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藤田菜七子騎手のデビュー

  • 2016年03月05日(土) 12時00分


周りのサポートも“必要条件”

 今週はやっぱり、藤田菜七子騎手のデビューにちなんだ話を書かなきゃいけないでしょうね。

 JRAでは16年ぶりの女性騎手誕生。初騎乗を果たした3日の川崎競馬場は、それはもうタイヘンな騒ぎ、だったようです(私は別の仕事があって行けませんでしたが)。高知の別府真衣騎手や愛知の木之前葵騎手ら、地方で活躍中の女性はいるわけで、彼女たちには大変申し訳ないところもあるのですが、この“フィーバー”は藤田騎手がJRA所属だからこそのことだろうと推察しています。

 勝てなかったものの、とりあえずデビュー初日の成績には及第点をあげていいんじゃないですか?藤田騎手目当てのお客さんも多く詰めかけ、川崎の売上アップにも貢献しましたし、大きなトラブルもなく1日をこなせたわけですから、まずはめでたしめでたし、でした(本人には悔しさも残ったでしょうけどね)。

 エラそうに私が言うまでもなく、今後の課題は、いわゆる「客寄せパンダ」に終わらず、しっかり実力を付けて立派な騎手になること。ただし、これはよく「本人の努力次第」と片付けてしまいがちですが、決してそうではないと思います。

 本人の努力が“絶対条件”なのはもちろんのこと。それに加えて、周りのサポートも“必要条件”と言えるでしょう。今回、中央の競馬場ではなく川崎でデビューできたこと、さらにそこで6クラも騎乗できたことは、さまざまな周りのサポートがあった証し。藤田騎手の師匠、根本康広調教師の言う「お金のかかった本物のレース」で乗りクラを増やし、経験を積んで将来への糧とするためには、本人の研鑽だけでなく、周りのサポートが欠かせません。

 ところで、日本の競馬で騎乗している騎手は、すべてれっきとしたプロのアスリートです。多くのスポーツが男女別々に競うのに対して、騎手の世界では男女が“同じ土俵”で競わなければいけません。一部の競馬場では女性騎手の減量ルールを設けているところもありますが、それでも重賞になると男女同条件になってしまいます。時々、男子のゴルフトーナメントに女子が参戦するとか、野球のチームに女性が加わる、なんていうことはあるものの、それは極めて希な話。スポーツの世界では、男女間の格差を当たり前のものとしてとらえています。それが騎手という職業では無視されてしまうんですよ。

「馬術にも男女の区別はないぞ!」?確かにそのとおり。でも馬術と競馬は違います。だって、競馬には牝馬の減量があるでしょう?馬と人間を一緒にしてはいけませんが、だったら女性騎手にも何らかの負担軽減ルールがあってもいいと思うのですが…。

 それはさておき、藤田騎手には、「JRAに誕生した久々の女性騎手」という、他のジョッキーにはない付加価値があります。これをフルに活かすのも、悪いことではないはずです。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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