スマートフォン版へ

フォーヒーンの戦線離脱で混戦模様となったチャンピオンハードル展望

  • 2016年03月02日(水) 12時00分


フォーヒーンに変わって1番人気に推されているのは同厩のアニーパワー

 ヨーロッパにおける障害シーズンのハイライト「チェルトナム・フェスティヴァル(3月15日〜18日)」の開催まで、2週間を切った。このコラムでは今週と来週の2週にわたって、主要競走の展望をお届けしたい。

 まずは、オープニングデイの15日のメイン競走として行われる、ハードル2マイル路線の最高峰、G1チャンピオンハードル(芝16F87y、障害数8)。

「フォーヒーン戦線離脱」という衝撃のニュースがアイルランドから伝わってきたのが、2月17日のことだった。

 前年に続くこのレース連覇を狙っていたフォーヒーン(セン8、父ジャーマニー)。今季初戦となったG1モーギアナハードル(芝16F)で同厩のニコルスキャニオン(セン6、父オーソライズド)に敗れてデビューからの連勝が12で止まった時もおおいに驚かされたが、その後は、G1クリスマスハードル(芝16F)、G1愛チャンピオンハードル(芝16F)をこの馬らしい競馬で快勝。連覇へ向けて盤石の体勢を整えているかに見えたのだが、2月17日の調教後に管理するW・マリンズ調教師から「繋靭帯を傷めたようだ。重症ではないが、今季の出走は無理」との発表があり、休養に入ることになったものだ、

 ブックメーカー各社が軒並み2倍を切るオッズを掲げていた大本命馬の戦線離脱で、にわかに混戦模様となった中、現段階でオッズ2.5〜2.75倍の1番人気に推されているのは、フォーヒーンが健在であったなら絶対にここには出なかったはずの、フォーヒーンと同厩のアニーパワー(牝8、父シロッコ)である。

 12年8月に、J・ボルジャー厩舎の所属馬としてデビューし、ナショナルハントフラットを2連勝した後に、W・マリンズ厩舎に転厩。その後も同馬の連勝は続き、13年3月にG1メアズノーヴィスハードルチャンピオンシップファイナル(芝20F)でG1初制覇を果たした段階で、連勝記録は7まで延伸。13/14年シーズンも、牡馬の精鋭を相手に5馬身差で快勝したG2アスコットハードル(芝19F58y)を含めて開幕から3連勝したが、シーズン4戦目となったチェルトナム・フェスティヴァルのG1ワールドハードル(芝23F213y)で2着に敗れてデビューからの連勝が10でストップ。続くパンチェスタウンのG1メアズチャンピオンハードル(芝18F)を快勝してシーズンを終えた。

 脚部不安のため14/15年シーズンのスタートはチェルトナム・フェスティヴァルまでずれ込み、ぶっつけ本番となったのが昨年のG1メアズハードル(芝19F200y)だった。ほぼ10か月振りの出走だったにも関わらず、1.5倍の1番人気に支持したファンの期待に応えて、最後から2つ目の障害を飛越した段階では後続に4馬身差をつけ先頭に立っていたが、なんと最終障害で飛越に失敗して、デビュー以来初めて落馬の憂き目に遭うことになった。

 その後、パンチェスタウンのG1メアズチャンピオンハードルを前年に続いて連覇してシーズンを終えたアニーパワー。今季へ向けての調整も順調には行かず、シーズンの緒戦となったのが2月17日にパンチェスタウンで行われたメアズハードル(芝20F)で、ここを6.1/2馬身差で快勝して今季のチェルトナム・フェスティヴァルに臨むことになった。

 力量的には、牡馬相手でも遜色ない一方、戦績を御覧になればお分かりのように、チェルトナム競馬場との相性は決してよくない。また、90年の歴史を誇るチャンピオンハードルで、牝馬の優勝は過去3回しかないというのも、気懸りなデータではある。なお同馬は、同じく15日に組まれているG1メアズハードル、あるいは、3日目のメイン競走として施行されるG1ワールドハードル(芝23F213y)に廻る可能性も示唆されている。

 フォーヒーンの連勝を止めた今季初戦のG1モーギアナハードル(芝16F)を含めてこの路線のG1・6勝のニコルスキャニオン(セン6、父オーソライズド)、昨年11月にG1ファイティングフィフスハードル(芝16F98y)でG1初制覇を果たしたアイデンティティシーフ(セン6、父ケイフタラ)の2頭が、オッズ5〜5.5倍で2番手評価。

 14年のこのレースの2着馬マイテントオアユアーズ(セン9、父デザートプリンス)、この路線のG1・2勝馬で暮れのG1クリスマスハードル(芝16F)がフォーヒーンの2着だったザニューワン(セン8、父キングズシアター)の2頭が、オッズ6〜8倍で4番手評価となっている。

