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本番への視界良好としたい/神戸新聞杯

  • 2014年09月29日(月) 18時00分


神戸新聞杯の速いタイムには心配も

 単勝1.6倍の断然の人気に支持された日本ダービー馬ワンアンドオンリー(父ハーツクライ)が、期待に応えてトライアルを快勝した。

 快勝ではなく、「アタマ、アタマ」差の辛勝だったろうという見方もあるが、3コーナー過ぎから外を回ってかなり強引に進出。直線中ほどで先頭に立ったあと、一歩遅れてスパートしたサウンズオブアース(父ネオユニヴァース)に一度はクビくらい交わされている。これを差し返してしのぎ切り、さらにはその外から突っ込んだトーホウジャッカル(父スペシャルウィーク)の追撃を封じたから、たしかに小差ではあったが、ダービー馬の意地をみせての貫禄勝ちである。

 2分24秒4(前半1分13秒1-後半1分11秒1)の勝ちタイムは、このレースが2400mになって8年、イコピコの勝った09年の2分24秒2に次ぐ2番目に速いタイムだった。しかし、昨年こそ2分24秒8で楽勝したエピファネイアが続く菊花賞を勝っているものの、イコピコは菊花賞を4着にとどまり、2分24秒7で勝った07年ドリームジャーニーも5着に終わっている。直結のトライアルだけに、ここをきちっと勝った自信は大きい一方、3000mの本番を前に十分に余力を残しておきたいのも大きなテーマである。速い勝ちタイムは必ずしも喜べない。オルフェーヴルも、ゴールドシップももっと遅い時計だった。3着オウケンブルースリも、同じくビッグウィークも。ここは「落とせないと思っていた」と橋口調教師が振り返ったように、ダービー馬とあって、トライアルなのにかなり必死に勝ちにこだわった印象はある。

 神戸新聞杯の結果を見て、菊花賞にするか、それとも天皇賞・秋に向かうか決めたいとしていたイスラボニータだったが、C.ルメール騎手とのコンビで天皇賞・秋が決定したという。イスラボニータの天皇賞・秋は最初からの予定とおりであり、フェノーメノ(蛯名正義騎手)とバッティングしていた騎乗騎手の問題だったのだろう。ワンアンドオンリーが大凡走でもすれば別だが、神戸新聞杯はあまり関係なかったのである。

 ワンアンドオンリーの3コーナー過ぎからサウンズオブアースと並んで一気にスパート開始は、横山典弘騎手とするとちょっと珍しい進出策だった。それには、スローペースであり(前半の1200m通過は1分13秒2)、そこからさらに離れていたから負担はかかっていない。そこで、コンビではここまで小回り中山で2戦と、好位につけたダービーの3戦しか騎乗していないワンアンドオンリーが、いったいどのくらいのロングスパートが可能かを確かめる意味もあったろう。京都3000mの菊花賞では瞬発力ではなく、速い脚の連続が求められるケースが多い。

 また、昨年12月のラジオNIKKEI杯2歳Sで0秒3差しかなかった当面の相手サトノアラジン(父ディープインパクト)が、中団で楽に追走している。同馬の、現在の充実ぶりと器のほどを確かめるためには、早めに並びかけていく必要があったかもしれない。後方から追い込むゴール寸前の強襲では、ライバルのスケールは量れない。

 ロングスパートに耐えられる地力と、勝負強さは申し分なかった。3コーナー過ぎにスパート開始の時点で、先頭から少なくとも12馬身前後の差はあったから、そこからゴールまでの1000mは、推定「57秒0」前後で乗り切っている。イスラボニータが差し返そうとした日本ダービーと同じで、苦しくなってからもう一回脚を使えることも再確認できた。本番への視界良好としたい。

 問題は、反動の生じるような仕上げではなかったが(ダービーとほとんど同じ馬体重)、レースは後半、予想以上にきびしい中身になってしまったことか。

 ワンアンドオンリーは、2400mは平気だったが、牝系はかなりマイラー色が濃い。祖母サンタムール(父ダンチヒ)の半弟ノーリーズン(父ブライアンズタイム)は、2002年、ヒシミラクルの勝った1番人気の菊花賞でスタート直後に落馬している。その雪辱もかかっている。

 2着サウンズオブアースは、一緒にスパートしたワンアンドオンリーに4コーナーでは離されかけたが、それから大外に回って勝ち馬をクビまで追い詰めた。京都2000mで未勝利を勝ち、京都新聞杯は0秒2差の2着。本番のコース適性は高い。母の父ディキシーランドバンドは、04年の菊花賞馬デルタブルースや、有馬記念を快走したアメリカンボス、さらにはフミノイマージン、レッドリヴェールなどの母の父として登場し、直系産駒は著名ではないが、BMサイアーとして米チャンピオンの記録もある。母ファーストバイオリンは米国産の輸入牝馬だが、その産駒には韓国で走ったらしい2頭がいる。その生産がDPR(北朝鮮)となっている資料もあったりする(?)不思議な兄姉をもつが、4代母はクリスエバート。大変な名牝系であり、大きなファミリーにはタップダンスシチー、リーチザクラウンなどが並んでいる。

 3着に突っ込んだトーホウジャッカルは惜しかった。中団にいたが馬群の固まった4コーナーで挟まれてスムーズに進出できず、それから外に回って、ワンアンドオンリー、サウンズオブアースの間が大きく開いていたので突っ込んだところ、前の2頭がお互いを相手とみて接近したから、結果は閉められたようにも見えた。体勢を立て直して「クビ、クビ」差の3着。ゴール寸前の勢いはもっとも鋭く、かつ、上がり34秒8(勝ち馬は35秒1)はNo.1だった。

 4分の3同血になる姉トーホウアマポーラ(父フジキセキ)は、今週のスプリンターズSに出走予定の伏兵である。一方、スペシャルウィーク産駒の弟は3000mの菊花賞でかなり高い評価を受けることになるだろう。

 2番人気で4着に沈んだサトノアラジン(父ディープインパクト)は、ごつい重量級の体格が目立った春とは異なり、馬体重は変わらなくとも今回はだいぶ体の線がシャープに映った。少し力むような道中はいつものこと。ここは差のないレースに持ち込めると思えたが、3着までに入った3頭から3馬身半差。走り出すとやっぱり重量感を漂わせてしまうから、これ以上距離が延びると自身に及ぼすスタミナロスが大きいだろう。菊花賞に出走可能な賞金ボーダーの位置になり、出走は可能だが、今回の敗戦で大きく評価が下がるのは仕方がない。全姉の4歳牝馬ラキシスはこの日、オールカマーで2着に快走した。弟も2000m前後の中距離がベストかもしれない。

 3番人気のトーセンスターダム(父ディープインパクト)は、今回は中団に控えて進んだが、見せ場を作れなかった。直線先頭の日本ダービーで、突然何を思ったか、内ラチにぶつかった難しい内面をもつ馬。もちろん復活するだろうし、最後は伸びていたが、次走はなんとか…とか、簡単に判断のできる馬ではない。

 期待していたハギノハイブリッド(父タニノギムレット)は、体調が戻った今回、京都新聞杯2着のサウンズオブアースとの比較からもっと走って不思議ないと思えるが、使って良化型なのか、インを突く作戦に出たのに、直線中ほどで鈍ってしまった。

 4番人気のウインフルブルーム(父スペシャルウィーク)の失速は、本来はポン駆けの利くタイプだから、秋に向けての調整が順調ではなかったのだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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