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BTC周辺の育成牧場事情

  • 2015年11月25日(水) 18時00分
BTC調教風景

BTCでの調教風景(写真はイメージです)


1歳馬の集まるこの時期には在厩率が一気に高まるが…



 浦河にある軽種馬育成調教センターの周辺には、現在950ほどの馬房があるという。これらは民間育成牧場によって管理されており、1歳馬の集まるこの時期には在厩率が一気に高まる。今年はとりわけ多くの頭数が集まっているとも言われる。

 周辺にある民間育成牧場というのは、「騎乗したまま調教場に通える範囲にある育成牧場」という意味だが、もちろん、それ以外にも町内あるいは隣接する他町の育成牧場から馬運車で通ってくる人馬もいるので、これから来春にかけてはかなり調教場が混み合うことになりそうだ。とりわけ、冬期を迎えた今の時期から、外の馬場が凍結により使用できなくなるため、調教は直線ウッド1000m、600mダート、及び坂路の3コースに限られる。育成馬はこのいずれかで調教を行うことになり、時間帯によっては多くの人馬がひしめき合う事態にもなりかねない。

 はっきりとしたデータがあるわけではないものの、「明らかに昨年より頭数が増えていると感じる」との声を多く耳にする。ちなみにBTC敷地内に108ある馬房も現在ほぼ埋まっている状況らしい。周辺にある育成牧場の馬房数だけでは足りないので、BTC内厩を借りて、溢れた分を一時的にそこに収容するのである。

 ただ馬は集まっていても、騎乗者は依然として不足気味だ。各牧場とも乗り役の確保にはかなり頭を痛めており、「できれば日本人のしっかりした若者が何人か欲しい」と声を揃える。しかし、それが思うに任せないようで、地元ハローワークには、周辺にある民間育成牧場の多くから常に求人が出ているものの、あまり反応が芳しくないともいう。

 ある育成牧場の経営者は「もちろんしっかりした若者がベストですが、そういう人材は向上心がある分、意欲的だし、他の牧場から好待遇で引き抜かれてしまったりすることがあるのと、JRAの競馬学校に合格して厩務員になってしまう例もあります。使える人材ほど定着してもらうのが難しいとも言えます」と言いながら「だいいち、今勤務している育成牧場でもそういう人材は絶対手放さないようにしますからね」と苦笑いを浮かべる。また逆に、「独立心が旺盛な若者ほど、自分で牧場を開業したがる」ともいう。

 育成牧場の場合、極端にいえば、馬を数頭預けてくれる馬主(調教師)がいて、どこかに馬房さえ借りられたら、即日で開業が可能である。生産牧場と決定的に違うのがそこで、技術と人脈さえあれば、すぐに始められるのが育成牧場だ。現在、経営者として育成牧場を構える多くの人々も、スタートは1人もしくは2人で数頭の育成馬を預かるところから始めた例が多く、徐々に人と馬を増やして牧場を拡大して行ったのである。

 もちろん、牧場を軌道に乗せるまでが大変で、馬が思ったほど集まらなければ、他の育成牧場に「臨時の騎乗要員」としてアルバイトに出かけたり、他の育成牧場から格安で“下請け”として馬を預かったりして凌いできた例もある。むしろ、人の数と馬の数がほどよくバランスの取れている牧場を挙げて行く方が話は早いかも知れぬ。

 もうひとつ、育成牧場にとって頭の痛い問題が、年々早まる転厩時期のこと。新馬戦の開始時期が早まったことに伴い、BTC周辺でも、1頭当たりの在厩期間が短くなりつつあるという。早ければ、年明け2月あたりから、徐々に本州(東西トレセン近郊)の育成牧場に移動が始まり、3月〜4月にかけて最初のピークが訪れる。むろん6月から始まる2歳戦を視野に入れてのことだ。基礎部分は北海道で、仕上げは本州に移して、という流れになりつつあるのである。

BTC調教風景

BTC坂路での調教風景(写真はイメージです)



 10月か11月に預かった1歳馬が、早ければわずか3〜4ヶ月程度手がけたところで移動となる。初期馴致のもっともデリケートで難しい部分を任せられ、調教が軌道に乗ってきた頃に本州方面へ転厩する、という流れだが、この傾向は簡単に変えられないだろうと判断した複数の育成牧場が、トレセン近郊に新たに分場(拠点)を設けようという動きも出てきている。言うまでもなく、大手(社台グループやBRFなど)はとうの昔にそうした体制を確立しているし、BTC周辺の育成牧場の中にもすでに本州進出を果たしている例がいくつかあるのだが、さらに新規の進出を計画している牧場も複数あると聞く。

 しかし、依然として、騎乗者確保の問題が常について回る。現在、BTCに登録されている外国人騎乗者は50人で、年々漸減傾向ともいわれる。騎乗者不足を外国人で補おうとしても、現実問題としてなかなか思うに任せない実態が垣間見えてくる。JBBA(日本軽種馬協会)とBTCがそれぞれ1年間をかけて騎乗技術者の養成に取り組んでいるが、これとて合わせて最大32〜33人程度であり、需要の多さに応えきれていないのが実情だ。人手不足の問題は根が深く、一朝一夕に解決できることではないだけに、何とも悩ましい。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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