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黛弘人騎手(2)『ノットフォーマルの能力と、エルコンドルパサーの血筋』

  • 2015年02月09日(月) 12時00分
おじゃ馬します!

▲大好きなエルコンドルパサーの孫、ノットフォーマルの才能を語ります!


以前から、エルコンドルパサーが大好きだった黛弘人騎手。孫のノットフォーマルが自身の初重賞勝利の馬となり、喜びもひとしおです。そのノットフォーマルに、競走馬としての資質の高さを感じて行くうち、エルコンドルパサーのことももっと知りたいと感じた黛騎手。主戦であった蛯名正義騎手に思い切って質問してみたところ、思わぬ答えが。(取材:赤見千尋)


(つづき)

“牝馬の黛”と呼びます!


赤見 もうデビュー10年目なんですね。昔から知っていたので、いつまでも若手、若手と思っていましたが。勝利インタビューの時、「重賞を勝つなんて夢のまた夢だった」って言っていましたね。

 いろんな先輩方を見てても、僕よりたくさん勝ってた先輩でさえ、9年目10年目で初重賞というのはよくあるぐらいですからね。田辺先輩だって、確か10年目でしたもんね。重賞って、そう簡単に獲れるものじゃないと思うんですよ。ある程度運も大事なんだなって思います。

赤見 ここで1着か2着かでも、全然違いますよね。

 違いますね。たかが何センチの差だったとしても、馬にとってその後が大きく変わっていきますからね。

赤見 これでもう賞金的にはオッケーなわけで、春は関西の大きなところに行くかというお話もありますけど?

 そうですね。僕はまだ阪神で乗ったことがないので、毎週毎週研究して見てるんですけど。何となくイメージはつかめてきています。

赤見 ノットフォーマルって、遠目から見るとちょっと詰まった馬体に感じて。距離がどうなのかなって勝手に思ってたんですけど、実際のレースではかなりしぶといですね。

 僕は、距離はもうちょっとあってもいいぐらいの気持ちはあるんです。フェアリーSで、1600mからの馬だと思いました。粘り強いですし、操縦性が利くので好位で競馬ができるというのも強みです。何よりすごく安心して乗れるのが、この馬の良さですね。

赤見 若い女の子で競馬が上手で、しかもどっしりしてるなんて。


おじゃ馬します!

▲黛騎手が「すごく安心して乗れる」と絶賛のノットフォーマル


 そうなんですよ! 赤見さんもジョッキーをされていたのでわかると思うんですけど、本当に乗りやすい馬って、安心感がすごいじゃないですか。牝馬って、返し馬からチャカチャカすることも多い。そうすると競馬でも辛いですもんね。でもこの馬は、おとなしくて本当に安心して競馬に乗れます。性格もすごく素直なんですよ。

赤見 気難しさがない女の子なんて、かなり珍しいですね。女の子は性格面で難しいですもん!

 でも僕、牝馬は結構相性がいいんですよね。

赤見 あっ、そうなんですね。やっぱりイケメンは牝馬との相性がいい(笑)。

 いやいやいや。牝馬の方が、機嫌を損ねないようにすれば一生懸命走ってくれるので。男馬だと、怒ったりしないと闘争心が出て来なかったりするけど、牝馬は自分から闘争心むき出しにしてくれるので、乗っていて楽ですよね。

 他の馬の話になっても、大丈夫ですか? 以前乗せていただいてたレオパステルっていう牝馬がいたんです。短いところで走ってる馬って、カッカカッカしてるじゃないですか。でもレオパステルって、新潟の千直でいつもいい競馬をするのに、返し馬からトコトコトコトコ歩くんです。だから、レオパステルも競馬で安心できる馬でしたね。

赤見 余計なところで力を使ってしまうと、力が発揮できなかったりしますもんね。これからは“牝馬の黛”って呼びます!

 はい(笑)。そういった面も含めて、ノットフォーマルはいろんなことがうまいこと行っている馬ですよね。走り方とかそういったものは個性だと思うので、全体的にもっともっと個性を伸ばしていってもらいたい。自分のいいところを持続して、どんどん良くなってもらいたいですよね。エルコンドルパサーも、そうだったらしいんですよ。

赤見 そうか。父父、おじいちゃんですもんね。

おじゃ馬します!

▲現役時のエルコンドルパサー(撮影:下野雄規)


 はい。僕、この馬で勝つ前からエルコンドルパサーが大好きなんです。でも、触れたこともなければ、実際に見たこともなかったので、エルコンドルパサーについて知りたいなって思っていて。それで、この間蛯名さんに、「エルコンドルパサーってどういう馬だったんですか?」って聞いてみたんです。そうしたら「おとなしくて操縦しやすいし、本当に手がかからなくて、競馬でも走る。本当に素晴らしい馬だった」って。もしかしたら、そういった面も受け継いでくれてるのかなと思いますよね。

赤見 エルコンは本当にすごかった。凱旋門賞とか、フランスでのレースは絶叫しましたもん!

 ジャパンCもすごかったですよね。強い競馬でしたね。GI馬って爆発力が強すぎる分、難しいところがある馬もいると聞きます。

赤見 能力があって乗りやすいなんて、競走馬の鏡!

 僕もそう思います。だからこそ、ノットフォーマルは大事にして行きたいんですよね。もちろんどの馬にも言えることですけど、とにかく無事に行ってほしい。今回叩き過ぎちゃったから、怒ってないかなってちょっと心配してるんですけどね。

「GIを勝つまで我慢するぞ」


赤見 新馬から乗ってますけど、コンビを組む経緯というのは?

 すごく良くしてくださってる芳賀オーナーが、船橋競馬場の千葉セリでこの馬を買われまして。僕も一緒にいたんですけど、その時に「黛君にぜひ乗ってもらいたい」と言ってくださったんです。

赤見 最初から「いい物があるな」という感じでした?

 いや、僕は正直、乗らないで馬を見る目はないんです…。セリはよく見学に行くんですけど、見てるだけでは全然わからないんですよね(苦笑)。

赤見 たしかに。わたしも全然分からない…。

 でも、なかにはわかる方もいますもんね。乗らないで能力を見抜くというのは、本当にすごいなと思います。僕は全然。それこそノットフォーマルのことも、「黒鹿毛で、ヴァーミリアン産駒で、千代田牧場さんの馬なんだ」って、カタログに書いてあることしか(苦笑)。ただ、「いい目をしてるな」という感じはすごく受けました。

赤見 顏も大事ですよね。

 大事ですよね。顔とか目つきは結構見ます。乗る前まではノットフォーマルがどういう馬なのか、あまりわからなかったですけど、今はいいところをたくさん知ってます。どの馬も絶対にいいところってあるので、そういうのをどんどん見つけて行きたいですよね。

赤見 そんな縁のある馬で重賞を勝つなんて、泣きそうになりませんでした?

 なりました。ゴールしてから勝ったことがわかって、帰ってくるところで泣きそうになりました。でも、「まだ早い」と思って泣かなかったです。

赤見 勝利インタビューに入る時に、ちょっとウルッとしてるのかなと思ったんですけど、始まったら冷静になりましたよね。

 感慨深いのはもちろんありましたけども、「GIを勝つまで我慢するぞ」という気持ちがありまして。

赤見 素晴らしい! GIは乗れることがまずすごいですし、重賞を勝って挑むというのは気持ちも違いますよね。この馬と共に、一気に活躍の場が広がりますね。(つづく、文中敬称略)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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