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松田博師の“秘蔵っ子”の手綱任された菱田 鞍上決定までの裏話/吉田竜作マル秘週報

  • 2015年09月02日(水) 18時00分


松田博調教師はアラバスターに「勝ち時計(1分52秒7)は遅かったが、まだまだ詰める余地はあるはず」

 いよいよ夏開催もラストウイーク。来年2月いっぱいで定年となる松田博調教師にとっては、文字通り“最後の夏”となる。そのフィナーレを華々しいものにしてくれそうなのが、GIII札幌2歳S(5日=札幌芝1800メートル)へ挑む“秘蔵っ子”アラバスターだ。

 デビュー目前のパドックでは関節の緩さを感じさせる歩様に加え、イレ込みも目立ったのだが、ふたを開けてみれば危なげない競馬で1馬身半差の快勝。2歳女王に輝いた母レーヴディソール譲りのポテンシャルを見せつけた。

「追い切りも動いてなかったし、体つきを見てもまだまだという感じ。それでも勝てたのはいいものを持っている証し。使った後の様子を見ると、だいぶ体つきが締まってきたし、レースへの慣れもかなり見込めるはず。勝ち時計(1分52秒7)は遅かったが、評判馬が顔を揃えていたのだし、まだまだ詰める余地はあるはず」と栗東へと帰還した指揮官は頼もしげに語っていた。

 アラバスターの手綱を任されたのは菱田。鞍上決定の過程には実は裏話がある。当初は岩田が筆頭候補に挙がっていたのだが、この岩田を含め有力ジョッキーの多くは、すでに札幌2歳Sでの騎乗馬が決まっていた。松田博調教師の入厩前からの青写真は「一度使って札幌2歳Sへ」。そうなると当然「どちらも乗れる騎手が理想」となる。岩田ではそれがかなわないために、菱田に白羽の矢が立ったというわけだ。

 もちろん、菱田もその意図をくんでの騎乗だったのは言うまでもない。「絶対勝たせないといけない馬」だっただけに、勝ってもかぶとの緒を緩めるようなそぶりすら見せなかった。松田博調教師が重用するようになって芽吹いた感もある端正なマスクの若武者も、思うところがあるに違いない。きっと札幌2歳Sの結果でそれを証明してくれるのではなかろうか。

 牡馬の秘蔵っ子がアラバスターなら、栗東には牝馬の秘蔵っ子がやって来た。桜花賞馬ハープスターの半妹リュラ(父ステイゴールド、母ヒストリックスター)だ。

 先月26日に検疫厩舎に到着。付き添って北海道からやってきたのがノーザンファームで育成を担当していた日下厩舎長。ご存じの人もいるだろう。松田博厩舎の名牝ブエナビスタ、ハープスターの育成を担当した人だ。その日下厩舎長をして「ハープスターと違って自分というものを持っている」と言わしめるのだから、少しでも早く見てみたい。検疫から開放された27日午後に松田博厩舎へと駆けつけた。

 馬運車から降りてくる馬は、たいてい物見をしたり、下りのスロープでちゅうちょしたりするもの。それはデビュー前の馬に限らず、放牧帰りの馬でもそういうしぐさをするものだ。しかし未知の場所に降り立ったリュラは脇見をすることも一切なく、山口厩務員に連れられて車を降りると、そのまま厩舎周りを1周。その後、洗い場につながれて長旅の汗を流したときも、手を煩わせるようなことはなく、あたかもずっと厩舎にいる馬であるかのように振る舞っていた。

 何度も2歳馬の初入厩の場に立ち会ったが、ここまでおとなしい馬は見たことがない。しかも一般的には“うるさい”とされるステイゴールド産駒の牝馬だけに、その衝撃はより強い。日下氏の「自分を持っている」という言葉を思い出すとともに、底知れないスケールの大きさを感じた。

 札幌2歳Sに出走するアラバスター、そしてこのリュラは「2つ勝ってGIへ」と松田博調教師が意気込む逸材。名伯楽にとっての最後のGIタイトルはどちらがもたらすことになるのか。クライマックスのときは迫っている。

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