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カジノ解禁で競馬は?!有識者座談会(1)『カジノ論議で飛び交っている言説、9割は嘘か間違い』

  • 2015年01月12日(月) 12時00分
おじゃ馬します!

▲今月は有識者を迎えてのカジノ座談会!熱い議論が飛び交います!!


『もしカジノが日本で解禁になったら、競馬に影響はあるのか!?』 今月の「おじゃ馬します!」は、このテーマでの有識者座談会をお届けします。安倍総理も前向きな発言をしているカジノ。2013年12月に自民党、維新の会、生活の党が衆議院にIR推進法案(=通称・カジノ法案)を提出。2014年の通常国会で成立を目指すも、暮れの衆議院解散により廃案に。しかし、超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(=IR議連、通称・カジノ議連)は、2015年1月召集の通常国会で春までに再提出し、成立を目指すとしている。経済効果など期待の声があがる一方で、治安悪化やギャンブル依存症を懸念する反対の声も聞かれる。はたして日本でのカジノ解禁はあるのか? そして、競馬が被るデメリットはあるのか?

(出演者:須田鷹雄さん、日経新聞・野元賢一記者、目黒貴子さん、司会:赤見千尋さん)



カジノ法案、審理の現状は?


赤見 カジノ法案が国会に提出されて1年。そもそも、なにを通そうとしているのかから私はよく分かっていないんですが、審理は今どういう状況なんですか?

野元 カジノ法案とは「IR推進法案」と言うもので、正式には「カジノを核とした特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」。IRとは「Integrated Resort」、要は「統合型リゾート」ということです。カジノに関わる分に関して言うと、具体的に法案の中に書いてあるのは、カジノ管理委員会を作ると。今のところそこで寸止めどころか、かなり手前ですね。

赤見 じゃあ、カジノが解禁になるとしても、まだまだ先ということでしょうか。今の法律だと、カジノを作る上でなにがだめなんですか?

野元 なにもかもです。そもそも刑法の適応除外という問題がありまして、競馬にしても競輪にしても、合法にするための特別法があるわけです。特別法は一般法に優先するという法律一般のルールがあります。宝くじやサッカーくじも同様です。それぞれの種目に、特別法が1つ1つぶらさがっている。今の刑法の体系から言うと、カジノを作る場合も、そういう特別法をぶらさげてやらないとできないんですね。

目黒 特別法の1段目、2段目、3段目があるとして、現状では1段目すら通せていない?

野元 そうですね。実際に作るとなったら、3段ロケットぐらいじゃないとできないだろうと。今やっと1段目ですが、それさえもそんな簡単には進んでいないという状況です。

赤見 サッカーくじのtotoが出来た時と比べると、どうなんですか?

野元 サッカーくじがなぜ比較的通りやすかったかと言うと、あれは最初、宝くじとギャンブルの中間みたいな位置づけだったんです。長い時間が経ったら、結局完全に宝くじになっちゃいましたよね。それはともかく、1つは、Jリーグブームというのがあった。あとは「これは宝くじに近いものですよ」と予想色やギャンブル色を極力薄めたことで、比較的通りやすかったと思います。

 それから、当時の事情として、長野五輪やサッカーの2002年ワールドカップなど、大型のスポーツイベントが控えていました。資金を確保しなければいけないという大義名分があったので、比較的つるっと通ったのかなと理解しています。

赤見 2020年の東京オリンピックというのは、今回作用するんですか?

野元 多分時間的に厳しいでしょう。ここ1年ぐらい、はっきり言って時間が空費されたと思うので。そもそも、できるかどうかも怪しいというネガティブな事態になって行きそうな気がします。

須田 今回のカジノがなんで勢いがついて来ないのかというと、世の中にギャンブルアレルギーというか、それこそ婦人票を失うんじゃないかみたいなのがあるんだと思うんです。まあ、目黒さんと赤見さんは競馬もカジノもされるので、一般的な主婦層に近くないのは分かってるんですが(笑)、一般的にはやっぱりカジノとかギャンブルって印象良くない面もあるんですかね?

目黒 私個人ではない、私の周りということで考えれば(笑)、ギャンブル依存症というのを厚労省が言い始めたように、その辺がデメリットとして大きいと思いますね。決してカジノ自体が悪いわけではないんだけれども、ギャンブル依存症という言葉だけがどんどん独り歩きしてしまって。健全にやろうと思っていても、後ろ指さされてしまうような空気になってしまうのが嫌だなというのはありますよね。

 あとは治安ですよね。勝って富を得た人が地域にお金を流してくれるんだったらいいんだけども、そうじゃないですもんね。負けた人たちにうろうろされちゃうと、治安的にも嫌だなって思う人は多いかなという気がしますね。

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▲「ギャンブル依存症という言葉だけが独り歩きしていること、あとは治安の問題もありますね」


カジノが出来て得をするのは誰か、ババを引くのは誰か


赤見 それでもカジノを作りたいっていうのは、どういうことなんですか?

