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厳しく、中身のあるレース/ヴィクトリアマイル

  • 2015年05月18日(月) 18時01分


6歳にしてレース内容を高めているストレイトガール

 勝った6歳ストレイトガール(戸崎圭太騎手)も、あと一歩のところで大魚を逸した6歳ケイアイエレガント(吉田豊騎手)も見事だったが、オークス、日本ダービーを直前に、みんなに喝を入れるかのように激走した江田照男騎手のミナレットが、今年のヴィクトリアマイルを盛り上げた最高の立役者だった。

 前日のG2京王杯スプリングC1400mは、懸念された通り「前半36秒0-(11秒9)-後半33秒7」=1分21秒6。超のつくスローペース。直線ではインに馬群が密集し、前がふさがり追うのを断念。レースをやめた馬が何頭もいた。これを見ていた江田照男騎手(43)には、期するところがあった。こんなレースを続けていてはファンにすまない。恥ずかしい。

 歴史的なペースの桜花賞のあと、一転して皐月賞を「59秒2-59秒0」=1分58秒2の、しかるべき内容のG1に修正したのが横山典弘のクラリティスカイであるように、江田照男騎手には、自分の乗るミナレットの好走を策すだけでなく、失望のため息を、歓声に変えなければならない。ベテランジョッキーの担うべき役目と誇りがあった。

 18番人気のミナレット(父スズカマンボ)の飛ばしたペースは「前半34秒3-45秒5-56秒9→」。たしかに少し速いが、暴ペースではない。事実、ミナレット自身は「後半46秒7-35秒3」と鈍ったものの、1分32秒2で乗り切っている。18番人気の伏兵とすれば、自身が最高の内容だったと同時に、G1ヴィクトリアマイルを、古馬牝馬の頂点のG1にふさわしい内容にしてみせたのである。勝ち時計1分31秒9は、2011年、アパパネ=ブエナビスタの年のレースレコードとタイ記録であり、ミナレット自身の1分32秒2こそ、なんと、最近5年間のヴィクトリアマイルの平均勝ち時計である。江田照男は、ジョッキーの面子を保った。

 万馬券を出した穴馬は、忘れたころにまた穴を出す。そんなことはだれだって知っているが、ミナレットにはかなわない。2012年、新潟の夏の新馬戦でデビュー戦を勝ったミナレットは17頭立て14番人気。3連単は、2着同着の2983万円(1票)と、1491万円(2票)の2通り。票数から推測するに、2着同着でなければ6000万円近かったろう。

 当時、(単勝か馬単かをゲットし)、隣りで騒ぎまくっていたM記者も、今回は印が回らず、さすがに「買えなかった」らしい。18頭立て18番人気で、賞金順位18番目のミナレットは、やっぱりすごい。この5歳牝馬はこれで【5-3-3-23】。これまで馬券に関係したこと計11回。順に、「14、5、2、4、8、8、4、5、6、9、18番人気」である。だいたい、500万下で2番人気が1度あるだけで、1番人気になったことなど1度もない。

 最初から厳しいレースだった。連対した2頭は過去9回、1度も連対したことがなかった6歳馬である。昨年のこのGIを小差3着していたストレイトガール(父フジキセキ)は、これが1600m初勝利。G1【1-1-3-1】。戸崎騎手も冴えわたっている。陣営は昨年3着にとどまった香港スプリント(12月)に、今年も挑戦したいらしい。ストレイトガールは元気いっぱい、自身のレース内容を高めているのはすごいことである。

 ヴィクトリアマイルが創設されての最大の功績は、ウオッカや、ブエナビスタが快勝するレースになったと同時に、活躍の場が限られていた他のベテラン牝馬にも目ざすべきG1が生まれ、物足りないまま引退せざるをえない馬が少なくなったことだとされる。その意味でも、6歳馬のワン・ツーは、レースの中身からして、このG1にとってもっとも意味のある結果だった。

