クワイエットデイ、種牡馬を引退して功労馬に


 2013年10月に用途変更となり、11月から功労馬としての繋養が始まった。「アテ馬の仕事がものすごく上手なので(笑)、種付けシーズンにはその仕事をこなしつつ、功労馬として過ごしています」(村上場長)。そう聞いて、いったいどのあたりがアテ馬として仕事が上手なのか気になった。

「牝馬の方にガンガン向かっていくわけではなく、上品にと言いますか(笑)。種馬を経験した馬をアテ馬にすると、牧柵を壊すくらいの勢いがあって大変なのですが、この馬は本当に上品に仕事をこなしています。」(村上場長)。牝馬が目の前からいなくなると、お役目終了とわかっているかのような振る舞いをするのだという。この馬の生まれ持った性格なのかもしれないが、ひょっとしてアテ馬のプロとしての自覚もあるのではないかとも思ってしまう。

「ノーザンファームさんからはとてもヤンチャと聞いていたのですが、ウチに来て自然に放牧していたら、ものすごく大人しいんですよね。少し噛みついてくることもありますけど、悪さするわけでもなく、男馬にしては大人しくて扱いやすい子です」


 観察していると人参を差し出した時以外は、こちらにあまり関心を示さないように見えるが「人懐っこいですよ。ここ2、3日暑かったので、それでボーッとしているのではないでしょうかね。あまりベタベタ甘えることはないですけどね」(村上場長)とのことだ。

 サンデーレーシングで出資していた会員さんや、ファンもよく訪ねてくるというクワイエットデイだが、そのイケメン振りに私もファンになってしまった。

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カッツミーの生産牧場として


 クワイエットデイの写真撮影に夢中になっていると、ポタッと大粒の水滴が腕に当たった。とうとう雨が降り出してきた。小振りのうちにと慌ててカメラのシャッターを切っていると、雨は一気に強まった。放牧地を後に慌てて走る。やがてバケツをひっくり返したような大雨となり、事務所に駆けこんだ時には外は滝のような状態になっていた。一向に止まない雨に、トウカイワイルドの写真だけでも撮影しておくべきだったと後悔しきり。しかし、悔いてばかりいても仕方ないので、事務所内でお話を伺うことになった。

 ワールドファームは村上場長の祖父の代から続く牧場で、以前は個人名で生産をしていたが、ライトワールドが種牡馬としてやって来たのを機に、ワールドファームという名称にしたという。ライトワールド、活字でしか知らない馬名だ。

 1965年生まれのライトワールドが競走馬として走っていたのは、1967年から1970年の4年弱。成績を調べてみるとオールカマーや日本経済賞などに勝ち、タケシバオーやスピードシンボリとも同じレースで走っている。かれこれ40年以上も前の話だ。青森の地でサラブレッドの生産を続けてきたこの牧場の歴史を感じた。

 事務所内を見回すと、2002年のラジオたんぱ賞の肩掛けがあった。「カッツミーが優勝した時のものです」(村上幹夫さん)。ミスターピンク・内田利雄騎手に操られ、大外から豪快に追い込んで、見事に差し切り勝ちを収めたあのシーンが鮮やかに甦ってきた。あのカッツミーが、ここワールドファーム産だったのだ。

 中央から地方に移籍した後に、2006年のエンプレス杯(GII)に優勝したローレルアンジュの口取り写真も飾ってある。ローレルアンジュは、生まれ故郷のワールドファームに戻ってきて、母として過ごしている。

トウカイワイルド、クワイエットデイに喧嘩を売るが…


 想い出話を伺ううちに、雨は上がっていた。まだ空の色は暗く、再び雨が落ちてきそうな雰囲気もあったので、トウカイワイルドの元に小走りに向かった。短時間の大雨で、放牧地には水が浮いている。近寄っていくと「うん?」という表情で、トウカイワイルドが顔を上げた。

 2002年に生を受けたトウカイワイルドは、デビューが3歳の6月と遅かったものの、2戦目で初勝利を挙げると、休養を挟んで500万下、1000万下と未勝利戦から3連勝し、素質の片鱗を見せていた。準オープンに昇級してからは足踏みが続いていたが、格上挑戦となった2007年の日経新春杯(GII)では、ゴール直前に内から脚を伸ばしてトウカイエリートにクビ差をつけて重賞制覇を成し遂げている。しかしその後は成績が振るわず、2009年の函館記念(GIII・16着)を最後に引退し、ワールドファームで種牡馬入りした。

