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節目の年

  • 2015年01月10日(土) 12時00分


 2012年は近代競馬150周年、2013年は第80回日本ダービーと東京競馬場開設80周年、2014年はJRA創立60年の節目だった。

 そして今年、2015年は京都競馬場開設90周年。このところ毎年、競馬界は重みのある節目を迎えている。

 もっと視野をひろげると、今年は戦後70年であり、また、阪神大震災から20年という、「復興」がキーワードとなる大きな節目の年でもある。

 再度「競馬」に焦点を合わせながら、戦後70年であることに思いを馳せると、今年は、競馬が「軍需資源である馬匹強化のための実験の場」という存在意義を敗戦によって失い、純然たるレジャーになってから70年の節目だということがわかる。終戦の年には開催は行われなかったが、能力検定競走が実施されるなど、馬もホースマンもレースもどうにか存続していた。

 ――なぜ競馬をするのか。

 それに対する答えが「国力増強のため」から「みんなが楽しむため」になった。そうなったことにより、

 ――なぜ競馬をつづけるのか。

 という問いかけに対する明確な答えを出すのが、「お国のためだよ」で済んだ時代に比べて難しくなった。今も国庫納付金などでお国のためになっているのだが、生産者やメディアの人間も含めた、この産業に関わる者たちの生活のためであり、また、馬が稼いでくれるからこそ体を綺麗に洗い、ボロの世話までするという献身的な関係が成立するのだし、馬は「速く美しく走る」、ホースマンは「生き物を育み、能力を引き出す素晴らしさを体現してみせる」というスポーツとして、子供たちの情操教育であったり、すべての人々に勇気を与えることにつながったりするから……などと、かなり観念的なことも加えなければならなくなった。

 そうなってから70年。進むべき方向を模索しつづけて70年、と言ってもいい。もちろんこれからも模索はつづく。

 昨年からJRAでも採用された、鞭の使用制限に関するルールなどは、「馬を叩くのはかわいそうだ」という視点による動きの延長線上にある変更だ。叩かれなかったがために能力を発揮し切れず、繁殖馬になるのではなく食肉市場行きになるほうがかわいそうだと私は思うのだが、これに関しては、日本人は世界でも少数派の馬を食べる民族なので、食文化をからめた話もしなければならなくなる。これ以上はやめておきたい。

 ともかく、競馬というのはそうした矛盾や無理を孕んだレジャーでありスポーツであり巨大産業でもあるわけだが、昔から、騎手や調教師、馬主、主催者、政治家、作家を含めたファンなど、いろいろな立場の人がこれを支えようと力を尽くしてきた。競馬史をひもとくのはそうした事実の確認にもなる、と何度も同じことを言ってきたような気がするので、この話もこれくらいにしておく。

 さて、節目の年を迎えるにあたり、ひとつ前の年を振り返り、それによって気持ちを新たにしたい。ということで、まずは、競馬界全体の2014年十大ニュースを。

10位 WIN5が上限6億円に
9位 ミルコ・デムーロ、クリストフ・ルメール両騎手、日本の一次試験合格
8位 川島正行調教師逝去
7位 後藤浩輝騎手、落馬負傷、そして復帰
6位 Dr.コパ氏の所有馬大活躍
5位 佐藤哲三騎手引退
4位 凱旋門賞に日本馬3頭出走
3位 ノースヒルズ、ダービー連覇
2位 ジェンティルドンナ、有馬記念で有終の美を飾り、年度代表馬に
1位 ジャスタウェイ、レーティング世界一

 といったところだろうか。主観が入っているので、読者の方々の考える順位と違っていることをご了承いただきたい。

 主観が入ったついでに、私の個人的な「2014年競馬関連十大ニュース」も。

10位 後藤浩輝騎手、石黒謙吾氏と会食
9位 相馬野馬追観戦〜称徳館取材のロングドライブ
8位 愛馬アンスーリールを手放す
7位 オオエライジンなど名馬の死
6位 柴田未崎騎手、復帰
5位 前田長吉の新事実、明らかに
4位 優駿エッセイ賞選考委員に
3位 『世界一の馬をつくる』編集協力
2位 『虹の断片』『誰も書かなかった武豊 決断』と単行本を2冊上梓
1位 スマイルジャック、種牡馬入り

 7位のオオエライジンは帝王賞のレース中に故障し予後不良、アドマイヤラクティはメルボルンカップのレース後に死亡した。ほかにもサクラチトセオー、タケノベルベット、ヤエノムテキ、ライデンリーダー、エリモシック、タイキブリザード、バンブーメモリー、フサイチコンコルド、そしてラムタラなど、何頭もの名馬が世を去った。

 こうして書き出すと、不思議と気持ちに区切りがつく。
 さあ、いろいろと頑張ろう。
 ということで、今年もどうぞよろしくお願いします。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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