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第34回綾競馬・その2

  • 2015年11月11日(水) 18時00分
綾競馬

綾競馬第5レースのスタンド前


地元の人々にとっては目の前をサラブレッドが疾走して行くのを間近で見られる数少ない機会

 先週に続いて綾競馬について書く。今年で34回目を迎える綾競馬は、綾町が昭和57年(1982年)に町制50周年を記念して始まった草競馬で、以来、一度も休むことなく(雨天による順延はあったらしいが)毎年11月最初の日曜日に開催されているものである。

 今年は全12レースが組まれ第1〜5レースが軽種予選、第6〜8レースがポニー、第9〜12レースが、軽種の決勝となる。

 前回触れたように、全26頁もある立派な体裁のプログラムを300円で販売しており、レースごとに馬柱が掲載されている。観客はそれを頼りに、地元特産品の中に入っている「お楽しみ券」(つまり馬券である)の番号を見ながら、レースを観戦するのである。

 軽種は予選、決勝ともに5頭立て。ポニーは8頭立てとなっており、ポニーはともかくも、軽種の5頭はやや少ない気もするが、コース幅が狭く、内外の埒沿いが外側に傾斜のある形状で、中央のダート部分が推定7〜8メートル程度しかないことから、危険防止のために5頭立てにしているということらしい。

 軽種の場合は、距離が予選および決勝レース(第9、第10)までが1200m、第11レース(菊花賞)と12レース(綾ダービー)の2レースのみが1600mとなっている。またポニー3レースはいずれも600mである。

 ここのスタートはちょっと変わっており、出走各馬は3〜4コーナーあたりに集合して、そこからそれぞれ軽くキャンターで助走をつけて行き、4コーナーを回ったあたりにいるスターターが旗を振って発走の合図をした時にはもうかなりスピードが乗っている状態なのである。1周1100mのコースということなので実際は1200mといっても、もう少し余計に走ることになる。スピードはかなり速い。階段式になったスタンドには、ぎっしりと観客が詰めかけており、その他にも、内外の埒沿いに多くの人々が敷物など広げてほぼ隙間なく並んで観戦している。地元の人々にとっては、目の前をサラブレッド(軽種は全馬サラブレッドになっていた)が疾走して行くのを間近で見られる数少ない機会であり、加えて馬券も楽しめることから、毎年多くの人々が集まってきて終日過ごすらしい。因みに今年は、主催者発表で1万8千人の人出であったとのこと。

綾競馬

スタンドも内馬場も多くの人が集まっていた



 予選5レースは、全馬タイムを計測しており、1位〜5位が12レースの綾ダービーへ、6位〜10位が11レースの菊花賞へ、11位〜15位が10レースの綾川賞へ、それぞれ駒を進める。なので、予選ごとの着順はあてにならない。

 誘導馬に導かれて出走各馬がコースに入って来ると、すぐにそれぞれ返し馬を始める。一度スタンドの前を通り過ぎ、ゴール付近からまた逆戻りしてスタート位置まで移動する。レースの所要時間そのものは短いが、ゴールした各馬は再び厩舎のある4コーナーまでスタンド前を戻ることになるので、観客からすると、何度となく目の前を馬が通過するわけで、見ていて飽きない。しかも、馬との距離が近く、文字通り地響きをたてて馬が眼前を走るのだから、こたえられない。

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綾競馬第6レース「馬事公苑賞」



 レース間隔は20分刻みである。10時に第1レースがスタートし、以後、10時20分、40分、11時、というように午前中は予定通りにレースが進んだ。

 実況は、地元の宮崎放送に開局当初から勤務しアナウンサーとして活躍した村上正義さん。落ち着いた語り口で淡々とした実況を全レース1人でこなしていた。後で伺ったところでは、御年80歳になるという。34回の綾競馬の歴史のうち、27回〜28回は実況を担当している方で、「そろそろ後継者を、とお願いしているのですが、この時期の宮崎は土日になると各スポーツ行事も盛んに行われていて、アナウンサーが足りないんですよ」と笑う。おそらく、中央地方はもちろんのこと、各地の草競馬を見渡しても現役最高齢の実況アナウンサーであろう。

 軽種5レースの予選が終わり、第6レース「馬事公苑賞」(ポニー、8頭立て)が11時40分に発走し、それから昼休みとなった。

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綾競馬第7レース「錦原(にしきばる)賞」を勝ったスマイル号



 昼休みにはJRA宮崎育成牧場から2頭のミニチュアホースがやってきて、ジャンプショーを披露したり、子供たちとかけっこをしたりというコーナーもあった。競馬にこそ出ていないものの、宮崎育成牧場は綾競馬の協賛団体として名前を連ねており、例えば、コースに補充する砂を提供したり、準メインの11レース菊花賞には場長杯も出しており、関わりがひじょうに深い。また場内の一角にはブースを出して、競馬のPRに努めてもいる。宮崎育成牧場に隣接するウインズ宮崎は南九州地方で唯一の中央場外発売施設であり、存在意義が大きい。

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ミニチュアホースのジャンプショー


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場長杯を贈る宮崎育成牧場長の草野広実氏



 この日は、朝方にはうす曇りであったが、その後、徐々に雲量が増してきて、予報よりも少し早めの午後から小雨がぱらつき出した。北海道から行った私などは寒くもなく暑くもなくちょうど良い気候に感じたが、地元の人にとっては「寒い日」だという。雨が降り出して、あちこちに傘を広げる人の姿が増え始めた。そのため、進行がいく分早まり、最終12レースの表彰式の後、閉会式は予定より20分前倒しで午後3時に行われた。

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綾ダービーのゴール前では勝利を確信した騎手がガッツポーズ


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綾ダービーの口取り風景


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綾ダービーの表彰式



 綾競馬には軽種30頭、ポニー24頭が出走した。軽種の6割とポニーの大部分が鹿児島からの遠征組である。余談だが、鹿児島ではいちき串木野市にて毎年4月に「串木野浜競馬」という草競馬が開催されるらしい。南九州ではこの綾とともに2大草競馬とされており、そちらもにぎやかだという。

 とにかく、人口7300人の町に、驚くほど大勢の人々が集まってくることに驚かされた。ぜひ一度(といっても簡単な話ではないが)ご覧頂きたい草競馬である。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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