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「僕のゴールドシップだと思った」佐々木貴啓助手にインタビュー

  • 2015年06月02日(火) 18時00分
競馬の職人

佐々木貴啓助手とアップトゥデイト



佐々木貴啓助手「調教師である父のことは尊敬しています」

 2冠馬誕生! 強い強いドゥラメンテ号、そしてダービー2勝目のM・デムーロ騎手ともに素晴らしいです。位置取りも折り合いもピタッとはまり超一流の末脚で突っ込んできました。府中の直線はこの馬の実力を最大に発揮できるコースでしたね。

 レース後のインタビューも印象的でした。「強かった! うれしかった!」と日本語で何度も繰り返し、さらに話す日本語がどんどんうまくなっている。思いがいっぱいに伝わってきて僕もやったー! と歓声を上げました。おめでとうございます!

 今回の日本ダービーは競馬史に記される好レース。さて秋は3冠狙いか? それとも凱旋門に行くのか、夢が広がりましたね。皆さんもぜひライブでドゥラメンテ号の活躍を見ていただきたいと思います。

 そして土曜日に行われた京都ハイジャンプ(JGII)では10歳のルールプロスパー号が2連覇し、2着にはなんと11歳マサライト号が入りました。10歳以上の馬が同一レースで1、2着になったのはJRA史上初だそうです。これは熟年時代突入か? ミステリーなドラマがありますます面白くなる競馬です。

 今週のゲストは中山グランドジャンプ(JGI)を制覇したアップトゥデイトが所属する佐々木厩舎の佐々木貴啓(たかひろ)助手です。

常石 アップトゥデイトの中山グランドジャンプ優勝、おめでとうございます。勝たれたときはどんな感じでしたか?

佐々木助手 ありがとうございます。えーっ僕を取材してくれるんですか? うれしいなー(笑)。そりゃーもちろんうれしかったですよ。佐々木厩舎として初めて障害の重賞レースに出走させたのがこのアップトゥデイトなんですけれど、いきなり中山グランドジャンプを勝つなんてね。厩舎にとってはもちろん、林騎手にとっても初めてのJGIだったので最高の出来ですよね。林騎手にも初GIを取ってもらうことが出来て最高です。

 坂路で追切をすると気合いが入りすぎてしまうので障害に転向するあたりからCWコースで追切をするように変えていました。中山グランドジャンプの1週前追切では6ハロン81秒5、レースの週は80秒4と2週続けて強い追切に反応し抜群の動きでした。飼い葉もよく食べるようになって馬体もしっかりしてきました。今回は、初めてのJGIレースだし、JGI馬が2頭いたのでいいレースをしてくれるとは思っていましたが、勝つとはびっくりです。今思っても「ホンマに勝ったよ!!」って感じですね。後からじわじわうれしさが来るって感じですね。

 レース当日、林騎手が「今日は、積極的に乗るから」と言っていたので、手応えと自信があったんだと思います。中山競馬場を1度経験しているのもよかったと思います。前々でレースをしていたので安心してみていましたが、内心飛越するたびにドキドキしながらも「行けー、行けー」って必死で応援していましたよ。今だから言えるんだけどね(笑)。輸送にちょっと弱いので心配をしていましたが、いつもよりダメージがなくパドックでもすごく落ち着いていました。

常石 僕にも経験がありますが、乗ってるほうは馬を追うことだけ考えているのですが、見ている方はハラハラドキドキするそうですね。馬はうまく飛越してくれますね。アップトゥデイトは、平地でも強い馬でしたよね。

佐々木助手 2012年7月デビューして(中京ダート1400m)初戦を勝って3戦目に500万下のヤマボウシ賞(阪神ダート1400m)で2勝目を挙げました。その後暮れの全日本2歳優駿(川崎ダート1600m)で3着と活躍していたんですけど、そのあと成績が伸びなかったので2014年9月に障害に転向しました。林さんに障害馬として作っていってもらいましたが、賢い馬で出来上がりが早かったですね。林さんもびっくりしていました。

 2戦目で障害未勝利を勝って、そのあとの障害オープン(京都3170m)も勝って連勝したときには障害に転向してよかったな、と思いました。中山新春ジャンプS(中山3200m)は2着と悔しい思いをしたけど、この経験がつながって中山グランドジャンプを勝つことが出来たんだと思います。5歳から脂がのってくるというか一番活躍出来る時期でもありますし、平地の脚力は強いものを持っています。障害のセンスもいいのでもっと活躍してくれると思うから今後も楽しみですよ。現在は年末の大一番に向けて放牧に出し休養しています。

