スマートフォン版へ

乗馬療育シンポジウム

  • 2015年12月02日(水) 18時00分
乗馬療育シンポジウム

乗馬療育シンポジウムの会場風景


町民の関心の高さが窺え、ひじょうに充実した2時間であった

 今週月曜日(11月30日)、浦河町総合文化会館にて、乗馬療育シンポジウムという催事が開催された。主催はうらかわ乗馬療育ネットワーク。それに浦河町及び浦河町教育委員会、日本中央競馬会、日高振興局が後援団体として名を連ねる。

 そもそも「乗馬療育」とは何か? を記しておく。乗馬療育とは、「楽しみながら馬に乗る、馬と触れ合うことなどを通じて、心身に障がいを持つ方などの能力向上と社会参加を促すことを目的とする」とある。

 このシンポジウムを主催する、うらかわ乗馬療育ネットワークは、「乗馬療育の普及、発展のために、乗馬療育の実施団体、利用者、医療機関、行政、福祉従事者などのメンバーによって設立された団体」で、当初は町内の社会福祉法人で実施されてきた乗馬療育を、今後はより広範囲に拡大し、浦河のみならず都市部に住む方々にもぜひ体験して頂きたいというのがコンセプトだという。

 6時半に開会。シンポジウムは、まずホースコミュニティ(一般財団法人)に所属する江刺尚美さんと小島愛子さんによる「乗馬療育ってなあに?」というプログラムからスタートした。馬を使った療育とはいっても、具体的にどんなことをするのか、ということが分かりやすく説明されて行く。江刺さんは乗馬療育インストラクターで社会福祉士、小島さんは理学療法士の資格をそれぞれ有しており、お二人とも乗馬療育に関してはキャリアを積んだ方々である。

 続いて、北海道科学大学教授・田中敏明教授と北海道立総合研究機構・中島康博氏による「うらかわ町での乗馬療育の取り組み」について、レクチャーが行なわれた。このお二方は、馬の専門家ではないが、障がいのある方や高齢者などが乗馬を行なう際の鞍の製作などにアドバイスしたり、乗馬療育の効果を科学的に検証する研究などを行なっているという。

 乗馬をすることにより、1.バランスや姿勢が良くなる、体が柔軟になる効果(体)、2.うつ状態の改善、自信や意欲の向上(心)、3.社会との関わりや地域とのつながりの強化(社会)という3つの効果がすでに科学的に証明されており、その実例がさまざまな写真や図表などで示された。

 これらを踏まえ、最後に登場したのが、日本中央競馬会の角居勝彦調教師である。前記ホースコミュニティの代表理事でもある角居師は、2013年に同財団を設立し、「馬を通じた癒しやふれあいをテーマにしたイベント」である「サンクスホースデイズ」の開催支援や、引退競走馬の福祉、医療への転用の可能性を模索してきた人だ。この浦河でも、かつて2012年8月に町の乗馬公園を会場にして「サンクスホースデイズ」を実施しており、今年は去る9月に金沢競馬場でも開催したばかりである。「馬産地だからできること」というテーマで自身の思いを語った。

角居勝彦調教師

「馬産地だからできること」というテーマで自身の思いを語った角居勝彦調教師



「馬と関わるようになって、競走馬の現役引退後の行く末を考えるようになりました。競走で大成できなくても、馬にはまた違った活かし方があるのではないか、という思いから、乗馬療育に関心を持ちました。ここ浦河には、馬に関わる人々が数多く暮らしていますし、障がい、ハンデを持つ方々にも理解のある町だと考えています。こういうところから乗馬療育のノウハウを確立し、日本だけではなく世界に向けて情報発信して行けたら、きっと地域活性化にもつながると思います」という趣旨であった。

 乗馬療育というのは一般的には耳慣れない言葉だが、角居師は「走れなくなった馬、活躍できなかった馬でも十分に輝く可能性があるのが乗馬療育。多くの人々が馬によって癒され、救われること、そのことにより馬たちに新たな生きる道を開拓できる。そんな社会を作りたい」という。考えてみれば、一般の方々は競馬場以外で馬を目にする機会はほぼない。まして触れ合うとなると、乗馬クラブにでも所属しない限り難しい。

 さらに、ハンデを抱えた方々にとっては、馬はなおさら遠い存在である。一方で、競馬には中央も地方も数多くの馬が在籍し日々レースを行なっている。役目を終えた競走馬たちが療育に供される活かされ方は、とても意義のあることのように感じる。

 ただそれには、マンパワーや資金も必要だ。世界に冠たる競馬大国になった我が国だが、今後は競馬以外のこうした活動に、どのように取り組み、盛り上げて行けるかが課題になりそうだ。

 会場には約170名もの人々が集まり、熱心にシンポジウムを見守っていた。最後には上記5名の方々による座談会、そして質疑応答などもあり、町民の関心の高さが窺え、ひじょうに充実した2時間であった。

座談会

最後に行われた座談会の風景



 なお、うらかわ乗馬療育ネットワーク事務局は、浦河町乗馬公園内にある。057-0002浦河町西幌別327−9。URLはhttp://urakawa-joba.netとなっている。

 今後の活動に注目して行きたいと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング