秋競馬の開幕戦、スプリンターズS。13番人気のスノードラゴンで波乱を演出したのが、デビュー10年目の大野拓弥騎手です。自身10回目のGI挑戦で、念願の初タイトル。「人馬共に人気が…」と謙遜する大野騎手ですが、その騎乗技術はかねてより関係者の間で定評がありました。今月は今大注目の大野騎手をゲストにお迎え。初回の今週は、スプリンターズSの秘話をお届けします。(取材：赤見千尋)

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最終週の新潟は絶好の条件でした

赤見　スプリンターズS、スノードラゴンやりましたね！　大野騎手にとって初めてのGI制覇。

大野　ありがとうございます。やっぱりGIは違いますね。重賞を勝つのとGIでは、周りの反応も全然違います。本当、会う人会う人に「おめでとう」って言ってもらえましたし、メールや電話もすごく多くいただきました。

赤見　13番人気でしたが、レース前は「いっちょやってやる」という？

大野　いやいや、枠が決まってからは、正直そういう気持ちはなかったです。

赤見　まさかの大外枠。

大野　そうなんです。事前に(高木)先生と、「大外だけは嫌ですね」って話をしていて。内枠から、馬群の中にもぐりこんで、内で脚を溜めてそこからさばくようなイメージで話をしていたので。それで大外枠になったから、先生からすぐに電話が来ました。思わず「えぇーっ！」って(苦笑)。さすがに大外は、ちょっと極端すぎるなっていう気がしました。

赤見　それでも、あのレースぶり。どの辺で「よっしゃ！」と思いました？

大野　4コーナーを回るぐらいからいつになく手応えがあって、「これはもしかしたら」って思いました。直線を出てからも、その手応え通りにやってくれた感じです。結果的には、大外枠も良かったのかなと思います。馬場の外の走りやすいところを通れたので。

赤見　新潟でのGIが12年ぶりで、ファンの皆さんもかなり盛り上がりましたよね。

大野　盛り上がっていましたね。僕、結構反応が心配だったんです。人馬共にちょっとこう、人気がなかったので(苦笑)。でも、意外と反応が良くて。そういう中でウイニングランが出来たのもうれしかったです。

赤見　“ワーッ!!”ってなってました。初のウイニングランですよね？

大野　そうです。他の人が勝った時に「やっぱりいいなぁ」と思ってずっと見てきたので、自分が出来て本当に良かったです。「GIを勝ったらこういうウイニングランをしよう」とか「こういうガッツポーズしよう」とか、全然準備してなかったので戸惑いましたけど、その場になれば何とかなるもんですね。

赤見　すごくキマッてましたよ！　じゃああの時は、冷静じゃなかったというか、結構興奮してました？

大野　いや、冷静な部分はあったと思います。全然涙とかもなかったですし。今までも、うれしくて涙を流したことってないんです。興奮と言うより「あぁ、ついにGIを勝ったんだな」って、そういう感じでした。

赤見　当日はご家族もいらっしゃっていたそうですね。奥様はいつも新潟に来られていたんですか？

大野　いやいや、いつもではないです。でも、奥さんの方が自信あったみたいで。ここは勝てると思って来たらしいですね。まぁ、たまたまだと思います(笑)。

赤見　すごくいいところを見せられましたね。目の前で旦那さんが勝ってウイニングランするなんて、完璧！　ご自身のレース直後のインタビュー映像は見ましたか？

大野　見ました。ちょっと…、がっくり。ああいうインタビュー苦手なので、本当はしたくなかったんですけど…。極力ああいうのは避けたいなと思いました(苦笑)。

赤見　いや、避けないでください！　お話聞きたいです。高木厩舎にとっても初めてのGIで、この馬にとっては初重賞勝利がGIという。

大野　そうですね。カペラSとかオーシャンSも2着だったので、どこかでタイトルを獲らせてあげたいなという思いは、厩舎も僕もあったので。それが今回のGIになりました。

赤見　また、大野騎手との相性良いですよね。8戦2勝、2着4回。それも、ほぼ重賞で。

大野　いやいや。競馬を組み立てる中でうまくハマッたんだと思うんですけど。でも、もう1歩というところが続いていたので、勝ちたいなと思っていました。

赤見　初めてレースに乗ったのがカペラS。その時はダートでしたが、印象はどうでした？

大野　乗る前はワンパンチ足りない、最後で足りないところがあるというイメージでした。乗せてもらうことになって、溜める競馬教えてほしいと言われたんです。

赤見　たしかに、そこから差す競馬に徹してますよね。カペラSもすごくいい脚で。

大野　そうなんですよね。あれで、「切れるな」ってイメージが変わりました。性格もすごくおとなしくて、おっとりゆったりしている馬です。乗り難しいこともないですし、変なこともしない良い子ですね。

赤見　これまで馬場が変わってきたじゃないですか。デビュー3戦は芝だったけど、脚元の弱さを考慮して、それからはほとんどがダート。2011年の昇竜Sから丸3年ダートだった中で、今年のオーシャンS、高松宮記念あたりから芝を使ってという。

大野　本当はまだダートを使いたかったみたいですけど、賞金的にも思った通りに使えないので、芝に行くことになったみたいです。そうしたら、思った以上に芝でも走れて。僕自身も、ちょっとびっくりしました。

赤見　大野騎手としては、どっちがいいと感じますか？

大野　うーん、今はダートより芝の方がいいのかもしれないです。時計の早くなる馬場だとまだ不安が残るところはあるんですけど、芝の方が切れる感じがしますね。オーシャンSの時も馬群を割って、最後にいい脚で来てくれました。

赤見　それで次の高松宮記念、2着ですよ。あの時は泥が跳ねあがるくらいの不良馬場で。

大野　中京の時は雨がすごくて泥んこ馬場だったので、いいと思ってましたよ。

赤見　じゃあ、あれだけ馬場が悪くなったから、一発あるかもっていう自信があった？

大野　そうですね。この時は、結構良い勝負になると思っていました。それこそ枠も、この時は外枠で良かったと思いますし。まぁ、2着まで来るといろいろと思うところもありましたけど。

赤見　ここまで来たら、勝ちたかったっていう気持ちに。それにしても、初めてのGIで2着に入って、スプリンターズSでついに1着。その間、6月と8月で2戦してますが、そのあたりはどうでしたか？

大野　(6月の)北海道スプリントCは、競馬の隊列があまり良くなくて。ちょっと早めに踏まないといけない状態になってしまったので、もったいないという感じでした。その次のキーンランドCは、馬の動きが本来の動きではなかったんです。8着でしたけど、着順よりは悲観してなかったですね。

赤見　それで、スプリンターズSの勝利ですよ。大外枠に不安があったということですが、当日の雰囲気はどうした？

大野　返し馬は良かったです。リズム良くいい気合いで、乗っていて気持ち良かったです。道中も結構いい感じで行けましたし、全てが噛み合った感じですね。新潟だったのも良かったんだと思います。

赤見　中山でも結果は出していますよね？

大野　中山だったら開幕すぐだったので。みんなが良いところを取りに行く感じになって、流れも変わって、そうすると結果も違っていたかもしれません。最終週の新潟というのも、絶好の条件だったと思います。

赤見　大野騎手にとって、GIを勝つというのは目標の1つだったと思うんですけど、勝ってみてどうですか？

大野　GIってレース体系の一番上にあるものですし、そんな簡単に勝てるものでもないですから。チャンスを得ることもなかなか難しいですし、そういう中で勝てたというのが、騎手として自信を持てるようになりました。(つづく)