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無敗の優勝馬は本番でも侮れない/スプリングS

  • 2015年03月23日(月) 18時00分


スプリングS時点の評価は関係ない

 北島三郎オーナーの所有する伏兵キタサンブラック(父ブラックタイド)が好位から抜け出して3戦3勝となり、候補の1頭に浮上した。

 確かに流れに恵まれたのは事実だが、無敗でクラシックにリーチをかけた新星を軽くみてはいけない。遠くシンザンの時代から現在に至るまで、スプリングSの歴史64回。無敗でこのレースを制した馬の皐月賞成績は、【6-2-0-1】。ものすごい成績である。このうち、60年の2冠馬コダマも、92年の2冠馬ミホノブルボンもスプリングSは1番人気ではなく、日本の生んだ不世出の名馬とされる1964年の3冠馬シンザンなど、ハデに騒がれていた馬ではなかったから、4戦4勝だったのに6番人気にとどまり、単勝配当は1050円だった記録がある。スプリングSの時点で評価が低いのは、このあとのクラシックとは関係ない。

 父ブラックタイドは2004年のスプリングSの勝ち馬。こちらが1歳上の全兄だから、ディープインパクトのジェネリックではない。母方は19世紀にイギリスからアルゼンチンに渡り、20世紀のチリで発展し、やがてアメリカに輸入され、さらに「逆巻く波を乗り越えて…」日本にきた牝系である。ヤワではない。筋金入りのファミリーである。

 これで、弥生賞のサトノクラウン、このスプリングS組からはリアルスティールが一歩抜け出した形の勢力図が描かれることになるが、この世代、簡単に「候補ランキング」に収まるような素直で、理解しやすいキャラクターは極端に少ない。

 昨年夏の「函館2歳S」から「スプリングS」まで、牝馬限定戦以外の重賞は計「19R」行われたが、勝ち馬は「4、3、5、15、4、11、5、4、6、1、2、2、3、1、3、9、2、14、5」番人気だった。そういう世代である。1番人気で勝ったのは朝日杯FSのダノンプラチナと、もう1頭はきさらぎ賞の牝馬ルージュバックである。

 21日(土)のトライアル「若葉S」で、8頭立て8番人気のレッドソロモンと、7番人気のワンダーアツレッタが晴れて皐月賞の優先出走権を得たことにより、年が明けたころは候補最上位にも近かった人気の御三家「アヴニールマルシェ、ドゥラメンテ、ポルトドートウィユ」。これら獲得賞金1650万円組は、皐月賞に出走可能なフルゲート18頭の「ボーダーライン」の下にはじきだされてしまった。上位18頭がみんなそろって出走するとは限らないが、今週の「毎日杯」の結果によっては、賞金獲得額1650万円を上回る馬がまだ2頭加わる可能性がある。

 2着に負けたリアルスティール(父ディープインパクト)は、ここが3戦目。2戦目に共同通信杯(東京)をあっさり勝っているくらいだから、初めての中山など気にしないが、落ち着き払っているというより、まだ主電源は入っていても、肝心の始動スイッチは入っていないのではないか、と思えるほどのんびり映った。コーナー4回のコースも、ゴール直前の急坂も平気だった。

 死角があるとすれば、18頭立ての内枠を引くことか。本番だからといって、ダッシュを利かせてムリな先行策は取りたくないだろう。大跳びなので重馬場も歓迎ではない。だが、今回の快走でほとんどの課題は克服した。サトノクラウンと「2強」の図式になったと思える。

 3着ダノンプラチナ(父ディープインパクト)は、好スタート。「前半1000m通過62秒6-後半46秒5-34秒5-11秒5」のスローに行きたがるところもなく、道中、鞍上の蛯名正義騎手は前方にはいないリアルスティールの位置を股間から探すと、すぐ直後にいた。ペースアップした全体の流れに合わせて先頭集団との間合いを詰め、4コーナーを回ってスパート。

 直線、外から併せてきたリアルスティール(上がり33秒6)に並ぶまもなく坂上から約1馬身差された。今回のメンバーの中ではもっとも正攻法に近い好位差しの形をとって、あとからきたリアルスティールに差されたのは、こちらは休み明けではあっても、器の違いを感じさせた印象は否定できない。丸みを帯びた素晴らしいバネを感じさせる馬体だが、4コーナーですでに射程に入れたキタサンブラックとの差は、怖い相手だと考えていなかっただろうが、直線、最後までほとんど詰まることはなかったのが気になる。

 典型的なマイラー体型にみえるのは、こと皐月賞の2000mではさして気にならないが、スローの最後の切れ味勝負はダノンプラチナの望むところである。それで伏兵キタサンブラックに追いすがれずの3着は、距離延長がプラスとは思えないだけに、皐月賞では2番手グループ評価か。

 ベルーフ(父ハービンジャー)は、コース取り、スパートのタイミングともに申し分なかったと思える。しかし、あまり惜しくない4着。これはあくまで個人的な見方になるが、典型的な欧州タイプの良さを秘めるハービンジャー産駒は、惰性がついていればともかく、「11秒2-11秒5」の直線でディープインパクト(ブラックタイド)産駒がスパートして切れ味を爆発させる形になるようなレースでは、抗する切れで明らかに見劣る。これは、ここまで壁にあたっている多くの産駒が示している死角であり、お利口さんのレース運びは、ことハービンジャー産駒にとってはすこしもありがたくない好騎乗だろう。

 武豊騎手が「サンデー乗り」を最初に切り開いて大成功したように、たとえば、もっと強引にまくって出るとか、先行するとか、底力の競馬に持ち込む「ハービンジャー乗り」にでも挑戦しないと、日本の競馬では欧州タイプはめったに成功しない歴史を、また今度も再確認するだけにとどまってしまう。別の視点でいうと、それは、育成や鍛え方や、馬場や血統のことではなく、凱旋門賞やキングジョージに何回も何頭も挑戦しても、結局、惜しい惜しいで終わる歴史は変わらないのではないか、という物足りなさに通じるように思える。

 7カ月ぶりだったミュゼスルタン(父キングカメハメハ)は、骨折休養明けの今回は、最初からムリすることなくレースの感覚を取り戻すことが最大のテーマだったろう。最後方でムリせずに追走すれば、最後はそれなりの脚は使えるのは当たり前といわれるが、それはバテた馬はかわせるという意味であり、ミュゼスルタンの上がり3ハロンは2着リアルスティールと同じ「33秒6」だった。秘める資質は示したところに注意したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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