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【特別寄稿】鈴木淑子「ゴールドシップとなんだか重なる、思い出のオグリキャップ」

  • 2015年12月25日(金) 14時00分
鈴木淑子

ゴールドシップが引退をむかえる今年の有馬記念。長く競馬と寄り添ってきた鈴木淑子が思い出を重ねるのは、同じ芦毛のオグリキャップ。ファンに愛された個性派名馬2頭について、その思いを語ってもらった。
構成:中山靖大

とにかく「キュート」だったオグリキャップ



 今年の有馬記念。大きなみどころのひとつが、ゴールドシップのラストランですよね。思い出すのは、今から25年前の中山競馬場……。
この書き出しで競馬好きの皆さんは、私が何を書こうかわかったのではないでしょうか。そう、多くのファンを含めた競馬に関わる全ての人にとって思い出深い名馬・オグリキャップと、ゴールドシップが、なんだか重なるのです。

 この2頭の共通点と言えばやはりその溢れる個性と、もちろん芦毛ということだと思います。皆さんご存知のように、芦毛馬は年々白さを増すことが特徴。オグリキャップも、4歳春(現表記3歳)に初めて見た時と比べて、引退前はかなり白くなっていたことを、まるで昨日のことのように覚えています。ただ、それにも増して白くなったなと思わせるのがゴールドシップ。ジャパンカップのとき横山典騎手は、「白くて随分格好良くなったね」とおっしゃっていました。

 1人のミーハーな競馬ファンである私が話すのとは違った、名ジョッキーの口から出た“カッコイイ”。きっと、それは外見の格好良さだけではなく、競走馬として洗練されたフォルム、そして体全体から発するオーラに対して出た言葉なのではないかと感じました。多くの人々を驚かせ、あるいはあきれさせたゴールドシップ。

 そしてオグリキャップといえば地方から中央へとやってきて、その強さに皆が舌を巻き、魅了されました。厳しいローテーションで戦い続ける姿は、根性の塊のような印象をファンに与えました。でもオグリキャップは、大流行したあのぬいぐるみそのものの愛嬌のある顔、のほほんとした性格でもまたファンの心をつかみました。

オグリキャップ

▼08年11月、久しぶりに東京競馬場に戻ってきたオグリキャップを多くのファンがむかえた



 とにかくオグリキャップは、厩舎では食べることと寝ることにしか興味はないようでした。飼い葉桶に入れた餌を完食するまで、桶から顔を上げることはありません。そして、餌がなくなると寝るのです。
 当時のオグリキャップを象徴する、こんなエピソードがあります。オグリを担当された厩務員の池江敏郎さん。この方は、沢山訪ねてくるファンに対して、ブラシに付いた毛をプレゼントしたりするとても優しい方でした。友人の女性記者が取材で厩舎を訪ね、許可をいただきオグリと一緒に写真を撮ってもらったときのこと。馬房から顔を出したオグリは、友人の肩に顔をのせるとそのまま眠ってしまったそうなのです。
 もう、たまらなくかわいいですよね。優しい池江さんのもと、厩舎ではすっかりリラックスしていたのです。だから、溜めこんだ体力を一気にレースにぶつけることができたのではないでしょうか。とにかくオグリキャップはキュートな日本一のアイドルだったのです。

たとえやらかしても「憎めない」ゴールドシップ



ゴールドシップ

▼苦手といわれた京都でも勝利を飾った15年天皇賞(春)。これでG1・6勝目


 そんなオグリキャップと、また違った“憎めなさ”を持ち合わせているのがゴールドシップではないでしょうか。今年6月に行われた宝塚記念。私はスタンドの様子を一望できる1コーナー付近のウィナーズサークルからレースを見ていました。あの大きな出遅れとなったスタート直後の一瞬の静けさ、そしてため息のような悲鳴……。長く競馬を見させて頂いていますが、経験したことがない奇妙な空気がレース途中の競馬場に流れていました。
 ただ「残念だったね」で終わらせることが出来ないのが競馬。スタートして1秒とたたないうちに、一番人気に託された夢が散ってしまったのです。それでも「ゴールドシップだから仕方ない」「ゴールドシップ、またやってくれたな」とファンに言わせるのが、本当に凄いことだと思います。なかなか、こんな個性派に出会えることはありません。

 そんな馬券の勝ち負けを競馬史上最も超越した時間だったのが、1990年12月23日有馬記念だと思います。中山競馬場に17万人。私が競馬を見るようになって7年目。とにかくあの時代の競馬人気の高まりは、物凄いものがありました。
 たとえば雨の日、放送席から見える傘の色が除々にカラフルに変わっていくことや、黄色い声援。女性ファンが増えていることを物語っていました。その立役者がオグリキャップ。あの日も多くの女性が17万人に含まれていました。不調が続き、もうオグリは終わったという声もあがるなか、迎えたラストラン。オグリは武豊騎手を背にみごとに復活。「オグリコール」が響き渡り、日本中を興奮と感動でつつみました。
 そして女性といえば冬の中山競馬場。ただでさえ当時の競馬場は女性トイレが少なく、多くの女性はトイレをがまんしたり、並んでいてレースに間に合うか焦ったり大変だったそうです。それで競馬場に女性トイレが増えることになりました。そんな功績もオグリキャップの凄さです。

新たな芦毛伝説の誕生を期待!



 ゴールドシップはラストランで、どんなレースを見せてくれるのでしょうか。頭の良い馬ですから、きっとこれが最後だってゴールドシップ自身も気づいているでしょう。

「わかったよ。次は最後だから、ちゃんと走るよ」。ジャパンカップのゴール前、馬具を取って自由に走ることができたゴールドシップからそんな声が、私には聞こえました(笑)。願わくば、オグリキャップのような復活劇で、新たな芦毛伝説の誕生を期待します。

 今年で60回目を迎える有馬記念。そのうち32回、生で見させてもらいました。たくさんのドラマがありました。10月末に発行された『有馬記念全軌跡 60TH MEMORIAL』には全レースが収められています。ぜひご覧になっていただきたいと思います。

 蛇足ながら私はオグリキャップのとき本命を付けていました。それは385人、印を公開している中でたった4人しかいなかったそうです。そして3年後。伝説となったトウカイテイオーの有馬記念でも、私は本命を打っていました。どちらも、ある先輩から言われました。「10年、自慢していいよ」。私のプチ自慢です。

 好きな馬を心から応援するドリームレース、有馬記念。みなさまの夢が、私の夢が叶いますように。みなさまの夢に幸多かれと祈ります。Good Luck!

鈴木淑子

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