伊藤雄二厩舎の黄金時代を支えた裏方
今朝は朝一番にレーヴデトワールの追い切り。レーヴデトワールは川田騎手が「走るときと走らないときがある」と話しているように、成績にムラがありますよね。でも、いまは具合もよさそうだし機嫌もよさそう。そこで担当の大當助手に話を聞きに行きました。
「2歳の阪神ジュべナイルFあたりからリズムがチグハグだった。でも、ひと休みして放牧から戻ってからそれが解消された。紫苑Sではまだ緩いところがあったけれど、それであれだけ走れてよかったよ」
桜花賞では後方から伸びての5着でしたけど、どこか本調子ではないかんじでした。それも含めて、やっぱり彼女の潜在能力は相当なものなのでしょう。これは楽しみ! と、取材を終えて別の場所に移動しようとしたところ、大當助手から思いもよらぬ言葉が…。
「オヤジ、亡くなったから」
絶句。そして、しばらくのちに涙が止まらなくなってしまって。しばらく松田博資厩舎の洗い場で泣いてました(厩舎の皆さん、迷惑かけてごめんなさい)。
実は、レーヴデトワールの大當助手のお父さんも厩務員さんで、わたしが駆け出しのころからたいへんお世話になっていたのです。大當清治さん、伊藤雄二厩舎の黄金時代を支えた裏方さんのひとりで、桜花賞とオークスの牝馬2冠を制したマックスビューティを手がけた腕利きさんでした。
いつも顔をくしゃくしゃにして笑顔だった大當さん。競馬の社会はとても狭く、独特な社会。まだ22、3の小娘がひとりトレセンに来たところで、そもそも取材をどうしたらいいのかもよくわからない状況でした。
でも、大當さんはいつも笑顔でこたえてくれて。とても救われました。
マックスビューティは紅梅賞からローズSまで8連勝、そのあいだに桜花賞とオークスを勝ったというツワモノ。
「連勝するにはその世代の中で能力が抜けていなければ難しい。ピークの状態は長くは続かないし、ましてや牝馬だからね」
マックスビューティ 87年の4歳牝馬特別(東)
仕上げ過ぎてもいけない。でも、緩め過ぎてもダメ。その状況で連勝は続いていく。さらに夏を越した休み明け緒戦をプラス18キロ、しかも菊花賞の前哨戦である神戸新聞杯を勝つのですから…。いくら馬が強くても、それをしっかり支える職人さんの腕がなければ連勝は続かないですよね。それを乗り越えて支え続けた職人さんの言葉はとても重みがありました。
厩務員を引退されてまだ2年しか経っておらず、60代後半で亡くなるなんて…。ほんと、つらかったです。でも、大當さんはいつもどんなときでも笑顔でしたから。いつまでも泣いていてはいけませんね。
ひとの一生は思いもよらぬときに終るものですね。いま、生きているこのときを大切にしなければ、と気持ちを新たにした一日でした。
大當さんの次男さんがレーヴデトワールを担当、そしてさらに三男さんは梅田智厩舎にいてアドマイヤビジンを担当しています。息子さんふたりの担当馬が出る秋華賞。天国から見てないわけがないですよね。しっかり見守っていてくださいね。そして、みんなが笑顔になる結果となりますように。