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無敗と連覇

  • 2015年03月28日(土) 12時00分


 前回の本稿で「無敗馬」について記したら、先週、「無敗の重賞勝ち馬」が2頭増えた。

 フラワーカップを逃げ切ったアルビアーノ(父ハーランズホリデー、美浦・木村哲也厩舎)と、スプリングステークスを勝ったキタサンブラック(父ブラックタイド、栗東・清水久詞厩舎)である。

 と同時に、リアルスティールとミュゼスルタンがスプリングステークスで2、7着に終わり、「無敗の重賞勝ち馬」ではなくなってしまった。

 2頭増えて2頭減った。上手くできているんだかどうなんだか、プラマイゼロである。

 今のところ、3歳の「無敗の重賞勝ち馬」は、牡馬ではキタサンブラックとサトノクラウン(父マルジュ、美浦・堀宣行厩舎)、牝馬ではアルビアーノとルージュバック(父マンハッタンカフェ、美浦・大竹正博厩舎)、クイーンズリング(父マンハッタンカフェ、栗東・吉村圭司厩舎)、キャットコイン(父ステイゴールド、美浦・二ノ宮敬宇厩舎)ということになる。

 ――えっ、どれかが負けて「無敗」じゃなくなっちゃうの?

 という、ドキドキハラハラのレースを、この春、楽しめるわけだ。

 もうひとつ。これは誰も覚えておらず、指摘もしてくれないので自分で言うが、今年1月24日付の本稿「春の足音」に、私はこう書いていた。

<今年の目標は、まずスマイルがたくさんのお嫁さんに恵まれること。次に、木村師の重賞初勝利、願わくばGI初勝利を目撃して祝福すること>

 開業5年目の木村師は、前述のアルビアーノで重賞初勝利を挙げた。が、私は競馬場に行けなかったので、SMSで「おめでとうメッセージ」を送ることしかできなかった。

 その日に中京で行われたファルコンステークスを勝ったタガノアガザルは千田輝彦調教師の管理馬だ。彼も開業5年目で、これが重賞初勝利だった。騎手時代から親しく、1990年代なかごろから5、6年連続で行っていた、年末年始のアメリカ・サンタアニタパーク競馬場遠征にも同行していた。もうこんなふうには呼べなくなってしまったが、「チー坊」の重賞勝ちも、本当に嬉しかった。

 念のため加えておくが、木村師と千田師の重賞初勝利馬券は買っていなかった。

 タガノアガザルの単勝は7830円もつき、鞍上の松田大作騎手にとっても、これが重賞初勝利だった。実は、松田騎手も、千田師と一緒にサンタアニタに行ったことがあり、そのときも私は一緒だった。

 私は物書きなので、反省があるとしたら、その馬券を買っていなかったことではなく、木村師について記した本稿のタイトルを地味にしすぎたことである。春の足音。今振り返ると、これではなんのことやらわからない。
「見るぞ木村師初重賞」とか「今年の目標は人のふんどしで相撲をとること」など、具体的で、インパクトのあるものにしておくべきだった。そうしておけば、

 ――熱視点に書いていた木村調教師が重賞を勝ちましたね。

 と、ひとりぐらいは言ってくれたはずだ。

 実は今回は、無敗馬云々は入口だけにして、高松宮記念に去年の勝ち馬コパノリチャードが出るので、「連覇」をキーワードにあれこれ書くつもりだった。

 ところが、前置きのつもりだった無敗馬の話が長くなり(話の長い人は、前置きが、いつの間にかメインテーマにすり替わってしまいがち。それが「何度も同じことを言う」という性癖にもつながる)、このパラグラフは「起承転結」の「転」の入口になってしまった。

 担当編集者によると、このサイトは、「このコラムに注目する」をクリックした人の「注目数」とアクセス数(ページビュー)がある程度比例するらしい。

 テーマをしっかり決め、何日も前から、場合によっては前の週から書きはじめ、写真も添えてアップした原稿の注目数が20台や30台どまりだったのに、〆切直前にダーッと書いたものがその数倍の注目数になることがままある。いや、ままあるどころか、明らかに、急いで書いたもののほうが注目数が多くなる傾向がある。

 私だけなのかもしれないが、書き手の努力が、注目数、そしてアクセス数に比例していない。なぜだろう。悪く言うと「思いつき」のテーマのほうが、「今」をとらえた熱いものになるからか……なんていうのは、「私はやっつけ仕事はしません」という言い訳のようなものだ。

 私が「我が軍」と呼んでいる読売巨人軍は、「金で補強をしているから、強くて当たり前だ」とよく言われた。が、資金を調達する、という「努力」をして、どこが悪いのか。それが唯一で最良の努力だとは言わないが、できる努力をして強くなれるのなら、プロがそうするのは当然だと思う。

 私は努力をしたい。そして、できれば、その努力は報われるものであってほしい。

 この前、曲にセリフを乗せてヒットしているお笑いコンビが、「自分たちはネタをつくっているのではない。曲が降りてくるんだ」といった話をテレビでしていた。あの手の芸人に一発屋が多いのは、そのように、努力のしようがないやり方に頼っているからだろう。

 話が訳のわからない方向に行きそうなので、「連覇」に戻す。

「無敗」と「連覇」に通じるもの。それは、「つづけて勝つ」ということだ。つづけて勝つ馬がなかなか出てこないのは、例外はあるものの、前より今、今より次のほうが戦う相手が強くなるからだ。すなわち、「つづけて勝つ力」は「強くなりつづける力」と言い換えることもできる。

 ディープインパクトやオルフェーヴルぐらいになれば現状維持でいいのだろうが、強くなりつづけているからこそ、連勝することができて、無敗馬になり、長いスパンで見ると、前年勝ったレースをまた勝つことができる、というわけだ。

 コパノリチャードは、去年のコパノリチャードより強くなっているだろうか。もともと複勝は買うつもりだったが、それをよく考えて、単勝を買うかどうか決めたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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