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完全アウェイの両GIを関東馬が制したことの意義(辻三蔵)

  • 2014年12月23日(火) 18時00分


◆関東馬が阪神競馬場への長距離輸送を克服して、完全アウェイの両GIを優勝した事実は大きい

 2歳世代の頂点を決める阪神ジュベナイルF、朝日杯FSは関東馬のショウナンアデラ、ダノンプラチナが制した。関東馬が阪神競馬場への長距離輸送を克服して、完全アウェイの両GIを優勝した事実は大きい。

 阪神ジュベナイルFを勝ったショウナンアデラはからまつ賞から中2週のローテーションになったが、美浦からの直前輸送を選択した。美浦坂路で普段通りの調整を行い、レース2日前の金曜日に阪神競馬場に移動している。

 ショウナンアデラはデビュー当初こそ南馬場ウッドコースやポリトラックコースを使用していたが、休養を挟んで坂路調教に切り替えたことで連勝街道が始まった。

 美浦坂路は栗東と比べると坂の勾配率が低いので、負荷の掛かり方が少ないと言われていたが、今春から改善作業を施して「負荷が掛かる」馬場状態に変貌した。

 美浦トレセンの馬場保全副委員長を務める小島茂之調教師はこのように話している。

「ウッドチップを以前よりも細かくして、散水量を増やすことで負荷が掛かる状況を維持しています。美浦、および栗東の坂路調教馬の乳酸値データと走行タイムを用いた解析によりますと、14年4月以降の美浦坂路調教馬の生態負担度は3月以前よりも大きく、栗東を上回ることが分かりました。同じタイムで調教した場合の運動負荷は格段に上がっていることを意味しています」

 冬期間は凍結防止のため、散水を中止。ウッドチップを深く耕す作業を実施することで、「負荷の掛かる状態」を維持している。

 体質の弱さを抱えるショウナンアデラはコース調教では脚元に負担がかかるので、「遅い時計でも負荷が与えられる」坂路調教に切り替えたことが功を奏した。

 今秋のJRA・GIでは関東馬の4勝中3勝を美浦坂路で直前追い切りを行ったスノードラゴン(スプリンターズS)、スピルバーグ(天皇賞・秋)、ショウナンアデラが挙げている(14年12月21日現在)。

 坂路効果は「追い切り」だけではなく、追い日以外の調教で使用することで基礎体力向上に繋がっている。

 朝日杯FSを勝ったダノンプラチナも美浦トレセンでは坂路中心の調整を行い、体力作りに努めていた。こちらは長距離輸送の負担を軽減するために、レース10日前の12月11日に栗東トレセンに移動。ベゴニア賞から中2週と間隔が詰まっていたこともあり、栗東坂路には入らず、17日のCWコースでの追い切り1本で済ませた。

 08年以降、国枝厩舎の栗東滞在馬のGI成績は[5-2-2-4](勝率39%、複勝率69%)。長年の栗東滞在で蓄積したノウハウの集大成をダノンプラチナのGI勝利で証明した。

 12月17日に川崎競馬場で行われた全日本2歳優駿(JpnI)は関東馬のディアドムスが北海道2歳優駿に続いて連勝した。これで、今年の2歳GIはダートグレード競走を含めて、関東馬が全3勝を挙げたことになる。

 今年の2歳世代のJRA重賞勝利数は関東馬6勝、関西馬7勝と互角の戦いを繰り広げている。2歳馬の獲得賞金占有率も関西馬の53.7%(414,742万円)に対して、関東馬が46.2%(356,277万円)と例年以上に健闘している。入厩当初から美浦坂路を普段の調教から使用していた2歳馬が好結果を出していると考えれば、未来は明るい。

 今年からGII競走に昇格した12月28日のホープフルS(中山芝2000m)が来年のクラシックを占う上でも重要な一戦になる。特別登録の段階で関東馬12頭、関西馬10頭、地方馬1頭がエントリーしている。フルゲート18頭が揃う可能性が高い激戦を関東馬が制した場合は「西高東低」が続く現状を覆す歴史的な瞬間になるかもしれない。

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