 ケイアイエレガント(父キングカメハメハ)は素晴らしかった。ネンザで中山牝馬Sを回避したあとの今回は、必ずしも好調とは思えない中間の気配だったが、果敢に先行し、もたつく4歳馬の追走を許さず、直線先頭。これは「勝った…」とみえた瞬間もあった。昨年のヴィクトリアマイルで記録した1分32秒6を大きく短縮して、勝ち馬とアタマ差の1分31秒9。フロックでもたまたまでもない。強気に先行してがんばり抜いた自身の能力の証明である。

 ストレイトガール、ケイアイエレガント、ミナレットの快走・激走を前にするとき、1番人気で6着にとどまったヌーヴォレコルト(父ハーツクライ)には、ここは「仕方がない」と慰めを贈るしかない。決して凡走でも、能力を出し切れなかった結果でもない。ここまで決して崩れなかった4歳ヌーヴォレコルトは、「あくまで現時点」のことであるが、東京1600mを「1分32秒前後」で走破するスピード能力は持っていなかったのである。この時計では走れない。

 桜花賞3着で記録した1分33秒4のマイル戦での記録を、今回は「約1秒」も短縮して1分32秒5で乗り切った。それよりなにより、距離を問わずペースを問わず、自身の上がり3ハロン「33秒5」は、これまでで最高のフィニッシュである。不発だったのではなく、懸命に伸びて、ストレイトガール、カフェブリリアントに差し比べで見劣った。総合力がモノをいう東京1600mだから、オークス馬の底力で勝ち負けに持ち込めると期待されたのは、追走の楽なペースと思えたからである。まだまだ広がる可能性を多くの人びとが期待したが、ヌーヴォレコルトは高速のマイル戦向きではなかった。ベストは目ざしている宝塚記念の2200m前後だろう。

 中山1800mで、皐月賞馬ロゴタイプ、イスラボニータを封じた勝負強さと、男馬をしのぐパンチ力はみんなが認める。ただし、それは1800m1分50秒3(自身の上がり35秒6)のレースだった。おまけにロゴタイプも、イスラボニータも、必ずしもかつての力通りだったとはいえない面があったろう。ヌーヴォレコルトは、まだ4歳春。来年のヴィクトリアマイルを迎えるころには、ストレイトガールや、ケイアイエレガント、ミナレットと並ぶくらいの内容は示せるかもしれない。ただ、現時点では、ウオッカやブエナビスタ級ではなかった。付け加えるなら、ビシビシ追った今回、当日の動きが硬い印象もあった。

 期待した2番人気のディアデラマドレ(父キングカメハメハ)は、スタート一歩。といって最後方にいたのではレースにならないから、4コーナーまでに少し順位を上げつつ、上がりは「32秒8」。今回も最速だった。だが、いつもより行こうとしながらも自身の前半1000m通過は「59秒7」であり、先頭のミナレットのそれは56秒9だから、その差「2秒8」。作戦や脚質ではなく、マイル戦向きの全体スピードが足りないというしかない。スローで一団に近いような形なら、もう少し勝ち馬との差は詰まったかもしれないが、自身の最高時計を0秒5短縮して「1分32秒5」。これが精いっぱいだった。ヌーヴォレコルトと同様、ディアデラマドレもこの時計では走れない。残念ながら、ヴィクトリアマイルが1600mのG1らしい内容で決着した結果、人気の2頭は「お互い通用しなかった」、ということである。

 同じ4歳馬では、4着したレッドリヴェールは、自身「58秒7-33秒7」=1分32秒4。完敗ではあるが、これまでよりずっと早めに動けた。同じような位置にいたストレイトガールには追いすがれなかったものの、ヌーヴォレコルト、ディアデラマドレよりマイル適性が高いことを改めて示した。同様の位置取りから5着した5歳の上がり馬カフェブリリアント(父ブライアンズタイム)とともに、今回は着差以上の完敗でも、やっと日本ダービー挑戦の後遺症が残っていたかのようなここ1年のスランプを脱してきた。

 厳しい中身のあるレースが展開され、レースが破綻したわけではないのに歴史的な好配当となった。これだとオークスも、日本ダービーも検討しがいがある。盛り上がるだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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