須田 そこなんですよ。なんでこんなに「カジノやろう」って、わっしょいわっしょい言ってる人がいるのかというところから整理しないといけないんだけど、現状はもう、一番カジノを作りたがってるのは土木マフィアになってるわけですよね(笑)。

赤見 土木マフィア???

須田 もともとカジノを日本に作った方がいいって言い出した人たちは、もちろん利権を得ようとはしているんだけど、本当にカジノ好きでもあったと思うんです。でも、話の主目的が、途中からハコを作ることになっちゃったわけですよ。もはやカジノが好きな人がカジノを作るんじゃなくなってる。経済的におこぼれをもらおうという人達が主体になっているわけです。

野元 IRですから、ハコもでかい。ホテルその他のエンターテイメント施設とかを併設するのが前提です。そっちの方がむしろ大きいわけです。

須田 さっき目黒さんがおっしゃった治安が悪くなるイメージって、昔の競輪場のようなイメージですよね。でも実際には、カジノのあるところで治安が悪いところってほとんどないと思うんですよ。周辺治安がよくないとカジノ側の商売が立ち行かなくなるから、そのためにカジノ側が経費を使うこともいとわない。世界中のいろんなカジノに行きましたけど、周りがおっかないところって、アメリカのハリウッドパークとかフィリピンとか、ごく少数です。

目黒 たしかにハリウッドパークは怖いですよね。そのハリウッドパークには競馬場もあったじゃないですか。そこにカジノが隣接して出来て、そうしたら競馬場は無くなってしまいましたよね?

須田 ハリウッドパークはアメリカでほぼ唯一、カジノ併設で失敗した競馬場なんですよ。2つ理由があって、ひとつはスロットマシーンが設置できない、カリフォルニアの特殊なカジノ法制。もうひとつは再開発の意欲に競馬側が負けたことです。カジノに必要とされる床面積と競馬に必要とされる床面積って、圧倒的に違うじゃない。だから、カジノだけは残しましょうと。

目黒 ハリウッドパークを例に、カジノと競馬は組めない、組んだらカジノだけが残って競馬は潰れる、敵同士だ、というような意見を聞いたこともあります。

須田 僕自身は、ハリウッドパークはアメリカの中でも例外的な事例だと思いますね。結局、人々はなにかの拍子に得た断片的な情報で、思い込みをするわけです。カジノに関しても、競馬や公営競技に関しても、本当にそれを知っていて語れる人なんてごくわずかなんですよ。あとは雰囲気とかムードで動く。カジノ論議で、メディアでもいろんな言説が飛び交っているけど、9割方は嘘か間違いだと思います。

赤見 賛否どちらかの側から意図的に発せられているものもあるでしょうしね。

須田 僕は正直、日本にカジノを作ったところで、経済的にポジティブなインパクトはそんなにないと思うんです。

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▲「僕は正直、経済的にポジティブなインパクトはそんなにないと思うんです」


赤見 そうなんですか!? 日本の経済に良いということで議論が進んでいるんだと思っていましたが。

須田 アメリカの場合は、いろんな州に細かいカジノがいっぱい出来ましたけど、アメリカはもともとパチンコが無かったわけじゃないですか。日本はこれだけパチンコ産業があって、そこにカジノを新たに作ったら、カジノが伸びないかパチンコ産業を食うかどっちか。そこで、「他の産業を食ったらどうするんだ」っていう議論や依存症の話題が出ると、場当たり的に「じゃあ日本人を入れないようにすればいい」って言うんだけども、日本人を入れないようにしてカジノ側の経営がそれだけで持つか持たないかという話になるわけです。

 外国人観光客ということだと、一番売上につながるのは中国人です。でも、中国の人が日本に来て、カジノにガバガバお金を落としてますという話になったら、中国政府は黙っちゃいないですよ。絶対に渡航制限を掛けます。マカオですら、一度蛇口閉められて危うくなった時期があったぐらいですから。じゃあそれがダメだってなって、他にいいターゲットがいますかっていったら、思いつくのは韓国籍の韓国人くらいです。それでも、その経済規模なんて知れたもんですよ。言ったって年間100億円単位の話でしょう。

目黒 でも、観光立国としてはカジノとかIRが必要だみたいな、そんな言われ方もあるじゃないですか。

須田 そこが強調されるのは、ひとつはIRみたいな話にすると作るハコがデカくなるからですよね。もうひとつは、目黒さんや赤見さんたちとは違う、一般的な主婦層を言いくるめるのに必要だったわけでしょう。カジノを作ったら観光客がガバガバ来ますなんて、それは嘘ですよ。だったら、ソウルにも釜山にも済州島にもフィリピンにも、ガバガバ来なきゃいけない。