 トモに弱いとこあり少し敏感な面があるし、課題はいっぱいあるので年末までにしっかり作って行きます。時間をかけてゆっくり障害馬として作ってきたからよかったと思います。でも覚えるのは早かったですよ。跳びも長く跳んでくれるので大障害には向いてますよね。年末も人気出ると思うから楽しみですね。頑張ります。

 そうそう、アップトゥデイトって面白いんですよ。パドックを回っているとあくびをするんです。昔からあくびをする馬ってよく走るといわれているそうですが本当ですかね(笑)。

競馬の職人

厩舎でのアップトゥデイト



常石 あくびの話は僕も聞いたことあります。いろんな伝説ってありますよね。アップトゥデイトも伝説になるのかな? お父さん(佐々木晶三調教師)は騎手から調教師になられていましたが、騎手になろうとは思わなかったんですか?

佐々木助手 小学校5年生から乗馬苑で乗っていましたが体が大きくなったので騎手を断念し牧場で働き始めました。その後、アイルランドにも行って勉強しました。広大でのびのびとトレーニング、というより放牧されている感じがよかったです。本来の馬たちの姿を見たような気がしましたし、馬の歴史は古くからあるので勉強することはいっぱいありました。

 日本の競馬は、時計などが厳しくて仕事っていう感じがします。きちんと管理されているのでJRAの体制はすごいと思います。僕の性格からはもう少しのびのびとできたら馬にとってはいいなと思うときもあるんですがね(笑)。そんなこと言ってたら勝てないかな? でも気持ち的にはのびのびと馬にとって心地良いことをしてあげたいですね。

常石 佐々木厩舎は今、どんな厩舎体制ですか?

佐々木助手 1頭持ち乗りをしています。担当している馬は僕に任せてくれて、父いや調教師も何も言わないでずっと見守ってくれています。林さんと相談して作ってきました。だからありがたいなって思います。勝ったことでちょっとだけ自信になりましたが、まだまだ未熟なので調教師をしっかり見ていきます。ちょっと格好いいかな(笑)。タップダンスシチーを見て競馬に興味をもったこともありますが、やはり調教師である父のことは尊敬しています。

常石 素敵ですよ。僕も現役時代先生にはお世話になりました。柔らかい雰囲気の中にジンワリと競馬の厳しさを伝えてくれるのでよく理解できました。いつもニコニコされていてやさしいですよね。間近で先生の技術を見ることが出来ていいですね。

佐々木助手 はい。興味を持って見ています。僕に任せてくれて、口出ししないっていうことは勇気がいることだと思いますから感謝しています。その分責任も重いけど、やりがいもあるから頑張ることが出来ています。

常石 最後にファンの方へメッセージをお願いします。

佐々木助手 障害レースもやってみると面白いし、見る視点がいっぱいあるのでファンの皆さんももっともっと障害レースを見てほしいですよね。障害馬の飛越の練習は騎手と助手とで横木(おうぼく)を1本跨ぐことから始めていきます。直径10cmから15cmの丸太棒を跨ぐことを繰り返し、丸太棒をクロスさせ高さを作っていき飛越していきます。徐々にレベルに応じていろいろなパターンを作っていきます。50cmくらいのグリーンウォールを飛ぶことができ、日々練習を繰り返すことで確実にうまくなってくれました。騎手が言ってましたが自信をもって愛馬と挑戦することができたといってくれました。

 つねちゃんのお兄さんのお店でちょこっとのお酒とノドグロの炙りで乾杯したいですよね。それが楽しみなんです(爆笑)。これが「きずな」なんでしょうね。応援よろしくお願いします。

常石 「きずな」か! うまくまとめてくれましたね。年末の中山大障害楽しみにしています。年末も勝って美味しいお酒とさかなで乾杯したいですね。是非乾杯しましょう。今日はありがとうございました。

***

 ずっとニコニコしていっぱい話してくれました。中山グランドジャンプでゴールまで独走している時、「僕のゴールドシップだと思った。それくらいの強さを感じました」と話してくれました。先生から任されたことが自信につながり、もっと大仕事をやってくれる調教助手に成長してくれるでしょう。これからも追っかけしていきたいと思いました。乾杯! つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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