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減少し続ける中小牧場

  • 2014年12月04日(木) 18時00分
とある牧場での風景(写真と本文とは関係ありません)

とある牧場での風景(写真と本文とは関係ありません)



依然として深刻な現場での人手不足

 いよいよ師走となり、各地でこれから忘年会が行なわれるシーズンである。去る3日には、いち早くBTC育成調教技術者養成研修のOB・OG会(今年8月に発足)と現在在籍している32期生との合同忘年会が浦河町アエルにて開催された。

 総勢51名が参加し、今回初めて、日高東部を中心に主として育成現場で活躍するOB・OGたちと、現役の研修生との交流が実現した。今春、入講した21名中、残念ながらすでに3名が退学し、現在18名が日々研修を続けており、これからいよいよ就職活動の時期に入ってくる。研修生たちにとっては、どの育成牧場に就職するかが最大の関心事で、すでに現場で働く多くの先輩とじかに接し、直接言葉を交わせる絶好の機会とあって、午後6時に開始された忘年会は大いに盛り上がった。

 予めOB・OGと研修生とが対面式で座る配置になっており、乾杯の後は、食べ放題のバーベキューに下鼓を打った。18名の研修生は、今後、研修所に届いてくる各牧場の求人票を見て、人事担当者から話を聞き、直接牧場を訪れるなりして、来春までに就職先を決定する。その際、最も参考になるのが現場で働く先輩の話である。まだ多少の時間があるとはいえ、実際に育成牧場で働く時の心構えなどを熱心に聞き出し、就職の参考にしようという姿があちこちで見られた。

 前置きが長くなった。彼ら研修生は、今後、育成の現場に巣立って行くことがほぼ決まっており、基本的には騎乗技術者として就労することになる。このように、育成現場での人材不足を補うべく、ここ20年余の間にBTCでは400名以上の騎乗技術者を養成し、現場に送り出してきた。

 しかし、それでも依然として育成現場での人手不足(とりわけ騎乗者不足)は深刻で、ほとんどの育成牧場では十分な乗り役を確保できていないと言われる。毎年、次々に新人が供給されていながら、人材不足が慢性化している。

 だが、それ以上に深刻なのは、生産現場である。とりわけ、中小牧場における人手不足は深刻で、日高では生産牧場の軒数がどんどん減ってきている。中小牧場の場合、まず従業員を確保すること自体が難しくなってきており、求人を出しても簡単に人が集まらない。

 そのため、かつては数人従業員を雇用し、ある程度の規模で生産を行なっていた牧場でも、現在は家族だけで規模を縮小して細々と生産を続ける例が結構多い。

 家族経営の場合でも、その多くが今は50代〜60代の夫婦で何とかやりくりし、子息は別の仕事に就いている牧場が少なくない。つまり、後継者が不在なのだ。

 また、その後継者も、実は独身で配偶者がいないか、あるいはかつて結婚歴があるものの、さまざまな事情から離婚してしまっている例もかなりある。むしろ、熟年夫婦と若いい世代の夫婦が揃い、さらにその若い世代に子供がいるような、以前には当たり前だった家族構成を持つ牧場の方が、実は少数派になりつつある。

 こうしたことから、日高の家族経営規模の牧場は、今後も急速に減少して行くであろうことが予測できる。世代を繋いで、経営委譲できない牧場ばかりが目につく。

 おそらく、今後10年間で、日高の牧場地図はかなり変化するだろう。後継者がいなければ、熟年世代の経営者にもし万が一何かあった時には、即廃業か休業を覚悟しなければならない。

 牧場は管理してこそ、牧場たり得る。今でも日高のあちこちに空き家になってしまった生産牧場が目につくが、それが今後さらに急増して行くであろうことは疑いない。

 人手不足というか、担い手不足の問題は、育成よりも今後はむしろ生産牧場においてより顕著になるはずだ。この生産牧場の空き物件をいかに荒らさずに次世代へ継承して行けるかが、これから地域全体の大きな課題として浮上してくる。

 空き物件が出てきたら、近隣の牧場が版図拡大を狙って食指を伸ばしてきたのは過去の話である。今はむしろ、前述のように中小牧場の多くは規模縮小か、さもなくば廃業の方向へと大きくシフトしつつある。

 今後は、騎乗技術者の養成と同じように、生産部門へのテコ入れが求められる。隣り合った牧場同士を物理的にくっつけて合体させれば良い、というような単純な解決策は難しい。世代的にも経営規模の上からも、似たような事情を抱えている場合が多く、いずれも自分の牧場を守るだけでようやく、といったところだ。地域全体で新たな牧場地図をどう描いて行くか。生産地としての景観をどう守り保全して行けるか、今すぐにでも手を打たなければならないところできている。

 生産なくして、育成部門の充実はあり得ない。また、BTC周辺に限らず、日高の各地にある民間育成牧場の多くは、顧客は個人馬主であり、中小牧場の生産馬である。社台グループや日高でも大手と言われる牧場の多くは育成部門を併設しているので、それら大手の生産馬は、それぞれの牧場の中だけで入厩まで一貫体制で育成される。したがって日高の生産がこれ以上衰退すると、育成牧場の経営にもより大きな影響を及ぼす結果となり、生産と育成はさながらコインの表裏のように切っても切れない関係にあると言える。

 因みに私の住むこの浦河町E地区では、生産牧場軒数が昭和時代から比較すると、半分以下にまで激減してしまっている。おそらくここだけが特殊な地域だというわけではなく、こうした傾向は日高全体に及んでいるはずだ。かなり深刻な事態である。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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