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この秋はなにかがおかしい/エリザベス女王杯

  • 2014年11月17日(月) 18時00分


角居厩舎の「厩舎力」

 4歳ラキシス(父ディープインパクト)がゴール寸前、先に抜けた3歳ヌーヴォレコルト(父ハーツクライ)をクビ差とらえ、見事に昨年2着の雪辱を果たした。

 角居勝彦厩舎は、今回のエリザベス女王杯に出走させた3頭(ラキシス、ディアデラマドレ、キャトルフィーユ)のほかに、4歳デニムアンドルビー(ジャパンC出走予定)などのエース級の牝馬を擁するが、このエリザベス女王杯に挑戦した3頭は、順に「1着(3番人気)、3着(6番人気)、5着(8番人気)」だから、すごいというしかない。今回の3頭、ステップはそれぞれみんな異なるが、目標のGIだから、中間から入念に、ハードに追って仕上げながら、順にプラス2キロ、プラス6キロ、プラスマイナス0。みんな素晴らしい状態だった。これこそ厩舎力である。

 4歳ラキシスは、これで特殊な距離にも近い2200m【3-2-0-2】となった。牡馬相手の京都記念4着(0秒3差)、オールカマー2着(0秒1差)を含めての成績は、適距離を見きわめ、この2200mのGIに狙いを定めたローテーションそのものである。

「騎乗するジョッキー選択は、オーナーサイドの意向に沿います」と公言し、それを優先させながら、乗り代わりなど日常茶飯事のなか、ラキシスは川田将雅騎手と【4-3-0-2】であり、ディアデラマドレは藤岡康太騎手とのコンビ【4-1-1-2】。これも厩舎力である。

 知られるように、この秋のGIはスプリンターズSのスノードラゴンから、エリザベス女王杯まで、5戦連続すべて重賞未勝利馬が勝ちつづけている。勝ち馬は順に「13,3,3,5,3」番人気である。トップと伏兵も、実際の能力差はほとんど紙一重ということか。

 今週のGI「マイルCS」にも、伏兵フィエロ、サンレイレーザーなど、重賞未勝利馬がいる。「そんなジンクスめいたものは、言いだしたら途切れる」のがふつうだが、もうみんな気がついていた菊花賞も、天皇賞・秋も、エリザベス女王杯も、この流れはつづいたから不思議。

 同時進行の2歳の中央重賞路線は、最初の函館2歳Sから、デイリー杯2歳Sまで、勝ちつづけているのは「4,3,5,15,4,9,14,11,5」番人気馬である。1番人気、2番人気に支持された馬は勝ったことがない。この秋は、なにか変なのである。

ヌーヴォレコルトは勝ち馬と同じように称えたい

 3歳ヌーヴォレコルトは、秋華賞につづいてクビ差2着に負けはしたが、どの角度からみても勝ったラキシスに少しも見劣るものではない。勝ち馬と同じように称えたい。桜花賞を小差3着、オークスをクビ差で制し、秋のGIは勝ったにも等しい連続2着。通算9戦【4-3-1-1】。

 今回は短期間に再度の関西遠征となったが、この馬、実際には関西圏のレースのほうがずっと多く、遠征レースは【2-3-1-0】。全然、へこたれたりしないのである。今回も目標になる立場を受け入れての正攻法。先に抜け出し、結果はマークしてきたラキシスとクビ差。相手は歴戦の4歳馬。こちらは必ずしも予定どおりではないGI挑戦だった。互角でいいだろう。

 3着にとどまったディアデラマドレ(父キングカメハメハ)は、前述のように素晴らしい状態で充実の秋を迎えた角居勢。インコースから決して動かず、巧みに脚をつかえた馬が上位を独占した芝コンディションのなか、外枠から勝ち負けに持ち込んだのはこの馬だけ。「もうワンテンポ待ちたかったが、動かざるをえない形になり、そのぶんゴール寸前で脚が上がった(藤岡康太騎手)」。それでも上がり3ハロン「33秒1」はメンバー中の最速タイである。

 脚を余したらもっと切なくなるのがGI。素晴らしい好騎乗だった。京都の外回りの差し比べ大歓迎だが、ディアデラマドレには2200mがちょっと長かったのだろう。

 人気上位馬では、10着にとどまった4歳スマートレイアー(父ディープインパクト)は、牝系の影響もあって、大跳びであまり器用な脚の使えないタイプ。外枠からインに入ろうとする選択肢はなく、「ずっと力んでしまった(武豊騎手)」のは誤算でも、外を回る道中のロスは仕方がない。内回りの秋華賞2000mは3歳同士でもあり2着に突っ込んだが、この2200mは守備範囲より少し長かった。といって、高速決着の1600mではまた苦しい印象があり、1800-2000mの適鞍を探したい。

 秋華賞馬の3歳ショウナンパンドラ(父ディープインパクト)は、今回は枠順の差が出てライバルのヌーヴォレコルトと道中の位置が逆になった。内にもぐり込めない苦しい展開になってヌーヴォレコルトと0秒4差。今回は理想の形にならなかったからやむをえない。

 パドックでは、不振を脱し前回とは一変の好気配とみえた4歳メイショウマンボ(父スズカマンボ)は、スローにも近い流れ「前半1000m60秒3-(12秒8)-後半1000m59秒2」=2分12秒3の好位追走だから、まったくムリはない理想の展開にみえた。一時期、ちょっと体型のバランスが崩れていたようにも映ったが、今回はそんな印象はなく、使って2戦目で調子が上がっていたのは間違いない。GI3勝のチャンピオン牝馬ゆえ、失いかけた自信を取り戻すのが難しいのだろうか。まだ4歳馬である。ゆっくり立て直す時間は十分にありそうに思える。

 3歳サングレアルレッドリヴェールの2頭は、きわめて小柄な牝馬。そのこと自体はべつに死角でもなんでもなく、体を大きくすればいいというものでもないが、体をいま以上に細身にしないために、鍛えるという調教は取り入れにくいのだろう。日程の決まっている3歳戦では苦戦したが、今後は消耗を避けつつ、マトを絞ったレースを選ぶことになる。

 レース選択といえば、6歳ホエールキャプチャはこれでエリザベス女王杯「4、10、6、15」着。5歳ヴィルシーナは「2、10、11」着。距離をこなせないわけではないが、ほかに出走可能なレースといっても……。陣営にしてもつらい出走とみえた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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