野元 韓国では今、観光産業全体で言えば、中国観光客の存在感が圧倒的です。ソウルの繁華街でも中国語で話す声や掲示物が目立ちます。ところが、カジノはと言えばさほど恩恵があるように見えない。済州島もそうです。コンシェルジュが連れて来たような人が団体で来るといった特別な日を除けば、あとはもう閑古鳥が鳴いています。

須田 それも中国本土から見たら、韓国に行っているボリュームは圧倒的に少ないんだと思いますよ。マカオとは比較にならないから、中国政府も別にいいよっていう感じであって。これがデカくなったら、それは蛇口を締めますよ。韓国相手だって締めるだろうし、敵国である(笑)日本だったらなおさら。だからせいぜい、韓国とかマカオに行っている日本人の分を取り戻すぐらいじゃないですか。これがどこまでのビッグビジネスかと言ったら、知れたもんです。それこそ、盛りに盛った経済効果の話でいくらでしたっけ?

野元 1兆3千〜5千億という話です。シティバンクグループから出て来たのですが、実はこれ、パチンコを食うのを前提にした数字です。パチンコの売り上げの何割かがカジノに流れる想定ですから、あの数字の中に真水は少ないんです。

須田 しかも、カジノの売上だけじゃなくて、付随するコンベンション施設とか全部含めてですよね。今の中央競馬だって2兆円以上売ってる。だったらもうちょっと競馬をチヤホヤしてくれよというところですよね(笑)。それでも「カジノだカジノだ」って騒いでいるのは、やっぱりハコを作りたい人の欲求がある。これは純粋な感嘆として、土木マフィアの腕というのは大したもんですよ(笑)。

野元 政治と密接な関係を、長いこと作って来たというのがありますからね。

須田 おもしろいもので、JRAはどんどん政治と距離を置く方向でずっと経営して来たわけですよ。でも、ないところからあるものを作る、それこそ特別法を作らせてとなると、どうしても政治家も抱き込まなきゃいけない。そのうち、損得勘定とか欲でやる人間ばっかりが味方の軍に加わって来ると……

赤見 プロジェクトとしての筋はどうしても悪くなるわけですか。

須田 高コストになりますよね。さらに今度はカジノそのもので稼げない人が、別の形でよこせって言う。その典型が厚労省だと思うんですよ。依存症の問題が出て来るからその対策をしなきゃいけないって言う。これを訳したら「俺らにも分け前をよこせ」っていうね。

目黒 なるほど(笑)。

須田 僕は別にアンチカジノではない。むしろ客としてはしょっちゅう行くし、カジノ愛好家です。僕が言いたいのは、カジノを作るんだったら、カジノそのものやカジノビジネスに対する愛を持った人に、きれいな良いものを作って欲しいということです。無駄にでかいハコを作って、ぶら下がる人間が増えると、カジノ経営で誰かがババを引くんですよ。作っちゃったら、最後カジノそのものが立ち行かないから。

野元 その意味で一番懸念されるシナリオというのは、こういうことだと思うんです。今おっしゃったように、収益が保証されているわけではない。普通、カジノを作りますという話になった時に、まず考えるのは公設民営だと思うんです。ところが、公設だと最後の帳尻に対しては自治体が責任を持たなきゃいけない。それでカジノをやりたいって言っていた自治体が、ここに来て引き始めた。

須田 「やっぱりこれはちょっと騙されてんじゃない?」って……

目黒 自治体の中でもリスクに気付く人が出てきているということですかね?

赤見 お台場っていう話もいつの間にか消えてますもんね。あとは大阪とか、横浜とか?

野元 舛添都知事はあまり熱心ではないようですね。あとは横浜や大阪あたりで、ノイズマーケティング(論争的なテーマを意図的に投げて関心を引こうとする戦略)の部分も含めて、一番一生懸命だったのは大阪です。橋下市長ははまだやりたいと思っているようですが。とにかくいくつも手を挙げた中で、では経営形態は? という話になった時、公設民営の形では危ないと自治体が考え始めた。公設民営がダメとなると、残るは民設民営しかない。ところがこの場合、法改正、法整備のハードルは、段違いに上がります。なにしろ日本ではまだ、民間はギャンブルの胴元になれない建前ですから。

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▲「公設民営がダメなら民設民営しかない。ところがハードルは段違いに上がります」


須田 さらにみんなそれぞれの立場の損得でものを言うわけです。公設民営の問題でも、その時点で首長をやっている人は、「うちでやるんだ」と言ったらカジノ推進派がなんらかのメリットをくれる。いま貰えるものを貰って、実際にカジノが出来た頃には、「もう俺知らねえ」で済むわけじゃないですか。同じポストに居なければ。

 でも、そこの自治体のちゃんと仕事している部長、局長みたいな人が、「これやって最後ババ引かされたらどうするの? 別に俺個人が金貰えるわけじゃねえし」ってなったら、それは反対の方向で組織をまとめちゃうんじゃないですか。そこで自治体内部でも温度差は出るでしょう。(次回へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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