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最大の勝因は「ファンの後押し」/天皇賞・春

  • 2015年05月04日(月) 18時01分


宝塚記念でゴールドシップは信頼できるか

 さんざんゲート入りをいやがり、いざスタートするとダッシュつかず。2000m通過地点から果敢にスパートして先団に追いついたものの、まくり切るまでには至らず、苦しいところで脚を使っている。4コーナー先頭のステイヤー必勝の形にならなかったゴールドシップ(父ステイゴールド)は、レース前からもう「今回はダメかも…」と思わせたうえ、スタートしてから何度も何回も、「やっぱり今回はだめだ」と思わせながら、とうとうしのぎ切って天皇賞・春を勝った。

 過去、天皇賞・春に何回も出走した馬は数多くいるが、3回目の挑戦で初勝利を挙げたのは、このゴールドシップが史上初である。過去2年は、5着、7着の凡走にとどまっていたゴールドシップは、よほど気分良くレースの流れに乗ってツボにはまらないと、高速馬場の京都では、3歳同士だった「菊花賞」の再現はむずかしいのではないかと思われた。

 最大の勝因は、なんとか勝って欲しいが、でも、本当はダメかもしれないことを知りつつ2番人気に支持したファンの後押しだった気がする。ゴールドシップから始まったファンもいれば、父ステイゴールドの産駒だからひいきの1頭になった人びとも、芦毛を伝える母の父メジロマックイーンの面影をゴールドシップに見つけたファンもいる。

 横山典弘騎手のファンも、須貝尚介調教師のファンも、オーナーや、生産した出口牧場を知る人びとも、いろんな経緯でコンビを解消された内田博幸騎手のファンだって、べつにゴールドシップは嫌いではない。「馬があきらめないで走った(横山典弘騎手)」。ゴールドシップがいやにならずに最後までがんばったのは、直接は、素晴らしい状態に仕上げた須貝調教師以下の厩舎スタッフであり、最初のスタンド前から、最後方に下がりながらも1番外を回り、スキあらば途中スパートに出てもいい気分に持っていった横山典弘の腕だろうが、ゴールドシップを後押ししたのは、「あきらめないでがんばれ!」。やっぱり、声援しつづけたファンだった。

 父ステイゴールドは、ずっと勝てないでいた競走時代、いつか人びとのこころを分かる馬になっていた。そこで、最後に国際G1を勝つことによって声援に応えた。種牡馬になったステイゴールドは、少し活力を失いかけている必ずしも著名ではない種牡馬の血をひく牝馬にばかりに、喜んで味方した。ゴールドシップは、いろいろな乗り替わりを経験し、凱旋門賞14着の大恥をかいたりしているうちに、いつか父と同じように人びとのこころを察する馬になっていたかもしれない。

 ゲート入りを嫌がり、先に入っていた奇数番の馬たちを困らせながら、ゴールドシップ自身は血走った目つきになるどころか、つぶらなままである。レースが終わってクールダウンしながら、尻についたゴミでも振り払うように尻っぱねするゴールドシップは、勝ち誇った素振りも、疲れた様子もみせない。相変わらずキラキラの瞳でカメラを見たりしている。

 3連覇のかかる宝塚記念で、ゴールドシップは信頼できるか。「もう大丈夫だ」、などと思ったら甘い。横山典弘騎手は、今回は道中から再三ムチを入れ、ゲキをとばしたが、レース前はゴールドシップに気分を損ねることなくちゃんと走ってくれるよう、「お願いする」立場だった。でも、もうコンビの横山典弘は、さすがにゴールドシップと理解し合う関係になったのか。横山典弘騎手が分かったのは、あいつとは手を取り合って喜ぶような関係にはなりえない、という結論だったかもしれない。おまけに、ゴールドシップも同じように思ったかもしれない。

 ゴールドシップは人びとの想い察知をできるようになっている。「悪いと思ったから、天皇賞・春はちゃんとがんばったでしょ」「今度は、また宝塚記念ですか。もう2度も勝ってるんで…」となって少しも不思議はない。だいたいゴールドシップは、他人に自分のこころまで読まれるのは大嫌いである。天皇賞・春で、「ゴールドシップは売ってないよ」。そう思って嫌った人びとも、やっぱり今度は買ったほうがいいかな、となりそうな宝塚記念で、ゴールドシップがどんなレースを展開するか、けだし見ものである。阪神芝は【6-1-0-0】。たぶん1番人気である。

 レースは、高速の京都にしては4等分して「48秒6-49秒9-49秒2-47秒0」。

 二分すると「1分38秒5-1分36秒2」=3分14秒7。近年のレースの中では、決して高速でも、すごい中身でもなかった。だから、ゴール前は大接戦である。

7着キズナの印象

 注目のキズナ(父ディープインパクト)はどうしたのだろう。ステイヤーでなければ乗り切れない3200mではなかった。骨折休養明けを2戦し、陣営の懸命の立て直しでだいぶ良くなったように映ったが、パドックのキズナは平凡だった。日本を代表するエースらしい存在感を失っていた。頂点のG1で人気を集める古馬のかもしだす威圧の気配がなかった。

 3分15秒2の走破タイムは奇しくも昨年とまったく同じだが、内容ははるかに悪いだろう。たしかに距離適性ということはある。でも敗因はそのことではなく、また体調でもない。レース前に一応は高まりは示していたものの、キズナらしい鋭い気力の充実はなかった。休養明けの京都記念は、届くと思えたゴール寸前、あと一歩の伸びを欠いた。あれは仕方がない。だが、前回の大阪杯は確勝のレースだった。実際、完勝と思えた体勢から、ちょっと苦しくなったら止まって2馬身も負けた。今回はスパートして争覇圏に進出しかけたものの、もうそこから気力が続かなかった。

 陣営は「精神的なものだったらイヤだな…(佐々木晶三調教師)」ともらしたと伝えられるが、勝とう、相手をねじ伏せようという気迫が見られなかった印象が強い。どの時代も、どの世代でも、日本ダービー馬のその後がもっとも難しいことは知られるが、キズナもいま、なにかを失いつつあるのだろうか。条件馬ならたちまちなついて友だちになれるが、ゴールドシップもそうであるように、頂点に立つサラブレッドのこころの奥はだれも分からない。

 アドマイヤデウス(父アドマイヤドン)は、素晴らしい状態だった。外枠ながら巧みな位置取りに成功し、ポツンとうまく中団のポケットに入ったと見えたが、緩い流れを察知したか、スタンド前で外に回ったのが(結果として)良くなかったのだろう。かかり気味になり、もっとも息を入れたいところで力んでしまった。直線に向くころにはすでに終わっていた。

 2着フェイムゲーム(父ハーツクライ)は、こういうペースだから仕方がないが、ちょっと残念だったろう。たしかに器用に立ち回れないタイプではあるが、ゴール前、まだ十分に脚は残っていたように見えた。騎乗停止が2回もつづいたあとだから、北村宏司騎手はのびのび立ち回れなかったかもしれない。騎乗停止のペナルティーは仕方がないが、なにやら犯罪者を取り締まるかのように走り始めたJRAの姿勢(再度は重罪)には、責務を逸脱の独善があるように思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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