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▲トウカイワイルド、現役時代は日経新春杯を勝利


「サンデーサイレンス産駒の種牡馬を探していたら、北海道の二風谷ファームさんからトウカイワイルドを紹介していただいて、ウチに来ることになりました。でも種付けがあまり上手じゃないんですよね(笑)。ガンガン暴れて(笑)。牝馬から離す時に少しでも角度を間違えると、相手を蹴りに行っちゃうんですよ(笑)。正にワイルドという名前通りですね(笑)。クワイエットデイに比べると、ワイルドの方が扱いは大変です。ウチに来た時からすごかったですからね」(村上場長)

 右前脚の怪我で今年の種付けはお休みだったが、子供たちは既にデビューしていて、今年の3歳が初年度産駒にあたる。「子供たちもワイルドですよ(笑)。男の子、女の子に限らず、結構ヤンチャな子が多いです」(村上場長)。そんな暴れん坊のワイルド君だが「喜怒哀楽が激しいタイプで、クワイエットデイよりも人間に甘えてきたりしますよ」(村上場長)というように、人間好きでもあるらしい。

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「ワイルドはクワイエットデイによく喧嘩を売っています。クワイエットデイが先に放牧地に出ているのですが、ワイルドが後から放されると、後ろを向いて牧柵をバーンと蹴るんです。それがワイルドの朝イチの行事です(笑)。でもクワイエットは、全く相手にしないで無視しています(笑)」

 父にサンデーサイレンスを持つ2頭だが、ワイルドが勝手にクワイエットデイをライバルと思っているのだろうか。相手にされないとわかっていても、懲りずに喧嘩を売る毎日だ。そしてクワイエットデイはというと、牧柵を蹴って挑発されても、我関せず無視を決め込んで知らん顔。毎朝繰り広げられる放牧地での一コマにも、種付け時に暴れるワイルドと、アテ馬の仕事を紳士的に淡々とこなすクワイエットデイの2頭の性格の違いが表れていて、かなり興味深い。

お母さんになったローレルアンジュ


 トウカイワイルドの写真撮影を終え、繁殖牝馬の厩舎を覗いてみる。ローレルアンジュ(牝15)が女の子らしい表情でこちらに顔を向けた。

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「繁殖に上がってきた当初はうるさいところもありました。お母さんになってからは大人しくて扱いやすくなったのですけど、自分の子供には厳しいです(笑)。自分が飼い葉を食べている時に子供が寄ってくると、邪魔しないでという感じでガッと噛みついたりしています(笑)。でも子供がいなくなると探すんですよね。食べている時にいたずらされるのが嫌みたいですね」(村上場長)

 ローレルアンジュの隣の馬房にいたのが、サンテミリオンの半姉のモーディッシュ(父Singspiel)だ。黒っぽいせいもあるが、サンテミリオンに似ている気がする。前髪がポヤポヤした仔馬は、ローレルアンジュの娘・タイホウパーリオの初仔だ。父がディープスカイと聞いて、派手な顔立ちは父譲りなのだろうと想像した。繁殖牝馬の厩舎は仔馬がいることもあり、雰囲気が柔らかく、ほんわかとした気持ちになった。

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▲ローレルアンジュとサンテミリオン半姉・モーディッシュ


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▲ローレルアンジュの娘・タイホウパーリオの初仔、父ディープスカイ譲りの顔立ち


 途中、大雨でどうなるかと思ったが、ワールドファームの皆さんと、個性豊かな馬たちのお蔭で和やかに取材ができた。ひと昔前は日本有数の馬産地だった青森。今は北海道に押され気味だが「国内のGIレースに優勝したいです」と村上場長の言葉からは、青森の地で強い馬作りを諦めないという気概が伝わってきた。その中で種牡馬を引退したクワイエットデイが功労馬とし大切にされ、トウカイワイルドに喧嘩を売られても平然とやり過ごし、マイペースで毎日を過ごしているということが、とても嬉しく感じたのだった。

(取材・文・写真:佐々木祥恵)

■赤見千尋さんのコラム「競馬の職人」でも、八戸市場や青森の牧場のレポートを公開中です。併せてお楽しみください!
→記事はこちら

※クワイエットデイとトウカイワイルドは、年間を通して見学可能です。ローレルアンジュは、出産種付けシーズン以外、見学可能(要確認)となっております。いずれも事前連絡(当日)が必要ですので、最寄りの競走馬ふるさと案内所までお問い合わせください。

競走馬ふるさと案内所 東北連絡センター
電話:0178-51-8765
FAX:0178-84-2829
(9:00〜17:00、休館日は日曜・祝日・8月中旬の4日間・年末年始)
http://uma-furusato.com/

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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