 続いて、2日目のメイン競走として行われる、スティープルチェイス2マイル路線の総決算G1クイーンマザーチャンピオンチェイス(芝15F199y)。

 この路線における確固たる主軸で、ブックメーカー各社が1.57〜1.73倍のオッズを掲げ圧倒的1番人気に推しているのがアンデスコー(セン8、父デンハムレッド)だ。仏国産馬で、祖国でナショナルハントフラットを2連勝した後、所有者が変わってこの馬も愛国の名門W・マリンズ厩舎に転厩。まずはハードルを7戦し、3つの重賞を含めて負け知らずの7連勝。14/15年シーズンからスティープルチェイスに転向したが、緒戦となったサールズのビギナーズチェイス(芝18F)でいきなり落馬して、デビュー以来の連勝が9でストップ。しかし、2戦目でスティープスチェイス初勝利を挙げると、次走はいきなりレパーズタウンのG1アークルノーヴィスチェイス(芝17F)に向かい、ここを15馬身差で快勝してG1初制覇。次走が昨年のチェルトナム・フェスティヴァルで、G1アークルチャレンジトロフィー(芝15F199y)に出て、ここを6馬身差で快勝。続くパンチェスタウンのG1ライアンエアノーヴィスチェイス(芝16F)も勝って、G1・3連勝で昨シーズンを終えている。

 今季の緒戦となったのが、12月27日にレパーズタウンで行われたG1ソークイックソーイージーアイフォンAPPチェイス(芝17F)では、最後から2つ目の障害で飛越に失敗して落馬。前走となった、1月16日にアスコットで行われたG1クラレンスハウスチェイス(芝16F192y)は5馬身差で勝って、4度目のG1制覇を果たしている。すなわち16戦して14勝し、負けた2戦はいずれも落馬というのがここまでの戦績で、飛越が雑になる癖があるという不安材料がある一方で、無事に廻ってくれば優勝候補最右翼というのが、アンデスコーなのである。

 3.5〜4.0倍のオッズで2番人気に推されているのが、昨年のチェルトナム・フェスティヴァルではG1ゴールデンミラーノーヴィスチェイス(芝19F198y)に出て、ここを15馬身差で圧勝したヴォートゥール(セン7、父ロバンデシャン)だ。ここまでの戦績13戦9勝、2着4回と抜群の安定感を誇る馬である。ただしヴォートゥールは、最終日のメイン競走であるスティープスチェイス3マイル路線の最高峰G1ゴールドC(芝26F79y)に廻る可能性も示唆されている。

 そして、オッズ5〜5.5倍で3番手評価となっているのが、古豪のスプリンターサクレ(セン10、父ネットワーク)だ。ナショナルハントフラットで2戦2勝の成績を残した後、ハードルを4戦して2勝。11/12年シーズンからスティープルチェイスを走り始めると、向かうところ敵なしの快進撃が始まり、無傷の10連勝をマーク。13年のG1クイーンマザーチャンピオンチェイスを含めて7つのG1を制し、この路線のトップに立つことになった。

 ところが、13/14年シーズンの緒戦となったG2デザートオーキッドチェイス(芝16F)のレース中に、心房細動を発症して競走を中止。管理するニッキー・ヘンダーソン師はじっくりと時間をかけて立て直しを図り、15年1月のG1クラレンスハウスチェイス(芝16F192y)で1年2か月振りに復帰。2着に好走して、関係者とファンをひと安心させた。

 だが、次走となった昨年のG1クイーンマザーチャンピオンチェイスでは、レース中に喉鳴りの症状が出て、最終障害の手前で競走を中止。レース後の検査で背中の筋肉に炎症があることも判明し、引退の可能性が取り沙汰される事態となった。

 幸いにして、喉も背中も症状は深刻なものではなく、スプリンターサクレは1か月後にサンダウンで行われたG1セレブレーションチェイス(芝15F119y)に出走。勝ち馬から6馬身差の2着になって、昨シーズンを終えている。

 この時期に再び引退が検討されたが、陣営は現役続行を決断。今季初戦となったのが、11月15日のG2チェルトナムチェイス(芝15F199y)で、スプリンターサクレはここを14馬身差で制して、2年半振りの勝利を手中に収めた。更に、12月27日にケンプトンで行われたG2デザートオーキッドチェイス(芝16F)でも、着差こそ3/4馬身というわずかなものだったが、勝利を収めて2連勝を果たし、完全復活を印象づけたのだった。

 4番人気以下は二桁のオッズを掲げているブックメーカーが多く、今年のG1クイーンマザーチャンピオンチェイスは「三つ巴」というのが、大方の見るところである。

 チェルトナム・フェスティヴァル、3日目のメイン競走として行われるハードル3マイル部門の最高峰G1ワールドハードルと、最終日のメイン競走G1チェルトナムゴールドCの展望は、次回のこのコラムでお届けをしたい。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング