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英国の厩舎で行われているイベント「オープンデイ」

  • 2015年09月23日(水) 12時00分


現役の競走馬と一般ファンとの距離が近い催し

 英国の厩舎は時に、「オープンデイ」という催しを行う。普段は、関係者以外は立ち入ることの出来ない厩舎を、1日限定でファンに開放。調教や施設を見てもらうだけでなく、厩舎のスターホースが展示されたりする、ファンにとっては非常に楽しいイベントである。

 9月19日と20日の両日にわたってニューマーケットで開催された、「ニューマーケット・オープン・ウィークエンド」は、その「オープンデイ」の、おそらくは英国で最も規模が大きいものであろう。競馬発祥の地の、そのまま競馬の中心地であるニューマーケットが街ぐるみで取り組む、関係者とファンの間にある垣根を取り払おうという催しだ。

 イベントは、19日(土曜日)9時30分からの調教見学からスタート。有名なウォーレン・ヒルを駆け上がる馬たちの調教を、間近で、関係者の解説つきで見られるのだから、ファンにとってはこれだけでも参加する価値がある。

 この日は、ブリティッシュ・レーシング・スクール、ニューマーケット・エクワイン・ホスピタル、ナショナル・スタッド、せり会社のタタソールズ、統括団体の1つであるジョッキークラブ、ナショナル・ホースレーシング・ミュージアムなどが施設を開放し、それぞれの活動が訪れたファンに紹介された。中でも、ファンにとってまたとない機会となったのが、ジョッキークラブ・ルームのツアーだ。通常はクラブメンバーのみが入ることを許されるいくつかの部屋には、価値ある絵画や彫刻が備わっており、ファンにとっては文化としての競馬を存分に楽しむ貴重な時間となった。

 土曜日午後には、お馴染みのニューマーケット・ロウリーマイルコースで競馬開催が行われたが、ここにも「オープン・ウィークエンド」ならではいくつかの趣向が用意されていた。

 第1競走発走前の午後1時には、ゴールデンホーン、ジャックホブス、ストームザスターズという、今年の英国ダービー上位3頭がファンの前をパレード。観客は早くも大喜びである。

 そして今年の「オープン・ウィークエンド」最大の呼び物と言われていたのが、この日の場内実況だった。マイクを握ってレースを実況したのは、第1競走がウィリアム・ハガス、第2競走がチャーリー・フェロウズ、第3競走がルーシー・ワダム、第4競走がヒューゴ・パーマー、第5競走がジョン・ゴスデン、第6競走がマイケル・スタウト、第7競走がデヴィッド・シムコックだったのだ。すなわち、現役バリバリの調教師たちが、レース実況に挑んだのである。

 映像とともにブックメーカー各社のショップに配信された実況は、プロのアナウンサーがつけたため、調教師の実況を楽しめたのは場内のファンだけだったが、いつも通り馬券を発売しているレースの実況を、喋ることにかけては素人に任せてしまうあたりに、主催者の懐の深さを感じた。

 またこの日の競馬場内では、これも今年が初めての試みだった「フード&ドリンク・フェスティヴァル」が催され、ニューマーケット近在のレストランや食材店の出店が、30店舗ほど立ち並んだ。

 そして、20日(日曜日)の午前中に催されたのが、イベントのもともとの主旨である、厩舎の開放である。今年は、トップステーブルのエド・ダンロップ、ルーカ・クマーニ、ロジャー・ヴァリアン、マルコ・ボッティ、サイード・ビン・スルール、チャーリー・アップルビーをはじめ、ニューマーケットのあちこちに点在する27の厩舎が門戸を開放。ファンは施設の見学やスターホースたちとの対面を果たした。

 そしてこの日も、ロスデイル・エクワイン・ホスポタル、ナショナル・スタッド、ジョッキークラブ、ナショナル・ホースレーシング・ミュージアムなどが施設を開放。

 競馬開催はなかったものの、ニューマーケット競馬場における「フード&ドリンク・フェスティヴァル」は引き続き行われ、この日はフードライターのトム・パーカー・ボウルズや騎手のフランキー・デトーリらが審査員となって、ニューマーケットの名物となっているソーセージの品評会が行われた。更に、「馬と話せる男」ゲイリー・ウィザフォードによるデモンストレーション、競馬関係者による障害飛越競技なども催されている。

 この他、ジョッキークラブ・ルームの宿泊券やお食事券、ブリティッシュ・レーシング・スクールの体験入学券などをアイテムとしたネットオークションも開催された。

 イベントの参加費用は、1日13ポンド(約2420円)で、購入したチケットがないと、厩舎などへの立ち入りが出来ないシステムとなっている。少々お高いようにも見えるが、例えば通常は入場料6.5ポンドのナショナル・ホースレーシング・ミュージアムが、オープン・ウィークエンドチケットがあれば入場は無料だったから、それほど割高なものではない。

 そして、入場料収入やネットオークションの売り上げは、地元の福祉に還元されることになっている。

 馬が主役のイベントは日本でも、例えば毎年9月23日に馬事公苑で行われる「愛馬の日」、栗東トレセンや宮崎育成場が催されている「馬に親しむ日」、あるいは、クラブ法人各社が催す牧場ツアーなど、各所で行われてはいるが、ここまでスケールが大きく、そしてここまで現役の競走馬と一般ファンとの距離が近い催しは、残念ながら今の日本には見当たらない。人と馬の安全確保、防疫、防犯など、解決しなくてはならないファクターは多々ありそうだが、馬とファンとの距離が遠いといわれる日本で、類似のイベントが実現して欲しいものである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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