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伏兵馬の心持ち

  • 2015年11月19日(木) 12時00分


秋に入って重賞初制覇の馬に共通する点

 こんな警世の一言がある。「一瞬、インスピレーションがひらめいて万事解決。この言葉をうっかり信用して、多くの前途有望な人間が破滅している。インスピレーションに確実に到達する道は、バイブレーション(準備)が必要である。一心に励まなかったために、才能も度胸もある若者が失敗する例を私は何度も見ている」と。

 これは英国の政治家、ロイド・ジョージの言葉だが、競馬のひらめきはこれとは別だ。だから気楽につき合えるのだが、なかなか仕留めるのは難しい。物かげに半身をかくす伏兵馬をどうやって見つけ出すか。競馬の醍醐味はそこにあるのだが、大概は終了した後に気がつくのだ。だが、そうした伏兵馬には、立場を変えて見れば、至極当然な勝つべき根拠が立派に存在しているのだ。

 秋に入って重賞初制覇の馬に共通する点、それは、エリザベス女王杯を勝ったマリアライトに見ることが出来る。体質が弱く、4歳秋でキャリアは13戦。カイバをあまり食べないため410キロ台だったため無理は出来なかった。馬の素質を考慮して成長させることに専念し、とにかく無理はさせない、そのことを念頭にレースを使っては休養するをくり返していた。体調に合ったローテーションを取る。これが実ってきたのが今年の春。1000万、1600万特別を連勝して、マーメイドSで2着、いよいよ本格化に向かってきていたのだった。素質開花と言ってしまえば簡単だが、関わる人たちの熱い想いが叶う時を迎えたのだ。

 6番人気をどう考えるかは別だが、蛯名騎手には、強要されることのない楽しさがあったのではないか。こういう時には、打つ手はうまくいく。中団の外につけて脚をため、後ろにいるヌーヴォレコルトを意識し、これより先に自分から動いていって最後はギリギリしのいだのだった。よく頑張ってくれたと会心の勝利を振り返る顔には、十分に戦いを満喫できた満足感がうかがえ、強要されることのない楽しさをレースで味わった伏兵馬の心持ちに近づけた気がした。

 なるべく気がつかれずに、秘かに大逆転を狙う。物かげに半身をかくす伏兵馬のこうした心持ちを研究して、インスピレーションにつなげていきたいと、またしても思ったのだった。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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