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わかりやすくなったクラシックへの勢力図/阪神JF

  • 2014年12月15日(月) 18時00分


来春を約束する力強さ

 5番人気の関東馬ショウナンアデラ(父ディープインパクト)が、はずむようなフットワークで馬群を割り、鮮やかな差し切り勝ちを決めた。これで3連勝【3-1-0-0】となり、この世代の桜花賞路線を大きくリードすることになった。

 出走馬18頭の父がすべて異なる種牡馬という非常に珍しい組み合わせになったうえ、レースの流れは前後半の800m「47秒2-47秒2」=1分34秒4。どの馬も能力を発揮できるマイル戦のモデルケースのようなバランスだった。1度は2番人気のレッツゴードンキ(父キングカメハメハ)が抜けかけたが、これをゴール寸前一気に捕らえたショウナンアデラには、上がり3ハロン34秒0の数字が示す以上の鋭さと、来春を約束する力強さがあった。

 ここまでの「未勝利1600m→からまつ賞1400m」はスローの流れを好位から抜け出す形だったたため、また、調教でも手先の軽さを生かした小足を使うフットワークをみせるから、軽く小器用なタイプを思わせたが、阪神のGIらしい1分34秒4の総合力を求められるレースで、上がり34秒0。本物かどうかを問われるレースになって、これまでの軽い脚さばきから一転、迫力あふれるストライドに大変身したところが素晴らしい。

 外枠で出負けし、ずっと馬群の中でもまれながら、最後はその馬群を切り開いて伸びた。レッツゴードンキと体の大きさは同じで、ほぼ同じような体型に映ったが、ゴール寸前のフットワークの迫力は明らかに1枚上である。遠征でも馬体減はなく、むしろ力量感を増したあたりが成長なのだろう。コンビの蛯名正義騎手の勝利のアクションは、自信と納得を表現したように見えた。

 父にディープインパクトをもつ阪神JFの勝ち馬というだけで、もう来季の候補だが、母の父イルーシヴクオリティ(その父ゴーンウエスト)は、04年の米2冠馬スマーティジョーンズを送った米チャンピオンサイアー。牝系は1997年の仏1000ギニーを制した祖母オールウェイズロイヤル(父ジルザル)の半兄に、米ブリーダーズCマイル3連覇など1600mを中心に17勝(うち14勝がGI)を挙げた女傑ゴルディコヴァの父として知られる種牡馬アナバー(父ダンチヒ)がいる。輸入種牡馬アラムシャー(キングジョージの勝ち馬)の父キーオブラック(父チーフズクラウン)も祖母の半兄になる。多分にマイラー色が濃い一族出身だけに、2000m以上の適性は未知数だが、桜花賞のマイルはおそらくベストに近い距離だろう。

 前後半のバランスを失わず、近年の阪神JFの中で上々の1分34秒4の接戦だから、小差2-3着馬も当然、来季の候補になる。勝ちタイムが1分34秒4(レースバランスは今回とそうは大差のない47秒6-46秒8だった)11月のアルテミスS(東京)で、ハナ差の1-2着だったのがココロノアイ、レッツゴードンキ。この2頭が、今回もそのまま小差の3-2着したことは、クラシックにむけた勢力図を作るうえで分かりやすくなったかもしれない。

 2012年のアユサンが「アルテミスS2着→阪神JF7着→チューリップ賞3着→桜花賞1着」の例があるように、このあとのチューリップ賞を含め、マイル戦に一本の線ができると、桜花賞路線は攻略しやすくなる。もちろん、別のステップの有力馬もいるから、気がするだけ……ではあるけれど。

 レッツゴードンキは、ちょうど中団で折り合い、ショウナンアデラと同じように道中はかなり苦しい位置でがまんし、ゴール前1ハロンあたりで一気に抜け出す形が取れた。これで新馬勝ちのあと、札幌、東京、阪神。ポイントの高い重賞に出走しつづけて【1-2-1-0】。今回は体もひと回り大きくなり、一段と力強くなっていた。もっとパワーを要するような馬場コンディションになるなら、この馬が一番有利かもしれない。

 ココロノアイ(父ステイゴールド)の今回の最大のテーマは、直前の輸送をこなしながら、前回のアルテミスSで見せた行きたがる死角を、どう我慢し解消できるかにあった。内枠で折り合ったようにみえた。直線の中ほどで今回は追って伸びないか、と思わせながら、苦しくなったあと、またインから伸びていた。今やビッグレース向きとなったステイゴールドの産駒で、気が強いのは当たり前である。3代母は2冠牝馬マックスビューティ。ひとの心が読めるように、ココロノアイ。決して評価を下げてはならない。

 大外の18番枠から出て、正攻法のレースで勝ち馬と0秒3しかなかったムーンエクスプレス(父アドマイヤムーン)は、体こそ小さいがレースぶりは大きい。内から先行し、あわやのシーンを作ったアルマオンディーナ(父キンシャサノキセキ。祖父フジキセキ)は、スローで「49秒1-35秒1」=1分24秒2の新馬戦から、今回は半マイル通過を1秒以上も速い47秒8(推定)で強敵相手に先行しながら、一度は先頭に並びかけるように伸び前回以上の上がり34秒9である。人気薄の伏兵はこのパターンだとだいたい失速するが、この馬はそうではなかった。新潟大賞典などを制したゴールデンダリア(父フジキセキ)の下。今回が2戦目だから、まだ十分に間に合う。

 ぜひ、巻き返して欲しいのは1番人気に支持されたロカ(父ハービンジャー)。2戦目だから仕方がないが、大きく出負けしてしまった。あれだけ出遅れた時点で今回はムリ。ああなったら、なかば試し乗りのように後方から追い込むしかなく、和田騎手も気合をつけて差を詰めるようなレースはしなかったが、残念ながら馬自身が道中かかり気味だった。ハービンジャー産駒がこういう息の入れにくい速いタイムのマイル戦をもっとも苦手にするだろう死角は承知で、それでも抜けた候補のいないここは、スケールを生かし、好勝負に持ち込んでくれるのではないかと期待した支持だったが、さして差が詰まらなかったあたり、かかったロスを考慮してもマイル戦はやっぱり合わない心配が大きくなった。

 体質が弱く、ムリに間隔を詰めて使いたくない陣営は、次にどこというより、どんな距離に出走して展望を広げるのだろう。昨年のハープスターは、この阪神JFを2着に負け、あれは仕方がない試練、きっといい糧になるはずだと見守られ、チューリップ賞と桜花賞を連勝した。ロカも、みんなと同じように別に阪神JFが大きな目標ではないから、今回の敗戦は仕方がない。

 問題はこのあと。ひと息入れるのだろうか。もう一回マイルのチューリップ賞あたりを目標に、桜花賞を目ざすのだろうか。オークスをにらんで2000m級に方向を変えるのか。適性や将来を推し量りたい阪神JFは、みんなが納得できる惜敗なら大丈夫でも、「1番人気の阪神JFを大きく負けて、桜花賞を好走した馬はいない」歴史がある。陣営の大きな考えどころである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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