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JRA発走委員(プロローグ)『時代ごとに進化してきた“ゲート”の歴史』

  • 2015年09月07日(月) 12時00分
おじゃ馬します!

▲今月は発走業務の舞台裏に迫ります(写真:JRA)


競馬開催の重要ポイントである「ゲート」。「全馬公平かつ安全に、そして失敗は許されない」、発走業務はそんな極限の中で毎レース毎レース行われています。最近ではローブティサージュやゴールドシップの事もあり、注目度がさらに高まっているゲート問題。そこで今月は、JRA審判部の長島隆樹氏(上席発走役・獣医師)をゲストにお招き。発走業務の舞台裏はもちろん、ムチの使用やゲートボーイ導入論など具体的な議論に対する見解までお答えいただきます。まず今週はプロローグとして、「審判部の役割」と「ゲートの変遷」を教えていただきます。

(取材:赤見千尋)



現在のゲートで大事なのは“枠入”と“駐立”


赤見 発走業務というのは、私自身まだまだ知らないことが多くて、最近では天皇賞・春や宝塚記念でのこともあって、ファンの方の関心も高まってきていると思います。なので、今回はいろいろ教えていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

長島 こちらこそ、よろしくお願いします。私は、審判部に所属する「発走役」という立場でして、発走に関わることの窓口でもあります。なので、赤見さんにもファンの方にも発走業務についてより知っていただけるよう、お話させていただきたいと思います。

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▲JRA審判部の長島隆樹氏(上席発走役・獣医師)


 具体的なお話に入る前に、まずは「ゲートの歴史」について知っていただくのがいいかなと思っているのですが、その前に「審判部」について、簡単に説明させてください。

「審判部」には「審判課」「公正課」「免許課」という3つの課があります。競馬にはたくさんのルールがありますが、そういった新しいルールを決めたり周知したりするのが「審判課」の役割です。「公正課」は公正確保に関わるところで、薬物の事案なども担当しています。「免許課」はその名の通り、調教師やジョッキーに免許を発行したりする部署ですね。

赤見 長島さんの「発走役」というのはどこに入るのですか?

長島 実はこの3つの課とは別でして。「発走役」と「ハンデキャップ役」というのが、それぞれ1人おります。そして、私も含め「発走委員」は13名います。平日は、私は本部勤務、あとの12名は美浦に7名、栗東に5名常駐しています。トレセンで発走練習や審査の立ち会い、各馬の発走状況の把握、厩舎関係者への助言や指導などを行っています。

 ところで、一言で「ゲート」と言っても、その捉え方やポイントはそれぞれ違うと思います。騎手からみたゲートというのは、スタートに際して他の馬に遅れないこと。一歩でも早くスタートして、少しでも有利なポジションを得ることが、勝利への近道であるという、そういうところだと思います。

 お客様、ファンの方にとっては、全馬が一斉にスタートするというのが一番大事だと思います。そして、我々発走委員からすると、全ての馬が公平に、ファンの方に対しては公正に、そして安全に怪我がないように。それが円滑な競馬につながっていきますのでね。

赤見 それぞれの立場によって、少しずつ見方が違うという。

長島 ゲートに携わる人それぞれの思いがあって、それが微妙に違っているんだと思うんですね。次は、発馬機の歴史を知っていただきたいと思います。現在の形に至るまでに、何度も改良されてきているんです。

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▲バリヤー式発馬機(提供:JRA)


 これが明治から昭和30年代まで使われていた「バリヤー式発馬機」と言うものです。ワイヤー線のところに馬が集まって、これをバーンッと跳ね上げることでスタートを切っていました。

 左に立っているのがスターターですね。今のゲートって、スターターが握力計のようなものを握ってスタートを開けているのですが、実はこのバリヤー式の時代も同じ形で、その名残がずっとあるんですよね。

赤見 あっ、そうだったんですか。スイッチの方が楽なんじゃないのかなと思っていたんですけど、その名残なんですね。

長島 海外ですと押しボタンで開けたりするんですけど、こういう時代からの名残があるんですよね。この時はまだ、スイッチがワイヤーに繋がっていたので、それなりの握力が必要だったんです。また、このバリヤー式は、スタートでの騎手の技術が非常に大きかったんですね。ワイヤーが跳ね上がるのと同時にいかに速くダッシュさせるかが一番大事だったんです。

 ちなみにこのバリヤー式は、今でも海外では使われることがあるんですよ。グランドナショナルですとかの、障害競走ですね。頭数が多い競走で、いまだに使われることがあります。ただ、全馬が態勢を整えるのに時間がかかりますし、大きな出遅れがあって騒ぎになったりしたり、そういった欠点があったわけですね。この欠点を解決して、より公平なスタートができるようにと開発されたのが、「ウッド式」と呼ばれるものです。

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▲ウッド式(提供:JRA)


 4つ1組になっていて、並べて使っていました。これは昭和40年代まで使われていて、今のゲートの原型となったものです。ただ、構造が非常に簡単なことが欠点でした。この画像では見えにくいんですが、足元に接地パイプがあるんです。それがないと歪んじゃうのでついているのですが、そのパイプに躓く馬もいたんです。

 なので、このパイプを除去すること、そして開ける装置、電気作動マグネットと動力スプリングでの一斉解放前扉機構という、今の発馬機に使われてるものと同じなんですけど、そういったところにも改良を加える必要がありました。それで出来たのが、昭和50年代から使われてる「48型発馬機」です。

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▲48型発馬機(提供:JRA)


赤見 だいぶ今のゲートに近づきましたね。

長島 ええ。これは日本で開発されたものです。さらに、プロテクターで安全性を高め、常に正常かつ安定した作動ができるようにして信頼性にもつながるようにと、そういうことを重視して改良を重ねてきたものが、現在使われている「30型発馬機」なんです。

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▲30型発馬機(提供:JRA)


 現在のゲートで大事なことは「枠入」と「駐立」です。どんなに血統が良くても、どんなに脚が速くても、枠入りができなければ当然出走ができませんし、駐立ができなければ、人馬ともに大怪我をする可能性があり、出遅れの原因にもなります。そうなると、能力を十分に発揮することも出来なくなります。

 このような悪癖に起因する発走時のトラブルというのは、他の馬にも悪い影響があるということもありますからね。なので「枠入」と「駐立」、このふたつは非常に重要になってきています。説明が長くなりましたが、ここまでのお話を知っていただいた上で、具体的なお話をさせていただきたいと思います。(次回へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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